動いた気持ち
平和な日々が過ぎ、結婚式も後1ヶ月になった頃ユリアは小さくリーシャにつぶやいた。
「ねぇ…リーシャ。」
「なんでしょう」
手際良くお茶を準備するリーシャの作業は美しく、ユリアはそれを眺めながら言った。
「……私、アルトが好きなのかもしれない」
ガシャッと音がした。
リーシャの手からポットが滑った様だ。
リーシャは少し驚いている。
「え…あ……ユリア様?」
いきなり何を。と思っているのだろう。
それはユリアも思っている。
そっと胸から指輪を取りだし眺める。
そして口を開く。
「私ね、ずっとこの指輪をくれた人が好きだったの。」
幼い記憶でしか残っていない大好きな人。
「エスカールからの条約結婚で、この人の事を諦めないといけないって…悲しかった。」
つむがれるユリアの気持ちにリーシャは俯き、静かにお茶を入れ直す。
「で、現れたアルトの印象は最悪。勝手にこの指輪の人だとか、お前の結婚相手だとか言い出すし、意地悪だし、口悪いし。」
過去を思い返すと、多少は苛立つ。
なんたって、強引で、俺様で意地悪で。
「ふっ…………大嫌いだった。」
遠い目をして吐き捨てたユリアは、無言で苦笑いするリーシャからお茶を受けとる。
「でもね……嫌いな筈なのに。…………彼、優しいのよ。」
バカにしていても、肝心な時には助けてくれる。
強引さの中に優しさもあった。
徐々に惹かれていく自分がいた。
「いつからか…この指輪の人がアルトかもしれないって思い始めた。」
そう言ってカップに口を着けた。
リーシャは黙って聞いている。
「今では………もう、どっちでもいいんだけど。」
控え目に笑ったユリアへリーシャは少し心配になる。
少し歩みでてユリアの手を握る。
「ユリア様。ご自分の気持ちに正直になって下さいね。ユリア様が何処へ行かれようと、リーシャは…何処までも着いていきます。私の可愛い姫様の所へ」
「リーシャ…っ…」
リーシャの言葉にユリアの目が潤った。
そのままユリアの首に抱きつくと、弱音をはいた。
「っ……どうしよう……私…好きなのっ……アルトが好きっ……でも……アルトは思ってないかもしれないっ……条約の為だけにっ……私に優しいのかもっ………」
そんなことは絶対ない。と思った。
あんなに堂々と好意をぶつけてくる男はそういない。
「大丈夫ですよ。ユリア様は私がお育てした姫様ですもの。自信を持って下さい」
「っ……リーシャぁ……」
再びきつく抱きついて来たユリアをリーシャは受け止めた。
やっと気付いた気持ちがある。
私は
アルトが好き。
そう気持ちを込めて指輪を握りしめた。