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紅き宝石  作者: 神崎寧々
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図る距離



王都をでて2、3日がたった。


アルトと一緒に馬に乗ってから、日々、少しずつ仲良くなっているとおもう。



天気のいい日は、よくアルトの馬に乗った。



他愛もない話も笑ってできる。



でも…指輪の事や迎えに来た発言になると、すぐ話題をそらす。




首都を越え、街をも越えると、山と野原が永遠に続いているような場所へ出た。



「……ひっろーい……」



ポツリとこぼしたユリアの言葉にアルトは説明を加える。




「ここがフローリアの最南端だ。あそこにある大きな山を越えれば、エスカールに入る。」



まだ先に小さな山が見える。遠く離れているからだろう、大きいという山さえ小さく見える。



「遠いんだね、」



呟いたユリアの言葉に答える人はいなかった。




「あ…」



大人しくアルトの馬に乗っていたユリアが何かに気付いたらしく、トンっ とアルトの手を叩く。



「ねぇ…あれ…」



ユリアが指差したのは子猫だった。


母猫とはぐれたらしく、1匹 草原の中で小さく鳴いていた。


拾いたい衝動に襲われたが、馬車からじっと見つめてくるリーシャの視線に阻まれた。




「いいですか?姫様。毎回毎回散歩ついでといって何でもかんでも拾ってくるんじゃありません!!

ユリア様が拾って来た猫20匹、犬18匹……」



何回この言葉を聞いただろう…

ユリアのお陰でフローリアの王宮はペットに困らない。



でも…あの子猫は可愛い!!



じっと子猫を見つめていると、急にアルトが馬を止めた。



「ぅきゃっ!!」



急に止まったので崩れたバランスを支える為に馬に捕まる。



「ちょっと、急に…」



止まらないで。と文句を言おうと振り返るとアルトはスッと馬から降り、ユリアが見つめていた子猫を抱く。


そのままユリアの横へ行くと、ずいっと子猫を差し出した。



「こいつか?」



差し出された猫にユリアの顔は輝く。


ミャーッと鳴く猫にユリアは笑みを溢した。



「…ありがとう。」


「いつまでも横向かれてて落ちてもらっちゃ困るからな。」


「…そんなヘマしません。」



アルトの言葉に少しむくれながらも、両手で猫を受けとると大事に胸に抱くと笑顔が溢れる。


その様子を見てアルトは満足し、またユリアの後ろに乗り、馬を進める。


高い山を目指して。



山へ入ると、危険だと言ってユリアは馬車の中へ入れられた。



「…外にいる方が好きなのに…」



ふてくされたようにユリアは膝の上で丸くなっている猫を撫でた。



「あらまぁ…ユリア様…そんなにアルト様と一緒の馬の上に居たかったのですね。」



ニコッと笑ったリーシャの言葉に、あり得ないと言った顔を向ける。



「どこをどう取ればそんな風に聞こえるのかしら…」



「すべてリーシャには分かっています。」



「分かってない。絶対分かってないでしょ。ねぇ、」



なぜか体の体温が上昇していくユリアへリーシャは一蹴した。



「ユリア様がアルト様を好きになられて…嬉しく存じます!!」



期待に満ちたリーシャの笑顔にユリアは大きなため息をついて猫の背をなでた。




「アルト様。」



控えめに呼ばれ、振り向くと

シーグルが笑っていた。


そんなシーグルの表情に書いてある事を読み取ったアルトは何も言わずにまた前を向いた。

しかし、シーグルはそれを口にした。



「ユリア様喜んでおられましたね。」



あの猫の事だ。



「アルト様が他人に優しくする場面など、久しぶりに見ました。」



和やかなこの言葉。

少々失礼だ。



「俺はお前にいつも優しくしているつもりだぞ?シーグル」



挑発的な笑みでシーグルを振り返ったアルトにシーグルはにっこりと笑って



「なら、少しでも僕の言うことも聞いてほしいな。」


「…………」



黙ってしまったアルトにシーグルは心の中で笑った。



本当に、久しぶりに見た。

他人に気をかけるアルトを。


ユリアの存在は

アルトの大部分を占めている。


冷徹で残酷。

無感情とまで言われたアルトがここまで感情を出す女性。


いつも冷静な彼が、彼女に振り回されている様を見て

シーグルは微笑みながら、彼をみつめた。

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