【第2話】
「おかえり」
無機質な妹の声が聞こえる。いや、勿論ちゃんとした人間だけど。
「トコちゃんもう帰ってたんだ、ただいま。」
僕がそう言うと、妹が少し不機嫌になる。
「トウくん、もうトコちゃんって言わないでって言った。」
「はいはい、透子ちゃん。」
トコちゃんとは透子のことだ。ト・ウ・コだからトコちゃん。
塔子が赤ちゃんの頃からのこの呼び方だったから、今更変えなくてもいいんじゃないかって僕は思ってるんだけど。
「私、今年でもう中学生。なのにトコちゃんって呼ばれるの子供みたい。」
そう言って、透子は頬を膨らませてしまった。
「ごめんって、でも透子も僕のことトウくんって呼んでるじゃん。」
「私はいいの。」
「えー、ずるいなぁ。」
僕が笑うと、透子がまたむくれてしまった。
「次トコちゃんって呼んだら二度と口聞かない…」
ブブッ
透子の話を遮るようにスマホが振動した。
確認すると、坂本さんからのメールだった。
「ごめんトコちゃん、ちょっと自分の部屋行ってくるね。」
そういいながら、僕は自分の部屋がある2階へ続く階段を上がっていった。
ドスドスという透子の怒ったような足音が聞こえる。
「おもしろいなぁ。」と呟きながら、自分の部屋へ入った。
さて、坂本さんからのメールを確認しなければ。
「あぁ、緊張する…」
ただ坂本さんの端末から送信されたメールを見るだけなのに、何故こんなにも緊張するんだろうか。
僕は深呼吸すると、スマホのロックを解除した。
坂本さんからのメールを確認する。
『さっきぶりです!坂本美咲です!透弥くんの連絡先であってますか?あってたら返信ください!』
思ったよりも普通の文章だったので、なんだかほっとした。
早速僕は坂本さんに返信することにした。
◆◆◆
『メールありがとうございます。佐藤透弥です。よろしくお願いします。』
ひと仕事終えた僕は「ふぅ…」と息をついた。
あれやこれやと考えていたけど、結局普通の文章になってしまった。
まあそれは置いといて、後は坂本さんの返信を待つだけだ。
その間にゆっくり早めのご飯でも食べてこようか、それとも透子と遊んでこようか。
ピロン
部屋から出ようとすると、丁度メールの着信音が鳴った。
誰からだろう、多分お母さんからかもしれない。
そう思ってメールを開いた。
しかし、そのメールはお母さんからではなかった。
『返信ありがとう!出かけるのいつにする?今週の日曜日とかは暇ですか?』
「は、はやい…」
それは坂本さんからのメールだった。
それにしても返信が早い。
僕が15分ぐらい考えて(学校からの帰り道にも色々考えてたから本当は1時間ぐらい)送信したメールへの返信が3分程度で届いた。
「…とりあえず、返信しよう。」
僕が返信できたのは、日付が変わってからすぐだった。