20 黒い魔剣
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昔々、大昔。
その国には一頭の真っ白な竜がいました。
その竜は神代の頃から生きており、人間が大好きでした。
その理由は、美味しい物を沢山くれたからでした。
だから困っている人が居れば力を貸し、加護を求めている人がいれば躊躇なく加護を与えていました。
あまりにも人間と親しくしていたので、次第に彼を軽んじる者が現れるようになりました。
それでも竜は人間が大好きだったので、その地を去る事はしませんでした。
しかし、彼を軽んずるような人間が、その国の王様になってしまいました。
王様は、自国をもっと強くするために、その竜の力をなんとか奪えないかと考えました。
軽んじてはいるものの、相手は竜。本気になればこの国ですら一晩で滅ぼせてしまうでしょう。
王様が悩んでいると、一人の少年が現れました。
黒い目をした少年は、王様に助言をくれました。
「それならば、大量の酒を飲ませて眠ったところで仕留めればいい。そしてその体から武器や防具を作り出し、それを身に纏えば、その力は貴方の物になるでしょう」──と。
王様は良いアイデアだと喜び、少年に褒美を与えました。
そして少年の姿はいつの間にか消えていました。
王様は早速少年の助言の通りに、祭りと称して呼び出した竜に、大量の酒を飲ませて眠らせました。そして、その隙に息の根を止め、その体を解体し、その素材から武器や防具を作り出してしまいました。
竜が目覚めたのは、全てが終わった後でした。
彼の肉体は七つの武器や武具に加工されており、彼の魂は彼の角から作り出された剣に封じられた状態になっていました。
それまで人間を大好きだった彼は人間に裏切られたことを理解しました。
それまでの想いは反転し、竜はその国の人々をひどく呪いました。
神代から存在している竜は、魂だけになっても周りに影響を与えることが出来るのです。
特に元は自分の体だった武器や防具達は竜の魂に呼応し、呪いを宿すようになってしまいました。
それは使用者に莫大な力を与える代わりに、心や魔力を狂わせるという狂戦士の呪いでした。
力を与える代わりに、使用者は必ず死んでしまうのです。
最初にその呪いにかかったのは、件の王様でした。
王様は全身に呪いの防具を見に纏い、呪いの武器を携えて、感情の赴くままに、周りにいた人々を虐殺して行きました。
最終的には魔力が暴走して大爆発を引き起こし、王都は壊滅してしまいました。
そうしてこの国の人々は死に絶え、その新しい王様が即位して、一年も経たずに滅んでしまいました。
白銀の竜の体から作り出された武器と防具は、呪いにより漆黒へと変わり、事態に気づいたとある魔族が回収を試みましたが、そのほとんどが悪質なブローカーによって様々な国に散り、各地で今でも呪いを振り撒いているというのです。
世界に散らばった呪われた武器と防具は、戦で大いに役立ちましたが、使用者を含めて多くの死者を出しました。
長い時間をかけて、なんとか魔族は呪われた武器と防具を回収しましたが、一つだけどうしても回収ができなかったものがありました。
それが竜の魂を宿した、魔剣です。
人を憎むその漆黒の剣は、いつしか〝魔剣ネロ〟と呼ばれるようになり、今でもその在処の捜索が続けられているのです──。
◆◆◆
少年はそんなお伽話を思い出した。
目の前に浮かんでいるその剣は、確かにお伽話の魔剣のように黒く、そして禍々しかった。
自分に覆い被さって倒れる両親は、赤く染まって動かない。
二人がどんどん冷たくなって行く。鉄のような匂いが鼻をつく。
剣の鍔の中心にあしらわれた獣の瞳のような赤い石と、目が合った時、少年の意識は暗転した──。
ネロは黒という意味だった気がする。
これにて一章は完結です。
二章に続く!




