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番外編其の二

「リオネル。お前に頼みたい事があるんだが」

「あ? 頼みたい事?」

「詳しく言うとお前の友人の人形修繕師殿に頼みたい事、なんだが」

「どういう用件だ?」

 人形の国の片隅にある小さな街で天才魔法使いとして生きる俺、リオネル。春の訪れを祝う花祭りも過ぎた暖かなある日、所属する自警団の団長ジェラルドから仕事を持ち込まれた。

「この街の外れに人の住んでいない屋敷があるだろう」

「こないだ団長達が手入れに行ってたあの屋敷か?」

「そう、その屋敷だ。昔はあの家に住んでた人形師が隠したお宝が眠ってるだのなんだの、噂話が沢山あったあの屋敷だ」

「懐かしいな。俺も昔リュカと一緒に忍び込もうとしたんだっけ。それで? その屋敷がどうしたってんだよ」

「俺達自警団が手入れにあの屋敷に入ったのはお前も知っての通りだ。実は中で気になるものを見つけてな」

「勿体ぶらずに言えよ。話は結論から話してこそだろうが」

「人形達だ」

「あ? 人形?」

 団長から聞いた話。人形師の館の一階、一番大きな扉の先。人形師のアトリエだったであろう大きな部屋に、たくさんの人形達が取り残されていると。どれも古い物ばかりで、このまま放置もよろしくない。その為に人形修繕師である俺の幼馴染リュカに、彼ら人形師の残した人形達の保護を頼みたい。それが今回の仕事。

「はぁ……なるほどねぇ……」

「人形師が居なくなって早十五年、俺がまだ五つにもならんはなたれ小僧だった頃の話だ。お前はまだ生まれて一年経つかどうかって頃だと思う」

「俺が今年十六だから……ああ、そんなもんか」

「人形には神が宿る。人は神の魂の一部をお借りして、その導きによって生かされている。そんな人形達を忘れ去られたまま置いておくなんて真似、俺には出来ない。だからリュカに頼みたいのだが……」

「おう、任せとけ。あいつなら二つ返事……いや、一つ返事で引き受けてくれるはずだぜ」

 俺の幼馴染なら、人形馬鹿のあいつなら。そう確信を持って了承の合図に大きく頷く。

「人形師の家の鍵はオスカーの管理だ。行く時はあいつから借りてってくれ」

「了解」

 俺達自警団は国王直属の憲兵が居ないこの街を守る為に有志の魔法使い達によって組織された一種の軍隊である。この街の警備はもちろん、有事の際の救助活動や復旧作業も俺達の仕事。しかし問題が一つ。自警団に集まったこの有志の魔法使い達、そのほとんどは親を亡くした子供達なのだ。この俺も生まれてすぐに両親を亡くして、街の中央にある教会の中の孤児院で育てられた孤児である。つまりは身元のはっきりしない連中の集まりって訳だ。そんな俺達の身元保証人として教会の司祭が手を挙げた。その時から自警団は教会所属となり、俺達団員は教会の職員って体で活動しているって訳だ。そんな理由で、自警団の詰所として教会の一室を借りてここで活動の打ち合わせやこうして個人間での仕事の依頼をしたりする。自警団団長と副団長、その補佐官、合わせて三名は基本この詰所に篭もりっぱなし。なのだが。

 人形師の家の鍵を持っているというオスカーは自警団副団長。その副団長サマは生憎席を外していて今すぐには借りられない。いつ帰ってくるんだか、どう時間を潰したもんかね。

 そう考えて居たら。詰所のドアが開けられる。静かに丁寧に開けられたドアはほとんど音を立てずに侵入者を部屋へ招き入れた。こんな嫌に紳士ぶったドアの開け方をするやつを俺は一人しか知らない。

「今戻った」

「お、お帰りオスカー」

 目的の一人、オスカー。自警団の副団長サマ。眉間に皺寄せて、巡回先の井戸端会議で盛り上がるおばさん達から何かからかわれでもしたのかね。一緒に巡回でもしてたのだろう、補佐のジルベールも一緒だ。笑いをこらえる顔をして、これはだいぶ派手にからかわれたんだろう事が容易にわかる。

「副団長、丁度いいとこに」

「丁度良い所、とは」

「実は今団長から街の外れの屋敷の事聞いてよ。今からリュカと行くから鍵貸してくれや」

「修繕師から了承は得たのか?」

「まだ。今から行く」

「ならば駄目だ」

「えーっ! 何でだよ! 良いじゃねえか!」

「お前、それで修繕師が了承しなければ? 鍵を使う必要も無いだろう。お前に鍵を貸すのは修繕師が依頼を受けてくれてからだ」

これだからこの堅物は。こちとら団長直々に依頼を受けてんだぞ。素直に渡してくれりゃ良いじゃねえか。

「そんなの、二度手間だろ。リュカんとこ行って、ここ戻ってきて、そんで人形師の館? 時間かかり過ぎて夕飯のシチューが冷めちまうぜ」

「修繕師が受けてくれるとも限らんだろう」

「あいつなら絶対一つ返事で聞いてくれるはずだぜ。それは俺が一番よくわかってる」

「駄目だ。鍵を使うならまずは修繕師に話を通してからにしろ」

このくそ石頭め。そんなだから街のおばさん達やガキ共にからかわれて遊ばれるんだぞ。真面目なのは結構だが、真面目過ぎてちっとも融通が効きゃしねえ。

「ああそうかい。じゃあ仕方ねえな」

「さっさとリュカの返事を持ってこい」

「いや、俺は天才魔法使いだからな。鍵開けの魔法を使って入るとしよう。ああでも、鍵閉めはまだ上手く出来ねんだよなぁ。閉まらなかったらどうすっか。なぁ、クロエ?」

 わざと芝居がかった口調で、魔法使いのローブの中に身を隠した相棒へと語りかける。小さなリゼット型の俺の相棒、クロエ。ひょっこり顔を出した相棒は俺の意図を汲んだのか、俺の望む言葉を口にする。

「閉まらなかったらオスカーが閉めに行けばいい。鍵を貸してくれなかったオスカーが悪いもん」

「なっ!」

 真面目な堅物は真正面からぶつかったって揺らぐはずがない。だから横からちょっと揺さぶってやれば、ほら堅物な副団長サマの眉根の皺が消えた。

「オスカー、口を出さずに見ていたがお前の頭の堅さは天下一だな。素直に渡してやれよ」

「しかし団長!」

「あんまケチなとこ見せるとルイーズに嫌われちゃいますよぉ?」

 お、ラッキー。団長とジルの助け舟。よし、このまま畳み掛けてオスカーの奴を言いくるめてやろう。ちらりとクロエの目を見てやれば相棒は。

「お願いオスカーお兄ちゃん。鍵、貸して? リオが無くさないようにクロエが持っておくから」

 どう言った趣味だか知らねえが、堅物な副団長サマにも弱点はある。可愛がってる妹のルイーズと、小さなドールのおねだり。妹のルイーズを溺愛していると事実でしかない噂のあるオスカーの事だ、頼られたり、わがままを言われることに弱いんだろう。クロエもそれを知っているからこうしてお兄ちゃんなんておねだりする。喜べクロエ。お前のおねだりはあの堅物を打ち負かしたぞ。

「……わかった。ただし一つだけ、帰ってきたらいの一番に返しに来い。それが条件だ」

「了解了解」

 帰ってきた時よりも深い皺を眉間に刻んで、古びた鍵を手渡してくれた。よし、リュカの所に行こう。どうせ暇を持て余しているだろうから、こんな話持ち込んだら喜ぶはずだ。

「そうだ、リオ」

「んお? どした、ジル」

「あの家、一部屋だけ鍵がかかっていて掃除出来なかったんだ。すごく埃っぽいと思うから入る時は気をつけて」

「了解。リュカにも伝えとくぜ」

現在午後一時、日がくれるまでだいぶ猶予はある。今すぐ行けば夕飯までには戻ってこられるだろう。

「じゃ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。人形達の事、よろしく頼むとリュカに伝えてくれ」

「了解。行くぞ、クロエ」

「うん」

 相棒と一緒に詰所を、教会を飛び出して石畳の街を駆け抜ける。幼馴染のやっている人形の為の診療所は近い、走ればあっという間。勢いよく診療所のドアを開けて声をかけた。

「おいリュカ! 居るか!」

 これが俺達の、人形師探しの物語の始まり。年の離れた、新しい魔法使いの友人が出来た時の話の始まり。


「人形のお医者さん」番外編其の二までお読みいただき、ありがとうございます。


これにて「人形のお医者さん」第一幕、「人形師を探して」編終了でございます。

いかがでしたでしょうか。お気に召していただきましたら是非評価やブックマーク、コメントをよろしくお願い致します。


今後の活動ですが、「人形のお医者さん」の更新をしばらくお休みして、新シリーズを次の木曜日から連載予定でございます。そちらもよろしければお読み頂けると幸いです。


この度は「人形のお医者さん」の更新にお付き合いくださり、ありがとうございました。新シリーズでもお付き合いよろしくお願い致します。

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