三匹の獣 其の弐
砕けた体に活を入れ駆け出す。
先程は一撃で吹き飛ばされたその足元へと。
振るう刃は先程より遅い。だが、その鋭さは先程に勝るとも劣らない。
一撃をもらった間合いに踏み込む。
狼パンチが飛んでくる、それを剣を縦にして受け止めようとする。しかし、人外の膂力は人間が止めるにはあまりに強すぎた。
吹き飛ぶ体、その様子を見ていた金色の狼は呆れていた。
「なぜ勝てぬ戦いを挑むのか、人間よ」
そう呟く、呆れたような表情。だが、その表情は次の瞬間驚愕に変わる。
吹き飛ばされる。体が回転するさまを肌身で感じていた。今度、地面に叩きつけられたら今度こそ立ち上がれないだろう。
体を回す、吹き飛ばされた衝撃を殺しながら、空中で自分の体勢を制御する。勢いを殺しすぎると回転することができない、かといって殺さないと地面のシミになるのは分かりきっている。所見ではその加減が難しい。しかし・・。
経験したことがあるその回転をいなすのはそう難しいことでもない。
吹き飛ばされ、剣で軽減したとはいえ前足の一撃をくらい少なくは無いダメージを貰っている。それでも騎士は二本の足で大地を踏みしめる。
そしてまた駆け出す、黒狼へと。
三回目の間合いへの侵入、今度も黒狼の一撃が襲いかかる。大地をえぐる一撃、またしても剣を縦にして受け止めようとする、グラン。
土埃が舞う。風を切る音がその一撃の威力を証明する。振り抜かれた前足、飛び退る黒狼。
土埃が晴れた、その中から姿を表したのは剣を盾に膝を付きながらも吹き飛ばされずにその場に留まるグランの姿であった。
黒狼の頭を疑問が埋め尽くす。なぜだ、先程までは対処すらできていなかったではないか、止められるはずがない。
ありえない!
疑問は恐怖へと変わり頭の中をその感情だけが支配する。その感情を振り払う為に前足を振るう、今度こそ眼前の敵を破壊しろと本能が叫ぶ。そこに先程までの知性溢れる姿見る影もない、ただ本能のままに力を振るう獣がいるだけだ。
バカが、そう思う。
いかに力が強くとも、いかに速さが極まっていようとも知性のない獣では意味がない。速さを、力を、活かせなければその強さの底は見える。
故に踏み込む、嵐の如く振り回される黒狼の前足を前にしながらそれでもなお、一度前へと進み始めた船は例え嵐だろうと越えていくのだから。
今まで剣で受け流していた、その嵐を今度は避ける。紙一重ギリギリで掠るだけで命を奪うその突風を躱す。
最初はギリギリで躱していたその嵐を今度は余裕を持って避ける。そして段々とギリギリで避ける、攻撃と体が近くなる。しかし、掠りもしない。
最初はギリギリでの回避、次は余裕を持って回避、最終的には余裕を持ったギリギリでの回避。ギリギリで避けることで回避から攻撃に繋ぐ動きを減らし間合いを測る。
攻撃を避けることは可能になった、受けきることもできる。ただ、一つだけできないことがある。
それは・・・・。
有効打を与えることだ、彼の本来の愛剣ならば話は変わるであろうが、背中に背負うのは今の相棒でこそあれど愛剣ではない。
故に頼る、他者の力は借りる。
一人と一匹の勝負にもう一匹の獣が吠える。
金色の狼は雷電を纏う。
今回も読んで頂き本当にありがとうございます。感想、評価、ブックマーク等をして貰えますと作者のモチベーションが爆増いたしますのでどうかお願いします。日曜日にも更新を予定していますので明日もお楽しみに。
ではまた物語の中で