第17話 ミミック
危機察知スキルが発動した!? なんだこれ!?
危機察知スキルが発動した途端、鑑定スキルも発動した。
【魔物名】ミミック(低級)
【系統】魔法生物系
【スキル名】隠蔽(音、匂い、熱など、あらゆる気配を遮断する効果。LVで効果範囲が広がる。相手に隠蔽看破スキルがある場合、発見される可能性が高まる) 雷光(個別対象の敵へ光属性ダメージを与える魔法攻撃。痺れ発生もあり) 収納(小)(空間を拡張し、大量のアイテムを収納できる。容量はLVに応じて増加。空間内の時間は停止され、鮮度は保持される)
【能力】ATK:D DEF:C SPD:C INT:F DEX:F LUK:E
【属性耐性】火: C 水: B 風: C 土: C 光: F 闇: B 毒:D 麻痺:D
【素質ランク】E
「ミミック!?」
宝箱に擬態した魔物の登場に、心臓が跳ね上がり、全身の血が沸騰するような感覚に襲われた。
直後、宝箱が大きく口を開けた。鋭い牙が並び、涎が滴り落ちるその様は、まさに捕食者というべき姿だった。
ミミックは、俺の右腕に噛み付いた。
鋭利な牙が肉を食い破り、骨にまで達する感触が伝わってくる。
あっと言う間に右腕の先が噛み千切られて消え去った。
「ぐぅうううっ! クソがっああああ!」
激痛が走り、思わず悲鳴を上げそうになるのを堪えた。
噛み千切られた右腕の先から熱い血が噴き出し、地面が赤く染まる。
「ちくしょうっ! ちくしょう! ちくしょううう! ぬか喜びさせやがって! クソがぁ!」
俺はすぐにミミックから離れ、近くに置いてあった木の棍棒を手にした。
宝箱に擬態する魔物、ミミック。
その存在は、探索者の間では広く知られている。
しかし、まさかこんな場所で出くわすなんて……ついてねぇ。
いや、こんな場所だからこそ、もっと注意しなければならなかったんだ。
危機察知スキルの発動が遅れたのは、ミミックが使っていた隠蔽スキルによって、俺の危機察知が欺かれていたってことらしいな。
隠蔽看破スキルをもってたら、もっと早く察知できたはずなのに。なかったおかげでこのざまか……。
自己再生が始まり、出血こそ止まったものの、肘から先が消えた右腕を見て、自嘲する。
ここにあるものは全部疑ってかからないと、生き残れないと思うしかない。
俺の右腕を飲み込んだミミックは、身体に帯電して光ったかと思うと、電撃が全身を駆け巡り、痛みで身体が硬直する。
「ぐううっ! 早いところぶっ殺さねえと、こっちがやられる」
腐敗毒のスキルを発動させ、霧状の毒をミミックに吹き付けた。
毒耐性の低いミミックには、有効なはずだ。
霧状の毒を浴びたミミックの外皮である木箱から白煙が上がる。
「一気に畳かかける! 右腕の借りは返させてもらうからなっ!」
俺は左手に持って木の棍棒をしっかり握ると、再使用可能になっていた狂化スキルも発動させた。
アドレナリンが全身を駆け巡り、筋力が一時的に大幅に向上する。
目に映るものを叩き壊したいという破壊衝動が高まっていく。
「うがぁあああああああああああああああっ! クソッタレがぁああああ! 俺の糧にしてやるからなっ!!」
狂化スキルで底上げされた筋力が、木の棍棒を通して倍増された渾身の一撃が、防御の弱ったミミックの身体に炸裂した。
鈍い音が響き、ミミックの身体が大きく揺れる。
鋭い歯の付いた宝箱の縁から緑の液体が噴出し、動かなくなる。
「まだ、危機察知が生きてるから死んでねぇのはモロバレだっつーの!」
死んだふりをしたミミックに対し、さらに追撃を加え、何度も何度も木の棍棒を振り下ろした。
振り下ろすたびに宝箱の中から、緑の液体が吐き出され続ける。
「死ねよ! 死ね! 死ねってんだ!」
ミミックの外皮である木箱は完全に砕け散り、中に寄生していたナメクジのような本体が、かすかに大きな口を動かし、緑の液体にまみれていた。
やがて、ミミックの動きが完全に止まった。
巨大な口は開きっぱなしになり、中から涎と緑の液体が流れ出ている。
危険察知の輝点が消え、絶命したことを告げるように、スキルの力を宿した光の球が、俺の身体に飛び込んできた。
同時にミミックの身体がはち切れて、体内からいろいろな物品が飛び出して散乱する。
「ふぅ、やったようだな。手間取らせやがってよ。中に隠してたお宝を吐き出しやがった」
ミミックを倒した安堵感と、右腕の激痛、そして失血による倦怠感で、その場にへたり込んでしまった。