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帰ってきた勇者

作者: カケル

この世界に帰ってきて一か月。

僕は異世界の勇者として魔王と戦い、勝利をおさめ、そして今、この現代日本へと帰ってきた。

僕は今、この平和な時間をゆったりと過ごしている――。

「ぎゃははははっ!」

クラス内でやんちゃする不良グループ。

中でも田中はひと際目つきが鋭い。あれは人を殺したことのある目だ。

そんな彼らの標的となっている樋口。

別段仲の良いクラスメイトではない。目を付けられて可哀そうだとは思う。助けようとは思わない。それは彼自身が向き合わなければならない問題だからだ。

のんびりと窓の外を見ていると、鳩が数羽飛んでいた。

「おい、榊」

「……」

振り返る。

田中がいた。

「てめえ、調子乗ってんじゃねえぞ」

いきなり胸ぐらを掴まれた。

「すかした顔しやがって。気に入らねえんだよっ」

そして頭突き。

頭に衝撃が走る。

けど痛いのは僕ではなく。

「……」

我慢している彼の方だろう。

全ステータス一万越え。

何故かこの世界に戻っても変わらず残っているスキル等々。

軽く砲丸を投げれば世界一だ。どんなスポーツ競技でも金メダルを取れる自信がある。

「ざけんじゃねえぞてめえっ!」

飛んでくる拳。

頬にぶつかるそれ。

ゴキっという音。

田中の指の骨が折れる音だ。

僕は痛がるフリ。そして土下座して謝罪するフリ。

手を抑えて必死に我慢する田中。

僕は身体を震わせる。笑いをこらえるのに必死だった。

「ふん、わかりゃあいんだよ。次は殺してやるからな」

そう言って、彼は教室を出て行った。

保健室か、病院か。

どちらであろうと奴のプライドが傷ついたのは確かだろう。

今後の動きに注視である。

立ち上がって椅子に座り。

「平和だねえ~」

窓の外を見た。

学校の帰り道――。

「おい」

振り返ると、そこには田中と、明らかにヤバい雰囲気を纏った人間が複数人いた。

全員が悪だ。人を殺したことのある奴らばかり。

「おっかね」

僕は小さく呟いた。

「てめえこっちに来やがれ」

僕は怯えたふりをして彼らに付いて行く。

路地裏。

しかも人目に付かない場所。

前後の退路を断たれて袋の鼠。

「てめえを殺す」

そう言って、田中は懐からナイフを取り出した。他の奴らも同様にナイフを取り出す。

「え、マジで?」

震えるフリを辞めて、僕は目を点にした。

マジで僕を殺そうとしている田中達に、僕は呆気にとられた。

あまりの阿呆さに、口も開ける。

「その阿呆面、二度と拝めねえようにしてやる」

そして距離を詰めてくる彼等。

ヤル気満々のその殺気。

流石に一線を越えている。

「いや、何もしないならしないで放っておこうと思っていたんだけれどね」

ため息を吐き。

「ちょっと度が過ぎてるよ」

魔力を運用し、幻惑魔法を開示する。

突っ込んでくる輩ども。

その足が止まり、倒れていく。

「悪夢の中で泣き叫ぶといい」

田中も一緒になって地面に転がっていた。

彼等は漏れなく、夢の中へと出立している。

藻掻き苦しむ表情が如実に現れていた。

人間でない異生物が彼らをモルモットのように実験動物扱い。

手足の切断、内蔵の除去、脳への極端な刺激、エトセトラ。

残酷なまでの蹂躙だ。これまでお前たちが行ってきたそれを味わうといい。

「ふわああ……」

戻ってきてもう一か月。こっちの雰囲気に慣れすぎて眠気が来る。

向こうじゃあ普通に寝るのだって気を張っていなければならないのだ。それも常に。

それに比べたらこっちは随分と甘ったるい場所だ、まったく。

たしか、この東京で悪行を働く犯罪者どもが多かったよな。ヤクザや海外のマフィアも暗躍しているとかで治安が悪い。

大通りを少し離れれば一気に暗い雰囲気がそこかしこにあるのだ。

そういった意味では、刺激を求めて裏の世界に足を突っ込むのも悪くない。

「陰陽師とか聖職者とか色々いるみたいだし、まあ退屈しのぎにはなるかな」

この世界の神にすら、「余計なことはするな」と苦言を呈されてはいるが、お掃除程度なら多少の行動は目を瞑ってくれるだろう。

「これが俗にいう戦闘中毒者と言う奴なんだろうな」

ぺろりと舌を出して、僕は街の大通りに戻っていく。

色あせてしまった僕の人生に彩りを付けよう。

そう考え、再び闇の中へと足を踏み入れる。


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【集】我が家の隣には神様が居る

こちらから短編集に飛ぶことができます。

お好みのお話があれば幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界で強すぎになってから現実に戻るとどうなるか…その事を考えさせる良い作品でしたね…。
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