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Side:ヴィヴィ 再びの抹殺指令


 Side:ヴィヴィ



 ヴィヴィは、巨大な水晶に映し出される戒斗の姿を食い入るように見つめていた。



 戒斗は、ヴィヴィの想像を遥かに超える速度で進化を遂げていた。



 戦闘を重ねるごとに、その力は増幅の一途を辿り、奪い取った力を余すところなく発揮しているのだ。



「現場で見ていたけれど……。やはり、アレを闘技場で育てるのは危険なのではないか……」



 映像を一緒に見ているのは、闘技場の管理者である部下の魔人だ。



「ヴィヴィ様の意見に同意ですな……。闘技場で戦い続けたら、すぐにでも私の力を超えてくると思いますし、ヴィヴィ様も……。アレはもう人間と呼べる生物ではありません」



 映像の中の戒斗は、もはや以前の面影を残しておらず、幾多のスキルを取り込んだ影響か、その容姿は劇的に変化していた。



 黒だった髪は、血のように真っ赤に染まり、口元からは鋭く尖った犬歯が覗いている。



 金色の瞳は異様な光を放ち、獲物を狩る獣のような鋭い眼光を帯び、爪は黒く染まり、まるで黒曜石のように硬質化していた。



 肌は金属のような光沢を帯び始め、その異質な輝きは、彼が人間とは異なる存在へと変貌しつつあることを如実に物語っている。



「さりとて、アレが我らと同じ生物ではあるまい?」



「確かに、我ら魔人とも違う存在です。我らはダンジョン主となった上位存在の魔人の放つ魔素より、生まれ出でる存在。アレはその過程を経ていません。人間でも魔人でもない存在としか……」



 闘技場での戒斗の戦闘スタイルは、完全に破壊と殺戮に特化したものへと変貌していた。



 敵を倒し、奪ったスキルを最大限に活用し、新たな敵を圧倒していく。



 洞窟内での戦いの時よりも、動きはさらに洗練され、無駄がなく、そして何よりも残酷で残忍だった。



 敵の攻撃を紙一重でかわし、弱点属性を狙い弱らせ、的確に急所を捉え、最後の一撃で確実に仕留める。



 その一連の動作は、まるで死神が鎌を振るうかのようだった。



 さらには、ヴィヴィでさえ見たことのない異質なスキルを発動させ、闘技場の部下たちを次々と薙ぎ倒していく様は、まさに圧巻だった。



 おかげでヴィヴィは、映像の中の戒斗から目が離せなかった。



「アレは見たこともない力を使い始めておるが、どうなっている?」



 ヴィヴィの問いに、部下の魔人が答えた。



「収奪スキルの影響であるとの報告は受けておりますが、なにぶん収奪スキル自体が初めて確認されたものであり、倒した敵の力を奪うということ以外、詳しい力はまだ解析できておりません。もしかしたら、能力を奪う以外の力も付与されてるのかも。でなければ、短期間であそこまでの成長の説明ができません」



 異常とも言える戒斗の成長に強い危機感を抱き、部下たちにその原因を徹底的に調査させていた。



 しかし、部下の魔人から返ってきた報告は、ヴィヴィをさらに不安にさせるものだった。



「収奪スキルに付与された何らかの力が、意図的にアレを強化しているかもしれんという話か」



「ええ、そうとしか……」



 ヴィヴィは、戒斗の戦闘を見ながら、自身の過去を振り返っていた。



 自身もまた数多の戦いを経て、今の実力を得たが、戒斗のような短期間での急激な成長は経験したことがない。



 噂で聞いたことがあるが、ヴィネ様たちダンジョンの主である上位存在は、混淆ノ刻でこの世界に来られた時、異常な成長で力を得たという。



 そういったことが、神々戎斗の身に起きている可能性があるのではとヴィヴィは考えていた。 



「異常な成長を見せる神々戎斗は、上位存在という可能性もあるのかも」



 ヴィヴィの漏らした言葉に、部下の魔人から笑いが漏れた。



「さすがにそれは……。アレは人間でも魔人でもないですが、上位存在とは言えないでしょう。ヴィネ様と同等の存在などと言うのは不敬です」



「それもそうか……。気の迷いだ。許せ」



 口元を緩めた部下の魔人に謝罪を口にすると、ヴィヴィは映像に視線を戻す。



 戒斗の纏う雰囲気、放つ威圧感といったものが、ヴィヴィの中に恐怖とは違う感情を引き起こし始めていた。



 畏怖である。魔人ヴィネに感じているのと同じ畏怖を、戎斗にも抱き始めていたのだ。



 ヴィヴィは、ヴィネの言い付けを守り、闘技場で戦わせ続けたら、異常な成長を見せる戒斗が、近いうちに部下たちを文字通り「食い尽くす」だろうと確信していた。



 その時、戒斗は自分よりも遥かに強大な存在になっているはずだという予感もしている。



 だが、具体的な対策を立てることは容易ではなかった。



 戒斗の力がどれほどまで成長しているのか、正確に把握できていない以上、有効な手段を講じることは難しい。



 この状況を打開するために、あらゆる手段を講じる覚悟を決めた。



 たとえ、それが自身にどのような結果を招くことになろうとも。



 戒斗の成長は、ヴィヴィにとって、もはや看過できない問題だった。



「上位存在は言い過ぎたが、アレが力を持ってしまえば、誰も止められる者がいなくなる。ヴィネ様の命すら狙いかねないだろう。ヴィネ様より生み出された我々にとって、それは全力で避けねばならん。アレの成長を止め、抹殺するべきと私が思うのだが」



「私もヴィヴィ様の意見には賛成です。殺処分を支持します。ヴィネ様の怒りに触れるでしょうが、ダンジョンの平穏は守られるはず」



「では我々の判断で動くとしよう。お叱りは私が受ける。明日は、今日みたいな中堅どころではなく、闘技場の最精鋭をアレに当てて息の根を止めるのだ」



「はっ! 承知しました」



 戒斗の成長は、自身の命を脅かすだけでなく、このダンジョンの存在すら崩しかねない危険性を孕んでいた。



 ヴィヴィは、その可能性を排除するために、ヴィネの言いつけを再び破ることにして、戒斗の抹殺を選んだ。



 部下の魔人はヴィヴィの命令を実行するため、部屋から出ていった。



 その姿を見送ったヴィヴィは、映像に映る戒斗を見て、ひとりごちる。



「神々戎斗……。今度こそ、お前の命はもらう……。ヴィネ様が止めようとも、この決意は変わらぬ。私の命をかけても止める」



 ヴィヴィは、静かに、しかし確固たる決意を胸に、映像を消した。


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