森の主
目をさます、目の前に飛び込んできたのは見知らぬ家具に見知らぬ壁。ここがどこかさえわからない。体に染み付いた教育が武器に手を伸ばさせる。しかし、その手は空を切る。
「ここは?あのバカ野郎に刺されたあと俺はどうなった?」
混乱する頭をまとめようとしていると、ギィィという音と共に扉が開く。
「ふむ、目を覚ましたか」
声の主は魔女だった。ローブを着込みつばの広いトンガリ帽子をかぶった彼女はベッドの上の獣に語りかける。
「まずは混乱していると思うから水を飲みなさい」
持ってきたお盆をベッド脇に置くと水を飲むように促す。コップを手に取り痛む体を無理やり起こし水を呑んでいると魔女が話し出す。
「あまり無理をするでないぞ、死んでいてもおかしくない傷なんじゃからなその傷は」
体を見ると胴体に包帯がぐるぐる巻きにされてあり、何度も包帯を変えたのであろう跡が残っていた。
「この処置をしてくれたのはあなたか、ありがてぇ。この恩は必ず返す」
頭を下げる獣に魔女は苦笑しながら話し出す。
「何、大したことはしていないさ、回復魔術すら必要なかったからね。それに人を助けるのは魔女としての仕事でもあるから。そんなことよりあんたは何者なんだい?このトワイライトフォレストに入れた時点で只者では無いじゃろう・・」
捨てようとした過去を拾うときがこんなにも速く来るとは思っていなかった獣は苦笑いを浮かべながら話し始める。
「あー、俺はアスメリア王国王国騎士団所属のグランドと言う。騎士団所属は元だがな。インゴットプレートはアイアンだ。呼ぶときはグランと呼んでくれるとありがたい」
おかしい、只のアイアンがこの森に入れるはずがない、魔女は訝しむ。本来は心臓を貫き通し体を貫通していてもおかしくないほどの力が込められた一撃。それだけの一撃がこの男の体には振るわれた。しかし、その刃は男の体を貫き通すことはなく、心臓にすら届いていなかった。刃は男の鍛え上げられた筋肉に阻まれていた。
「そうか、一つ聞きたいことがある。おぬしはなぜこんな所に来た、いやなぜ国を抜けた?」
その一言を聞いたグランは息を吸い込み、そしてゆっくり吐き出し。話し出す。
「簡単だよ、クソみてぇなことをやってたから抜け出した。それだけだ深い意味はない。本当にな」
確かに理由は説明しているが、肝心の内容は話していない。そんなことがわからないほど魔女は鈍くないし、グランも分かって言っている。
「今度はこっちが質問する番だ、魔女さんよ。聞きたい内容は二つだけ、一つ目はあんたは何者かってこと。これは答えたくないなら答えなくても別に構わん、乙女は秘密を抱えてるもんだからな」
少しおどけた口調で話しかけるグランに魔女は苦笑いを浮かべていた。見た目こそ若いが本当の年齢は百歳を超えているのだから。
ここでグランの目つきと口調が変わる。その目線は人というよりは獣に近く数々の修羅場をくぐり抜けて来た魔女でさえも体を硬張らさせた。
「なんで俺が生きてる?あの刃は確実に相手を仕留めるための刃だ、トドメこそ刺されなかったが本来はそのままあの場所で獣か魔獣に喰われて死んでいくはずだった。もう一度聞くぜ?なんで俺が生きてる?」
「いや、誰が俺を守った?そこだけ教えてくれや、な?」
問いかけるのではなく問い詰めるような口調のグランに対し最初は驚いた様な表情を見せた魔女だったが、それでも彼女は悠久の時を超えてきた古兵だ。
グランの視線を真っ向から受け止め、睨み返しながら話し出す。
「ふむ、なぜそんなことを聞くのじゃ?おぬしからしたら関係の無いことでは無いのか?それにその視線を人に向けるのやめい。怖いわ、お主」
少し驚いた表情を見せたグランは自分の眉間をもみほぐし睨みつける視線を変えようとする。そしてもみほぐした続けたまま話し始める。
「すまんかったな、怖がらせたみてぇだ。以後は気をつけよう。俺が自分を助けたやつを知りたがる理由か?これも簡単だよ、そもそも俺は口が上手くなくてな言いたいことは簡潔にがモットーだ」
「俺が自分を助けたやつを知りたがるのはな、借りを返すためだ。俺の信念なんだよ、借りた恩と仇は確実に返せってな。これだけは譲れん」
静かに聞いていた魔女だったが話が終わると頷きながら話始める。
「お主を助けたのは・・・」
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ではまた物語の中で