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紅き宝石  作者: 神崎寧々
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伝えたい想い


左右上下。縦横無尽に料理の上をユリアの手は行き来する。

机の上に用意された料理を片っ端から片付けているユリアは口に詰め込みながら言った。



「やっはり、はれなきゃへ」



訳すと「やっぱり、食べなきゃね」だ。


数日を飲み食いせず暮らしたユリアの体は限界だった。

笑顔で平らげていくユリアへリーシャが慌てて部屋へ入ってきた。



「大変ですユリア様!!」



走ってきたのか息切れするリーシャを落ち着かせながらユリアは尋ねた。



「何かあったの?」


「あっ…アルト様がっ…明日…出陣らしい…です。」



切れ切れに言うリーシャの言葉にユリアはそう。とだけ答えた。




月が昇り、月光を頼りに暗い通路を歩く。


コツコツとヒールが鳴るのはユリア1人の物だ。



人目を忍ぶようにやって来た先はアルトの部屋。


ドアの隙間から漏れる光より、アルトはまだ寝てはいないらしい。


ノックしようか手を挙げるが、叩く寸前で止まってしまう。

そして胸に押し付け深呼吸をしてからまた手を挙げる。


こんな姿を何回か繰り返す。



「ああ…私のバカ。」



涙が出そうな勢いで項垂れる。

もう いいか。とドアに背を向け帰ろうとすると

腕が伸びて捕らえられる。


「なっ………」


叫ぶ暇もなく部屋へ引きずりこまれる。



パタンと目の前でドアが閉められる。



「こんな時間の訪問は感心しないぞ?」



真後ろから聞こえて来た声に胸が震える。

背中から伝わる温もりは確かに会いたかった人で。


口に当てられた手を外し振り返ると、アルトが微笑んだ。



「そんなに俺に会いたかったのか?」



自信満々に言うアルトに声も出ず、ただ無言で抱きついた。


抱きついてきたユリアの行動はアルトの予想外の事だった様で、一瞬戸惑う素振りを見せたが、すぐにユリアの背に手を回す。



「………痩せたな」



会いに行けなくてごめん。と呟かれ、ユリアは手に力を込めた。



「…会いたかった。」



小さく呟やいたにも関わらず、アルトには聞こえていた様で、不意をつかれたように笑顔になる。



「……絶対帰ってきて。」



祈りを込めて呟く。

私は祈るから。



「ああ約束する。」



優しい言葉と一緒に頭に置かれる手に幸せを感じる。



「言いたい事があるの。」


「何?今でも聞けるけど?」


「ダメ。」



アルトの服をつかみ、見上げるユリアの目は潤んでいた。



「約束よ。……約束守ってね……」



小さくなる声を絞り出す。



「分かった。約束する。」



抱き締められる温もりに涙が溢れる。



ランプの着いていない部屋に月光だけが輝いていた。






「お前を誰にも渡さない」





そのために、勝って帰って来ると。



お守り代わりにと

渡そうとした、あの指輪は突き返された。



「これはユリアにあげたんだ。お前を守ってもらう」



そう言われて、温かくなる心に比例して、言いたくなる。


気持ちをさらしたくなる。



行かないで。



言いたいのに言えない。



私に、馬の上でも剣を扱える技術があったら。

体力があったら。

姫じゃなかったら。



同じ場所で戦えるのに。



そう心に浮かんだ気持ちを




押し潰した。






私が女で姫で、アルトの隣で戦えないのが



現実だから――――



だから私は




―――祈るの―――


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