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第十八話

 新しく焼いたガラス玉をそっとはめ込む。あの時起きた奇跡のように目覚めてくれるかもしれない。そう期待を込めて。

「……やっぱり」

 砕けた魔法石の復活の奇跡から一ヶ月と少し。同じく砕けてしまった魔法石を蘇らせようとガラスを焼いたけれど、本心は成功するはずがないとわかっていて。

「今日も起きないねぇ」

「……そうね」

 街の外れに住んでいた人形師が再び目覚めた相棒と再会して一ヶ月と少し。人形師とその相棒の子供と言えるドール達が彼女らの元へ旅立って一ヶ月。彼らに出会う前の静けさに戻った診療所で、俺と第二の相棒アン・マリーは第一の相棒、ナタエナルの目覚めを待っていた。

 砕けて粉々になってしまったナタエナルの魔法石の一部をガラスと共に焼いて作ったドールアイ。とろける蜂蜜のような優しい黄色の目は未だ開かれず。魔法石を焼いてガラスに混ぜるの、何度も練習したんだけどな。溜息一つ。溜息をついたら幸せが逃げると言ってすっ飛んでくる小さな友人は今頃母親と共に幸せでいるだろうか。彼がいない診療所はとても寂しいものになった。でもこれがここの元の姿。いい加減慣れるしかない。

「はあ、なんだか退屈ね。私達は暇な方がいいんだけど」

「少し忙しすぎたんだよ。のんびり出来ていいじゃないか」

「そうね、腰を落ち着けて新聞を読むのも悪くないわ。忙しかったらそんなこと出来ないもの」

 晩春ののどかな日差しにゆったり流れる時間。マリーと一緒にどこか散歩に出かけるのも素敵な一日になりそうだ。

「マリー、お散歩でもどう? 日差しが暖かくてきっと気持ちいいよ」

「散歩もいいわね。そうだ、急いでお弁当作るからピクニックにしない? ルイーズ達も誘ったら来るかしら」

「来てくれるかな。俺から声をかけたら来てくれそう。お弁当なら汽車の中で食べたあのサンドイッチがいいな」

「ふふ、了解」

 二人でささやかなピクニックの準備をしていると不意に店のドアベルが鳴った。

「リュカ、マリー、いるかしら」

「ルイーズ! ちょうどいい所に!」

 ドアベルを鳴らしたのはこの街一番のブティックの娘、ルイーズとその相棒のクラリスちゃんだった。

「ちょうどいいって、どういうことかしら」

「あんまりお天気がいいものだから、ルイーズ達を誘ってピクニックとかどうかなって準備してたところなんだ」

「あら偶然。実は私達もそんな感じだったのよ」

「クラリス達もお店のお手伝い終わって退屈だから、マリーお姉ちゃん達とピクニックしたいなって」

「お弁当も作ってきたのよ。クラリスが手伝ってくれたからすごく美味しく仕上がっちゃって」

「私達は今からサンドイッチを作る所なの。クラリス、良かったら手伝ってくれない?」

「うん。クラリスもお手伝いする」

「俺はバスケットの準備でもしておくよ。出来たら出来たら声かけてね」

 台所は女の子達に任せて、ピクニック道具の準備を進める。大体の準備ができた時、ルイーズに背後から声をかけられる。

「リュカ……」

「ど、どうしたの」

 幼馴染のあまりにも悲痛な顔。台所で何かあったのだろうか。何か事件が起きたような大きな音は聞こえなかったけれど。

「何かあったの?」

「何も無い、何事も無いわ」

「だったら何でそんな顔」

「クラリスが可愛すぎて死にそう」

「ああ、はいはい。いつもの発作ね。そっちは専門外だから人間の医者にかかることをおすすめするよ」

「本当になんであんなに可愛いの……。あんな可愛さ振りまいてたらいつか死人が出るわよ。危険すぎる可愛さだわ。うちの子ながら末恐ろしい……」

「何だか最近発作が酷くなってない?」

「当たり前でしょ? うちのクラリスにナポちゃんが変な事教えるから! 可愛さ百倍増しで私の心臓が持たないのよ!」

 ナポちゃん。一ヶ月前までうちにいた小さな友人。手のひらサイズの小さな体を活かして可愛さを振りまくのを得意としていた友人の名前。

「ブリジットさん、大丈夫かしら。相棒のクラリス相手に私がこうなってるんだもの。我が子のあの可愛さ相手ならうっかり心臓が止まってしまってもおかしくないわ」

「やめてよ縁起でもない事言うの」

「これは失礼。でもそう思っちゃうくらいナポちゃんも可愛かったわね。ブリジットさんやモルガン達と一緒に元気にしてるかしら」

「元気にしてるよ。きっと、きっとね」

 きっと幸せでいるよ。今頃俺達みたいにのんびりピクニックでもしようとはしゃいでいるだろうさ。大切な我が子や相棒と一緒に幸せでいるさ。

 あの子たちがいた頃を思い出してふと寂しくなる時がある。この静かな診療所が賑やかだった頃を思い出して、暖炉の火が消えたように寒々しくなる時がある。それもあの子達が母のそばで幸せに暮らしている証拠なのだから、寂しいなんて思うのは如何なものか。

「ちょっと湿っぽくなっちゃったわね。私、ちょっと台所に戻って二人の様子を見てくるわ」

「うん。わかった」

 一人ぽつねんと取り残される。窓から日差しが入っていても、灯りをつけていても寂寂とした暗さが残る。今日はまだ使われていない受付にも、診察室のデスクにも、小さな友人の姿は無い。騒がしいと思っていた存在だけれど、いなくなればなかなかどうして、静かなものだ。俺の診療所は元々賑やかだと思ってたんだけどな。

 胸にぽっかりと穴が空いたような静寂を、乱暴に開けられたドアベルの悲鳴が切り裂く。ああもう。人が感傷に浸ってる時に、あの乱暴者は!

「リオ! ドアは静かに開けてっていつも言ってるじゃないか!」

 予想的中というか、全くもっていつも通りというか。乱暴にドアを開けたのは察しの通り、幼馴染の一人であるリオネルだった。

「悪ぃ悪ぃ」

 なんて言ってのける口ぶりはこれっぽっちも悪いと思ってない。

「そろそろこの診療所もドアにちび用の扉を付けてやったらどうだ」

 人形用の小さいドアなんて付けてもお前は結局今入ってきたドアを乱暴に開けるんだろ。抗議の目線を訪ねてきた魔法使いに向ければ、何かをつまみ上げている。見覚えのある形だ。


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