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紅き宝石  作者: 神崎寧々
10/24

入国・入城




あの夜から、また…一段とアルトとの距離が離れた。



あの花畑から帰って、泣きじゃくるリーシャに迎えられるまで、無言。



何か話そうとしても、ユリアの中は混乱していて、何かを言える余裕はなかった。



口を開けば………彼を傷つける事を言ってしまいそうで。




まさか…彼が本人だとは思わなかったんだもの…



ふぅ。と息を吐いて流れていく窓を見る。



たくさんの木々が生い茂り、あまり代わり映えのしない窓。



「あ、もうすぐ森を抜けるみたいですね。」



リーシャが言い終わるのと同じ位に、視界が開けた。


「っ…!!すっご………」



目の前に広がる景色はフローリアとは大部分が違う。



花や草…自然に囲まれていたフローリアとは違い、エスカールは、高い塀や鉱山に囲まれた国だった。


それに…



「大きい…」



ここ、うちの10倍はあるわ!!



少し負けた気分になったユリアは無言で窓のカーテンを閉めた。



ガタンと馬車が止まり、シーグルがドアを開く。



「お待たせしました。ユリア姫。」



差し出された手に自らの手を重ね、馬車を降りる。


ゆっくりと顔をあげると、巨大な城の前だった。



「……おっきい……」



「…口を閉じろ。バカがバレるぞ。」



いつの間にか横に並んでいたアルトを睨む。



「…バカじゃないです」



「へぇ。これは失礼。」



絶対思ってないでしょ!!!



声には出さないが、心の中で叫ぶ。



そして案外、普通……

うん。普通に話せた事に、少し安堵した。


「ん。」



目の前にアルトが腕をだす。



「へ?」



「へ?じゃねぇよ。掴まれ。」



呆れたような口調で言われ、渋々掴まる。


掴まった事を確認すると、アルトは踏み出す。



エスカール城…

ここが、私のこれからの……



覚悟を決めたような顔つきになると、そっと横から囁かれた。




「バカっ面すんなよ。」



「なっ…しないわよ!!」」



言い返しても、へぇ。と笑って いたずらっぽく笑うだくだった。


その態度に怒りが募っていく。


言い換えそうと口を開いた時だった。



「ようこそ、エスカールへ。」



凛とした声が耳に入り、アルトを見ていた視線を正面へ移すと

アルトと同じような顔が居た。



「初めまして。エスカール国国王ウルガです。」



にこりと笑う顔に、照れながらも、ユリアは頭を下げる。



「あ…初めまして。フローリア国第一王女ユリア…です。」



「歓迎します、ユリア姫。」



ゆっくり頭をあげると微笑した綺麗な顔立ちが目に入る。


アルトと似ているが、所々違う。

アルトより、黒髪は長く、目は綺麗な蒼。



そして

父、ラガルも若い王とされているが、それ以上にウルガが若い。




こちらへ。と促される部屋へ移動している時に、ユリアは隣にいるアルトに耳打ちした。



「ねぇ、あなたのお父様。お若いのね。」



「……は?」



少しの間を置いての返答。

また呆れた声でため息をつかれた。


そして、目の前のウルガへ呼びかける。


話を聞いていたのか、ウルガは苦笑しながら、控えめに答えた。



「僕はアルトの兄ですよ。」



「え……」



兄??



目が点になる。

思わずアルトの方を見ると、笑いを堪えていた。




「お兄様?!」


「ぶはっ!!」



ユリアの叫びに、耐えきれなくなったアルトは吹き出す。




どうしよう!!

すごく失礼な事言っちゃった!!



「あの、申し訳ありません。無礼な事を…」



慌て頭を下げたユリアをウルガはすぐに上げさせた。



「大丈夫ですよ。お気になさらないでください。」



にっこりと笑った顔に思わず救われる。


ウルガはユリアへ笑顔を向けると、まだ笑っていたアルトへ視線を投げた。



「アルト、言ってなかったのか?」



「くっ…知ってると思ってたので」



目に溜まった笑い涙を拭きながら、アルトはユリアに投げ掛けた。



「知るわけ無いじゃない。

フローリアは戦いを避けるために外交を制限してたのだもの!!」



ガッとユリアがアルトの腕を掴んだ時、扉が勢いよく開いた。



「ウルガっ!!」


「エミール!?」



扉を開けた人物は迷うことなく、ウルガへ駆け寄っていく。


ふわふわしたクリーム色の髪が揺れ、かわいい顔立ちに似合う茶色い目の彼女はウルガに抱きついた。



「ビックリした。急にウルガが消えるのだもの。」


「ごめんね、エミール。」



そう言いつつ、ウルガは抱きついてきた彼女の頭を優しく撫でる。



その光景を見ていたユリアはつい、とアルトの裾を引っ張った。



「あの方は…??」


「ああ、兄上の正妃。エミール王妃。」



へーっと、エミールへ視線を向けると、バチッと視線が合った。


とりあえず笑っておこうと考えたユリアは、とりあえず笑った。


するとその笑顔に答えるように、エミールもにこやかに笑った。


そして、軽い足取りでユリアへ近づく。




「可愛らしい姫君ねっ!!お名前は?」



目の前に来たエミールは嬉しそうに手を胸の前で組み、目を輝かせた。



「は、初めまして、ユリアです。」


「ユリア様、私はエミールです!!」



仲良くしましょうね!!と言われたと同時にギュッと抱き締められる。



――えぇー!?



いきなりの出来事にユリアの目は点になる。

エミールは可愛い、可愛い。と連呼し、ユリアを離す気は毛頭ない。


助けを求め、アルトを見ると、見慣れた光景らしく、平然としていた。


ウルガは


「ごめんね、ユリア姫。エミール、可愛いものが、大好きなんだ。」



と笑っていた。



笑ってる暇あるなら助けてください!!



「あ…ねぇ、ウルガ。ユリア様、どうしたの?」



思い出したように顔をウルガに向ける。



「ユリア姫は…」


「俺のものです。」



ウルガの言葉を遮り、アルトは言った。



「俺の、花嫁です。」



そう言いながら、エミールの腕を離し、ユリアを自分の方へ引き寄せる。




「まぁ!!そうなの!!」



喜んでいるエミールの肩にウルガが、手を置く。



「いきなりごめんね、ユリア姫。」


「いえ…」



エミールのことより、今、抱き締めているアルトの方をどうにかして欲しいと思っている事に、ウルガは全く気付かない。



「では、これで失礼します。」



「え?」



アルトはユリアの手を掴むと、そのまま扉へ向かう。



「あ、最後に一つ。」



ドアノブに手をかけた時、ウルガの声に2人が振り返る。




「なんですか?」



「ウルガは後でおいで?」



「……分かりました。」



意味深なウルガの笑みに、アルトは渋面を作った。


そして、そのままユリアの手を引いて出ていく。



「あ、失礼します!」



引っ張られているので流れるようになったが、礼をとり、部屋を退出した。



静かになった部屋で、エミールは静かに、ウルガに抱きつく。



「可愛い子ね。」



「そう思うだろ?君が気に入ると思った。」



微笑みながらウルガは、エミールの額に軽くキスをする。



「あの子…が。」



「ん?何」



小さく呟いた言葉を拾ったウルガに、エミールはなんでもない。と首をふった。


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