受け入れる
「ちょ…どうしたのよ!!」
ユリアの呼び掛けにも無視でアルトはどんどん廊下を進んでいく。
さっきからこの調子なのだ。
いくら呼び掛けても…無視。
心なしか、少し怒気をはらんでいる気も…する。
少し心の中でドキドキしながら、アルトの後を必死に追う。
ドキドキはドキドキでも、ときめきじゃない。
恐怖の方だ。間違いなく。
訳も分からず着いていくと、ある部屋の戸を開け、中へ入った。
「きゃっ」
引っ張られた勢いで、ベットへ放り投げられる。
「へ?」
頭は混乱して動かない。
疑問に思っていたときに、アルトがガチャっと戸の鍵を閉めた。
さすがにユリアは青ざめた。
なんで、なんで鍵を閉める必要があるのさっ!!!
今の状況が精一杯なユリアは、とりあえず、アルトを睨む。
「何?睨んでも怖くないけど?」
「っ、ちょ…と…!!」
ちかづいて来たアルトが、ユリアを上から押さえ込む。
離して、と暴れるユリアも、さすがに力の差では勝てない。
「…」
「な、に?」
じっと見つめてくる視線が怖い、
何も分からないはずなのに、ユリアはポソリと呟いた。
「なんで…怒ってる?」
ユリアの問いに、一瞬アルトの目が見開かれた様に見えたが、次の瞬間。
またいつもの意地悪そうな顔つきへ戻る。
「へぇ、怒ってる…ねぇ。」
「へ、やっぱり怒ってるの?」
自分でも良く分からないままに呟いたので、当たったとはユリア自身が驚きだ。
そんなユリアへアルトは顔を近づけていく。
どんどん近くなるアルトの顔に、ユリアはぎゅっと目をつぶった。
「ばーか。」
そんな声が聞こえたかと思うと、額にコツっと軽い衝撃があった。
「え…?…っ!!!」
思わず目を開けると、未だ近いアルトの顔。
額から伝わる熱。
ユリアとアルトは額を突き合わせている状態だった。
「ちょ…離れてよー!!!」
顔を真っ赤にしながらユリアが叫ぶ。
両手でアルトを退けようとするが、全く動かない。
当の本人は、楽しいのかクスクス笑っている。
それどころか、逆にユリアの体の下に手を回し、抱きしめてくる。
「離れない」
「離れてよぉー!!!」
許容オーバー。
ユリアが、アルトの腕の中で暴れているとき、ふいにコンコンと扉が叩かれた。
「アルト様。王がお呼びです。」
外から聞こえた声に、アルトは「ちっ。」と舌打ちしてゆっくりユリアから離れた。
「今行く。」
ようやく離れたアルトに、ユリアは心からホッと息を吐き出した。
その様子を見ていたアルトは、無防備になったユリアの頬へキスを落とす。
「行って来る、王女殿下」
「っ~~~~~!!!!!」
触れられた頬を片手で覆い、ユリアは近くにあった枕をアルトへ投げつける。
アルトは枕をやすやすと受けとめる。
「クッ。じゃあな、すぐ戻る。」
「どーぞごゆっくりっっっ!!!」
ドアが閉まると同時に、ユリアの投げた枕がドアにあたる。
そして荒い息を押さえ込むと、触れられた頬を両手で押さえた。
「っ~…なんなのよぉ!!!」
そのままユリアは倒れるようにベットへ突っ伏した。
『っ~…なんなのよぉ!!!』
「クッ、ククッ…」
ユリアの叫びをドア越しに聞いていたアルトは声を殺して笑う。
背をドアに預けたまま、下にしゃがんだアルトは手で口を覆う。
「アルト様」
呼ばれ顔を上げると呆れた顔をしたシーグルが居た。
「シーグルか。」
「・・・あまり姫をからかいすぎると嫌われますよ。」
苦笑気味に差し出された手を掴み、立ち上がる。
「心配するな。もう嫌われてる。」
「・・・堂々と言う台詞では無いかと・・・」
「・・・シーグル、いくぞ。」
自嘲気味に笑った後、アルトは歩き出した。
「・・・嫌われては居ませんよ。アルト様」
その背を見つめつつ、シーグルは優しく笑った。
「もっと優しくなさればいいのに。」
小さな呟きは誰に聞かれること無く消え、シーグルはアルトの背を追った。