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僕には魅力がたりないみたい  作者: アニヒコ
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【第1話】

【第1話】




僕は佐藤透弥サトウ トウヤ、高校二年生になったばかり…というかこれから始業式だ。


学校に行く為に、朗らかに歩きなれた道を歩いているはずだったんだ、今朝までは。




「はぁ…はぁ…ち、遅刻する…!」




僕は歩きなれた道、改め走りなれた坂を転げ落ちるようにして走っていった。


始業開始まで残り時間はあと5分というところまで迫っている。




「このままじゃ…間に合わない…!」




◆◆◆




「ぶふっ…はっはっはっは!!透弥!二年生初日から遅刻とか、第一印象悪すぎじゃないか!!」




この品のない笑い方をしているのは山本智也ヤマモト トモヤ、家が隣で小学生の頃からの幼馴染だ。


幼馴染といえば可愛い女の子を想像したかもしれないけど、僕の場合はそうはいかないみたいだ。




「お前なぁ、いい加減その汚い笑い方やめろよな。」




「それは無理だなぁ、癖だから。」




これを言うとすぐそれだ、もはやテンプレ化している。


まぁ、こいつのそういうところがあったから今まで付き合ってこれたのかもしれないな。


なんてことを思いながら「じゃあ、もう時間だから。」と言って僕はまだ席替えをしていない名簿順の自分の席に着いた。


すると、栗色のボブヘアーをふわふわと揺らしながら一人の女の子が近づいてきた。




「あの…佐藤くん…」




隣の席の坂本美咲サカモト ミサキさんが話しかけてきた。


返事をしようとしたが、




キーンコーン カーンコーン




と、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。


それと同時に先生が入ってきて、まだ席に着いていない生徒たちに座るように促していった。


僕は、「ごめんね、あとで」と言って前を向いた。




その授業は全く集中できなかった。


授業中、坂本さんが僕の方をチラチラ見ていたからだ。


僕がそわそわしているうちに、いつの間にか授業は終わってしまっていた。


僕は坂本さんの方を見た。




「さっき話しかけてきたのって、何だった?」




坂本さんは一瞬躊躇うと、少し恥ずかしそうに話し始めた。




「あの、さっき鞄からちょっと出てたのが見えちゃったんだけどね…透弥くん、【君トナ】持ってるんだね…」




それを聞いた僕は全身から変な汗が出てきた。


【君トナ】とは、なかなかマイナーなラノベだ。


それだけならまだ良かったんだけど、挿絵や表紙がちょっとアレなんだよな…!


あれやこれや考えていると、坂本さんは、また少し言いづらそうに話し始めた。




「そ、その…実は私も持ってるの…君トナ」




「え?ほんと?これって結構マイナーな作品だよね?」




「そうなの、だからさっき見た時嬉しくなっちゃって…」




僕は、初めて君トナを知っている人にリアルで出会った嬉しさで思わず饒舌になってしまう。


暫く早口でまくし立てた後、はっと我に返った。




「ご、ごめん、キモかったよね。」




「ううん、この話題でこんなに盛り上がれたの初めてだったから楽しかったよ。」




「僕も楽しかった。」




「じゃあさ、また今度遊びに行こうよ、透弥くんともっと話してみたい。」




僕はその言葉が頭から離れなかった。


見ておわかりの通り、僕は俗に言う陰キャというやつだ。


勿論、毎日メール(連絡)をしている異性は母と妹ぐらいだ。


それなのに、いきなりクラスの女子と連絡先を交換し、一緒に出かける約束までしてしまった。




◆◆◆




放課後、僕は足を引きずる様に歩いていた。




「はぁ~…」




思わずため息が出てしまう。


すると、一緒に帰っていた智也が心配そうに僕の顔を覗き込む。




「どうした?足でもひねったのか?もしそうなら、俺がおぶってってやるけど…」




「お気遣いありがとう。でも大丈夫。」




智也は不思議そうな顔をした。




「じゃあ、どうしてそんな歩き方してるんだよ。」




「ちょっと今までに遭遇したことのない事態に遭遇して…というか、僕が当事者なんだけど…」




「つまり、どういうこと?」




「じ、実は…」




僕は今日あったことを話した。


すると、智也の表情があからさまに変わった。




「マジでか!?超いいことじゃん?何をそんなに思い詰めてるんだよ。」




「逆にお前はなんでそう気楽でいられるんだ」




「だって、美咲ちゃんって可愛いじゃん。可愛い子から遊びに誘われたら誰だって嬉しいじゃん?」




…なるほど、理解はしたくないが、つまりそういうことか。


このバカに相談した俺が馬鹿だった。




「俺はお前と違って真面目な人間なんだ、もっと真剣に考えるべきなんじゃないのか?」




「うっわ…めんどくさ…」




智也は、僕を道端に捨てられている腐りかけの生ゴミを見るような目で見つめていた。




「な、なんだその目は、そんな目で僕を見るんじゃない!」




僕は、その場から逃げるように走り去った。




◆◆◆




10分程走り続けて、僕はやっと止まった。




「はぁ…はぁ…」




息が切れる。


学校のなかった春休み期間、殆ど身体を動かすことのなかった過去の自分をとりあえず恨んでおくことにした。


しばらく歩くと家が見えてきた。僕は坂本さんに送るメッセージのイメトレをしながら玄関を通った。

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