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紅き宝石  作者: 神崎寧々
12/24

宣言



「お呼びですか?王」



王・ウルガの私室に入ったアルトは礼を取る。

アルトを認めるとウルガは兵を下がらせた。



「兄弟なんだから敬語は無しだよ、アルト」


「…分かりました。」



頭を上げたアルトに、ウルガはガシガシ頭をなでた。



「いやー、それにしても、可愛くなったねぇ、アルト、」


「ちょ、い・・・いきなりなんです!?」



慌ててウルガの腕を掴むと、ニマーッと笑う。

嫌な予感がした。



「他人に無関心のはずの君が、彼女を気に掛けてるなんて、珍しいじゃないか!!」



お兄ちゃんは嬉しいよ!と更に抱きついてくるのを照れ隠しも兼ねて、全身で拒否する。



「・・・そりゃ、俺の物なんで」



ウルガを座らせ、その前にアルトが座る。

座ったウルガは腕を組み、昔を思い出すようにうんうん頷いて、口を開いた。



「それに、ちゃんと愛情表現してるし、成長したなぁ!!

 前なんて、一緒に寝た子さえ覚えてなかったくせに・・・」



「っ、ゴホッ、・・・昔の話でしょ」



出された紅茶に口を着けた瞬間ウルガの言葉にむせ返す。



「それに、自分だけ名前呼ばれないからって拗ねちゃって。」


「!? な、なんで分か・・・」



ウルガの言葉におどろいて顔を上げると、キョトンとしたウルガの顔があった。



「え?何?冗談だったのに・・・・・・マジで?」


「・・・」



その言葉に、自ら墓穴を掘ったことに気付き、顔が赤くなる。

その顔を見られないようにプイっとそらした。



「へー、そっか、そっか。冷酷無常。氷の勝者と言われ、各国で恐れられてる君がねぇ。

女の子に名前呼んでもらえないからって拗ねてる様子って・・・ブハッ」



腹を抱えて笑う兄を一瞥する。



「・・・で、お話ってなんですか。」



少しでも早くこの話題から離れたかったアルトは、ウルガを一瞥しながら言った。



「え?・・・ああ、そうそう」



笑いすぎて目から出た涙を拭うと、ウルガは真面目な顔になった。

まとう空気も一変する。


ウルガの雰囲気が変わったのを肌で感じると、アルトも真面目な顔つきになった。



「アルト、君と話があるんだ。」



重い言葉に、アルトは息を呑んだ。







*+*+*+*+*+*+*




「もー、ユリア様!!拗ねてないでお布団から出てきてください!!」


「いっやぁー!!」



ベットの上で頭から布団をかぶり丸くなっているユリアを見つけたリーシャは、一生懸命布団を引っ張る。

が、ユリアも中から必死で抵抗する。



「絶対、イヤよ!!何よあの人!!人のことバカにしすぎよ!!」


「えー。そんなこと無いと思いますけど・・・」



とりあえず布団を引っ張るのを辞めて、リーシャはベットへ腰掛けると斜め上を見上げ考える。



「そんな事あるわ!!さっきだって、"バカ"とか言ったし!最低よ!」


「でも・・・優しい所もおありですよ?」



リーシャの言葉に思い出すのはあの花畑。

落ち込んだ自分を励ましてくれるためだった。



「・・・わかってるわ。」



小さく呟いた言葉に思い出すのは最後の悲しそうな顔だった。



一体・・・何考えてるか分からないわ。



首から下げているあの赤い指輪を手のひらで包むと、ぎゅっと握った。



ずっと大事にしてきたの。


大切に大切に守って来た約束だった。



更に手に力を込めた時、扉が勢いよく開いたのが、布団の中から分かった。



「ア…アルト様!!」



慌ててリーシャが立ち上がったのでベッドが少し揺れた。



「ユリアは?」



見つからない様にと、ギュッと布団の端を握る。



――今は見つけないで!!



そう願ったにも虚しく、布団を剥ぎ取られた。

リーシャの比じゃない。



「あ…」



布団を追いかける様に手を伸ばすと、大きな手で捕まえられた。



「……これで隠れたつもりだったか?」



にやっと笑うアルトに対して、ユリアの顔は赤くなる。



「思ってたら悪いわけ?」



拗ねた様に顔を背けると、そのまま後ろから抱き締められた。



「ちょ……」



いきなりで驚くユリアは、抗議の様に腕を叩く。


が、一行に緩む気配はない。


むしろ強くなる。



「………ユリア………」



名前を呼ばれ、不覚にもときめく。


そして謎めいた言葉を発した。



「お前は俺のモノだっ………」



苦し紛れに吐き出された言葉にユリアは絶句する。


そして同じ事を思うのだ。




――なんで…そんなに苦しそうなの…?



ゆっくりアルトの手がユリアの髪に触れた時、アルトはユリアのうなじから覗く鎖に気付いた。



「…なんだこれは?」



クイッと指に鎖を引っ掻ける。



「ダメッ」



指輪が出る寸前でユリアが指輪を包み込む。



「……なんで」



声のトーンが落ちた。

それでもユリアは手を緩めない。



「大事なモノなの。お守りなの」



あの人と私だけの約束の証。

あの人が目の前にいる人とは限らない。



これは譲らないと悟ったのか、アルトは不機嫌にふーん。と言っただけでユリアから手を離した。



「…今日はもう寝ろ。」


立ち上がると同時にバサッと布団を頭からかけられる。



「わっ…」



重い布団を退けると、アルトはもうドアに手をかけていた。


ふと窓を見ると、外は暗かった。


いつの間に暗くなったんだろうと考えていると、アルトが言った。



「じゃーな。」


「…お休みなさい」



意外とあっさりした別れに、少し瞬きするとリーシャがそっと横に着いた。



「ユリア様、如何なさいますか?」


「…疲れたし…もう寝る」



と返事した時にはもうモゾモゾと布団に入っていた。



「かしこまりました。お休みなさいませ」



「お休みー」



パチと電気が消され、静かにリーシャが出ていく。


消えていくリーシャの気配を感じながら、ユリアはゆっくり眠りに落ちた。


エスカールでの初めての夜は、とても静かだった。





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