第13話 擬態蟲
ゴブリンの群れが住みついていた巣窟を全滅させ、出口を求めて洞窟内を松明の明かりを頼りに進む。
薄暗い松明の光の中で、岩陰から何かがこちらを見ているような気がして、思わず足を止める。
危険察知が赤色に変化したか。
こっちを襲うつもりで擬態してるって感じだな。
木の棍棒と木の盾を握り直し、赤い輝点が光る岩壁にゆっくりと近づいていく。
一歩、二歩、三歩。
出っ張った岩に近づくと、赤く光る眼が現れた。
赤い眼の持ち主は、岩に擬態していたロックバグだ。
岩に擬態していた背中が開き、羽根が出たかと思うと、ブーンという重たい羽音をさせ、大きな口を開けてこちらへ飛びかかってきた。
「バレバレだっつーの!」
飛びかかってきたロックバグを木の盾で叩き落とす。
盾を構えていた腕にガンという重い衝撃を受けた。
俺は怯むことなく、叩き落としてひっくり返ったロックバグの柔らかい腹に木の棍棒を振り下ろした。
硬い外殻を持つロックバグは、素早い動きで飛んだり、跳ねたりして噛みついて襲い掛かってくる面倒な魔物だが――。
内臓側は柔らかいようで、潰れた内臓がはみ出て、足をピクピクさせながら絶命していた。
「はい、終わり。奇襲されなきゃ、ただの餌だな」
木の棍棒に付いたロックバグの内臓だったものを振り落とすと、持っていたスキルが俺の身体に取り込まれていく。
【スキル名】硬化 LV1
【効果】自身のDEFを一定時間上昇させる。
一時的に防御が上がるスキルか。
敵から負うダメージが減れば、減るほど、自己再生スキルでの回復力でごり押しできる。
スキルを確認していたら、危険察知スキルの警告音が鳴る。
赤い輝点が3つほど前方から近づいているのが見えた。
近くで擬態してたやつが、仲間の敵討ちに来たのか。
飛んで火にいるなんとやらだ。
カサカサと音がしたかと思うと、松明の明かりが届く範囲に岩のような外殻を持ったロックバグが姿を現す。
その動きは飛んでる時よりも素早かった。
這い寄ってくるロックバグの尖った顎がガバッと開いたかと思うと、足に向かって噛みついてくる。
「喰わせてやるかよっ!」
攻撃をかわし、踏みつけて動きを止めると、木の棍棒を何度も叩きつけていく。
「こっちはかてぇ!」
「ギギギィイ!」
何度も木の棍棒を振るい、ロックバグの硬い外殻がグシャリという音で割れた。
「これで――」
一匹仕留めたところで、重い羽音がしたかと思うと、別のロックバグが飛んできて腹部にぶつかっていた。
「ぐえっ!?」
重い石がぶつかった衝撃が身体中に響き、骨が軋みを上げる。
握っていた木の棍棒や、盾を取り落とし、そのまま吹き飛ばされるように地面に尻もちをついた。
大きく開いたロックバグの顎が顔に迫ってくる。
「喰うのは俺で、お前じゃねえ!」
顔に迫っていた尖った顎を必死に片手で押し戻す。
意外と力強くて、尖った顎を押し戻すのが困難だった。
「クソ虫が!」
近づく顎から逃れようと空いてる拳をロックバグの顔に打ちつける。
硬い外殻は、拳で殴った程度じゃ叩き割れないでいた。
顎を押し返そうと悪戦苦闘する中、視界の端にもう一匹のロックバグが這い寄ってくるのが見えた。
やばい、やばい、もう一匹来た!
もう一匹も尖った顎を開き、押し戻してる腕をめがけて噛みついてこようとしていた。
尖った顎が腕に突き立ち、痛みを発する。
幸い、自己再生の方が早いようで痛みはすぐにおさまった。
「クソ虫どもが調子に乗りやがって」
腕に尖った顎を突き立てた方のロックバグを鷲掴みにすると、その硬い外殻を仲間のロックバグに打ち付けてやった。
「ギギィ! ギィイイ!」
何度も、何度も打ちつけ、硬い外殻同士がぶつかり合うと、鈍い音を上げる。
ついに両方のロックバグの外殻が割れ、内臓が飛び出し、俺の顔に生臭い液体が降り注いだ。
「ぺっ、ぺっ、ぺっ、クソ虫どもが」
足を引くつかせていたロックバグを蹴り飛ばし、スキルを奪うと、顔に付いたものを拭い取る。
同時に鑑定が発動された。
【名前】ロックバグの体液
【種類】薬物
【魔法効果】なし
【効果】蟲系魔物を誘引する効果を発揮する。
「くっせぇ……。すげえ生臭せえな。この匂いが近くの仲間を呼び寄せるのか」
とりあえず、何かに使えるかもしれないな。
魔法回復薬が入っていた空瓶に、倒したロックバグの体液を絞り出して貯め込む。
匂いがきついのでしっかりと封をしておいた。
これで、よし。少し手間を取ったが、硬化スキルも成長したし、ゾンビ軍団たちを倒すとしよう。
俺は落としていた木の棍棒と盾を拾い上げると、ゾンビ軍団がたむろっていると思われる場所を目指した。