目の前の暗闇に
暗闇の中、ふわふわとした感覚につつまれ、アルトは目を閉じていた。
次々と過去の思い出が蘇る。
努力した。
認めてもらう為に。
あの娘との約束を果たすために。
残酷だと。
冷酷だと恐れられた。
言いたいやつには言わせておけばいい。
ただ。
約束を守る為に必死だった。
あの娘を、誰にも盗られたくなかった。
俺だけの…………
真夜中。
外の騒がしさでアルトは目が覚めた。
ゆっくり体を起こすと、勢いよくシーグルが中へ入ってきた。
「ア、アルト様っ……」
走って来たらしいシーグルは肩で大きく息をしている。
めったに走らない彼が走ったと言うことは、それだけ早く伝えなければならないということだ。
顔を上げ、シーグルの様子にアルトは眉をひそめた。
アルトの表情も固くなっていく。
「どうした?」
妙な胸騒ぎがするが、意識の外へとおいやる。
アルトの問いに、やっと話すまでに息を整えたシーグルが伝えた。
「ユリア姫が、て…テントから、っ…消えました…」
「ユリアが……き…えた…?」
シーグルの言葉にアルトは目を見開く。
そして小さく反復した。
「侍女殿が起きた時にはもうテントから居なかったようです。衛兵が言うには、足跡が残っており、森へ入っていったかもしれないと……って、王子!!どちらへ!?」
シーグルの言葉を最後まで聞かず、近くの剣を取ってアルトは出入口へ向かう。
慌て止めようとしたシーグルを振り払い、アルトは駆け出す。
「っ…あのバカ…!!」
剣を腰に差し、外へ出る。
すでに衛兵たちが、辺りの捜索を始めているようだった。
アルトは、そのまま指揮をとっている衛兵へと声をかける。
「殿下!」
「今、シーグルから聞いた。」
言葉を繋げようとした兵に、知っていることを伝える。
時間が惜しい。
「状況は?」
「ここから、北へ向かった可能性が高いと…」
「分かった。そんなに遠くへは行ってないだろう。
このまま、俺が北へ行く。そのまま、捜索を続けてくれ」
「はっ!」
敬礼をとる兵に軽く頷くと、
迷わずにアルトは北へ向かって走り出した。