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紅き宝石  作者: 神崎寧々
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動き出す運命

朝食を終え、リーシャと共に謁見室へ向かった。


ここに来るときはいつも、何か大事な話があるときだ。



「毎年、生きがいのように開催してくれていたのに、なんで今年はなかったのかしら」


「どうしてでしょうね。私も、今年は準備しなくていいと言われて、理由をお聞きしても教えていただけなかったのです。ユリア様も、もう16歳。そろそろ結婚するとか」



リーシャの言葉に一瞬頭が白くなる。



「…まっさかぁー!」



「ですよねー。」



ないない。と言えば笑顔で同意された。


これはこれで複雑だ。



「姫様も、もっと姫様らしくしなきゃ…。お育てした私が恥ずかしいです」



わぁと手で顔を覆うリーシャ。

もちろん泣く演技だ。


実はリーシャはユリアより幼く見えるが、実際はリーシャの方が2歳上である。



そしてリーシャがユリアに対して軽く話せるのも、ユリアとリーシャが幼い頃から一緒に居るからだ。



流石に公共の場では主従関係が出てくるが。



「…姫様らしくって…ただちょっと私の方が行動力があって、好奇心旺盛で、体を動かすのが好きなだけなのに…………」



「そこが違うのです!」



ビシッと指を立てるリーシャは、お姉さんみたいにみえる。


ユリアはリーシャを侍女としてではなく、姉の様に思っていた。



「…善処します…」



そう小さく呟いたユリアの頭をリーシャは微笑んで撫でた。






「失礼します。ユリア様をお連れしました。」


「入れ。」



リーシャが戸を開け、ユリアが入る。

謁見室に入るとユリアの顔が引き締まった。



「お父様…」



顔を挙げれば玉座に座るのはユリアの父。

そしてフローリア国の王ラガル・レンス=フローリア。



その隣には母であり王妃の

ナディア。


なぜかナディアの顔には影がさしていた。



声をかけようか迷っていたユリアにラガルの声が入り、母に声を掛けるのを諦め、父を見る。



「ユリア…10年前に交わされた隣国エスカールとの平和条約を知っているな?」


「は…はい。知ってます。」



フローリアとエスカールとの平和条約。



物質が豊富で、作物にも恵まれ、技術も高いフローリアは小国で、周りは大国に囲まれていた。


いつ、どの国が侵略に来てもおかしくない状況の中、平和条約を提示してきたのは、

周りの大国の中でも軍事力が高く、経済的にも成長していたエスカールだった。


今までフローリアを狙っていた1番の強敵国エスカールが、急に平和条約を提示したのだ。



「実はな…その条約には裏があってな…」



「裏…」



ガタッと玉座から立ち上がり、ラガルはユリアに近づく。

そんな父の行動に驚いていると、ガバッとユリアを抱き込んだ。



「お…父様…?」



「平和条約の条件が…お前とエスカール国の王子との結婚だ。」


「はい?」



泣き叫んだ父の声に、情けない一言が出ただけで、ユリアは目を丸くして母を見れば、布で目を押さえている。


これがお母様の涙の理由?

抱きついている父を見れば、声を上げて泣いている。


威厳なんて最早ない。



ナディアまでもが近づき、ユリアを抱き締める。



「本当の事なの……?」



両親の行動が確信に近づいていく。

リーシャを見れば目を丸くして固まっている。



「お前が16歳になったら…という約束なんだ。」



「16…」



今日じゃない。

まだ…おめでとうも…

言ってもらってないのに…


それに…


好きな人が居るんです。

幼い頃から想い続けた人が…



「………私っ…」


言いかけた言葉を飲み込む。

…拒否したらどうなる?


平和条約は無くなるだろう。


今はエスカールとの平和条約があるから、むやみに大国は攻め込んでこない。


でも無くなれば?


フローリアみたいな資源が溢れる小国…

ひとたまりもない。



徐々に目が潤ってくる。

でも、零れない様に上を向いた。



私は…王女だ。

国を、民を守る義務がある。


上に立つものは…

私情だけで生きてはいけない。



「…大丈夫よ。お父様、お母様……」



ユリアの言葉に両親は顔を上げてユリアを見つめる。


ユリアはあげていた顔を戻して、にこりと笑って見せた。



「心配いらないわ…国の為だもの。エスカールに嫁ぎます。」



そう言って笑ったユリアの目から

我慢できなかった一筋の光が走った。



「ユリアっ」



叫びながら更に強く抱き締めて来た母と無言で耐えようとする父をみて、ユリアも涙が溢れて来た。


リーシャも泣いている。



ユリアは愛されて育てられてきた。

それを今 一番実感している。



「父上っ!!」



バンッと大きな音を立てて謁見室の扉が開いた。

誰もが扉へ視線を移す。



「……何?どうした?」



扉へ視線をやるとユリアと同じ金色の髪をした少年がたっていた。



「父上っ!!」



ズカスカとラガルに近づく金髪少年。

彼はフローリア国第一王子のリーグ。


ユリアより2つ下の弟である。



「…リーグ?」



ユリアにしっかり抱きついていたラガルは、リーグの姿と威圧に顔を上げ、体をユリアから離した。


そして近づいて来たリーグは怒りで叫ぶ。



「姉上が結婚って…どうゆう意味ですかっ!!」



しまった……!!



この場にいる全員が思っただろう。

リーグとユリアを除いて。



「僕の姉上がエスカールに嫁ぐ!?何てふざけた条約…即刻破棄してくださいっ!!」



「「え!?」」


突飛な言葉に、思わずその場にいた全員が固まる。

この言葉には、さすがのユリアも眉をひそめた。


こんな無謀な要求をした少年は、美しく、聡明で、体力もあり、完璧だった。


ただ1つの欠点を除いて。



「リーグ、そんな事を言って、条約を破棄してしまえば…

フローリアは侵略されるわ。」



目に涙を貯めて言ったユリアに、リーグはゆっくりユリアとの距離を詰めながら、ニコリと笑った。



「侵略なんてさせないよ。

そんな事されたら姉上が泣くだろう?

姉上の涙なんで…僕見たくないんだ。

でも……それ以上に姉上を連れていく輩なんて、僕の敵だね。」



ハッと吐き捨てたその言葉は周りの者を凍りつかせた。

そう、完璧なリーグの唯一の欠点………


極度のシスコンなのだ。

姉のことになると、もはや手はつけられない。



こうなると思ったからラガルもナディアもリーグにはこの場に呼ばなかったのに。


一体誰が吹き込んだのか。



「リーグ…軽はずみな言動は慎みなさい?」



ナディアがリーグをたしなめるとリーグは、ぎゅっとユリアに抱きついた。



「何よりも大事な姉上の一大事なんだ!!ちょっとの事に考えなんて着いていかないよ!!」



「リーグ…私もあなたが大好きよ。」



抱きついて来た弟をユリアは笑顔で抱き締め返す。

ユリアには"何よりも大事な姉上"しか聞こえていない。


はぁっとため息をついたナディアの肩を抱いたラガルがリーグに向き直った。



「リーグ…私はこの事をお前には教えていなかった。誰に聞いたんだ?」



ラガルの問いにリーグは少し視線を下ろし、敵対心丸出しで謁見室の扉を指差した。

全員が開けっ放しの扉に注目する。



「廊下で会った人。本当は連れてきたくなかったけど。」



その言葉に、今まで隠れていたのだろうか?

扉の向こうにリーグに呼ばれた人物が現れた。



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