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紅き宝石  作者: 神崎寧々
13/24

変化


初日以来、アルトが訪ねて来なくなった。


仕事が溜まっていたらしい。


代わりに、と

アルトから1匹のネコを貰った。

あの、旅の途中に出会った子だ。


白いフワフワの毛が揺れる。



「わぁ、ふふふ。元気ね。」



一目で気に入ったユリアは、大切にネコを抱き上げる。



「あらら。元気ですね。」



リーシャもはしゃぐユリアを見て微笑んでいる。



「本当に…それに、綺麗だわ」



日に透けて、きらりと光る。

優しく撫でてやると気持ち良さそうに寄ってくる。



「名前、お決めになったのですか?」


「んー…まだー。」



ずっと考えているが、全く思い付かない。

色々名前が出てくるが、しっくりこないのだ。



「それにしても…」



ほぅっと息を着いたリーシャを見上げる。



「一体、いつにな

ったらユリア様の結婚式が行われるのでしょうね。」



その言葉にユリアは固まる。

そう、エスカールに入ってもう3日目。


大抵…

国に入って3日目って聞いてたのに。



「しかもアルト様も最近いらっしゃいませんし…」



「来なくて良いわよ!結婚もこのまま無くなっちゃえばいいのに!!」



半ば八つ当たり気味に叫ぶとユリアはネコを抱えたまま部屋を飛び出した。



バタンと閉まったドアの向こうからリーシャの声が聞こえたが、無視してそのまま走り出した。




「別に寂しいとか…無いんだから。」



小さく呟きながらユリアはぎゅっと腕に力を込めてしまった。



「あ!!」



気が付いた時にはもう遅く、腕の中にいた猫は嫌がるようにユリアの腕をすり抜け、地面に着地する。



「あー…ごめんね、」



しゃがみこんで頭を撫でると一声、にゃあ。と啼いて、踵を向ける。



「あれ?どっか行くの?」



立ち上がり、声をかけると一度ユリアを振り返り、また一声上げてユリアとは反対方向に走り出す。



「え?!ちょ…!!ちょっと待ってよー!!」



ユリアの事など知らないかのように走り抜けるネコを、見失わないようにユリアは追いかけた。


時折足を止め、ユリアとの距離を縮め、また走り出すのを見て、ユリアを誘導している様にも見える。



「もっ…限界っ!!!」



多分一国の姫には無理であろう距離を走りきったユリアは肩で大きく息をした。


メイドや衛兵に会わなかったのは幸いだった。



「もー…どこにいったの…あの子」



体を上げ、辺りを見回すと白い塊が中庭の木の下で丸くなっているのを見つけた。



「いた!」



嬉々として近づくと、それまで茂みで見えなかった木の向こう側にある、温室が目に入った。





「うっわぁ~!!!綺麗だわ!!!!」



好奇心に負け、ネコを腕にユリアは温室に入った。


その輝く華々はとても綺麗で、ユリアは心を弾ませながら近づき、近場の花を手にとる。

そして、その花を見てユリアの顔が強ばる。



手にとった花は白い小さな花が沢山集まり、雄大にみえるフローリアだけにに昔から存在する゛フローリアの国花・スノーリヨン゛



「…これ……」



―――なんで…フローリアの花がエスカールにあるの?



それにスノーリヨンはとてもデリケートな花で、育てるのがとても難しく、フローリアの気候だけ合うらしく他の国では咲かないと聞いていた。



「こんな難しい花…」


「君のためだよ」



1人しか居ないと思っていたユリアは驚いた顔で振り替えると、更に目を見開いた。



「あれ…ユリア姫一人?」



そこに立っていたのは、エスカール国国王、ウルガだった。



「え、な…え?」



「あ、ごめんね。驚くよね。」



驚きに固まっていると、ウルガが軽く謝りながらユリアの隣に腰を落とし、スノーリヨンに触れた。




「さっきの話。」


「…はい?」



少し深呼吸してからユリアもスノーリヨンに視線を戻す。



「この花、君のためにアルトが植えたんだ。」



「……殿下が…??」



信じられないというユリアの表情にウルガは苦笑した。



「ああ。だって、この花は君の好きな花なんだろう?ユリア姫」



ウルガの言葉になぜか赤くなる。



好きよ。たくさんの綺麗な花が咲くフローリアで。

一番、一番大好きな花。



「なんで…知ってるんですか?」




それは、なぜウルガがこの花の植えられた意図を知ってるのか。

なぜ私が一番好きな花だと知ってるのか。



どちらにも取れる言い方。



「そりゃ、ね。」



意味深な笑みと言葉をユリアへ向けて優しく頭を撫でる。



そこで話を切り替えるようにウルガは立ち上がった。



「あ、ユリア姫。ごめんね」



「…?

何がですか?」



唐突に思い出したようにウルガが謝ったが、ユリアには意味が分からなかった。



「ほら、結婚式だよ。すぐに出来なくてごめんね。」



「あー…はい。」



寧ろ一生来なくていい。

そう思ったが、ユリアは心に押し込めた。



スッとウルガの手がユリアの頬に伸びる。



「………のにな」



「……………え?」



凄く小さな声だったが、ユリアには最後の方だけ聞こえた。

切ない顔も。



「いや、なんでもないよ。」



そうにっこり笑ったウルガはユリア越しに遠くから走ってくる人物を見つけて微笑んだ。



「姫、王子のお迎えだ。」



そう言い残すとウルガは去っていった。




「…王子?」


「呼んだか?」



ウルガの残した言葉を紀にして振り替えるとアルトがいた。



「うっわ!!!」


「久しぶりに会ったのにその態度かよ。」



と アルトが一歩進むとユリアが一歩退く。


それをいくらか繰り返すとユリアの背は温室のガラスにぶつかった。



「殿下っ…ちかっ」



逃げ場なく、ユリアが動けなくなったにも関わらず、アルトは距離をつめる。

ユリアは押し返そうとするが、はがたたない。


ぐいっと顔が近づく。




「…王と何を話してた?」



「え?」




だんっと顔の横に手をつけられ、逃げる事は出来ない。



「…あなたに関係ないわ。」



プイッと顔をそむけると、無理矢理向き合わされる。



「言え!!何を話してたんだ!?」



声が荒げられる。

その声に少し怖じけずいたユリアはビクッと小さくはね、アルトはしまった。と口元を手で覆った。


ちっ。と舌打ちしたアルトは苛立った様に温室を出ていった。



一人になったユリアはそのまましゃがみこむ。



嫌われた?

別に彼に嫌われたって


どうでもいいじゃない。

どうでもいいの。

なのに、どうしてなの?



涙が止まらない。


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