3骨目 拠点の要塞化
今更だけど、スローライフタグを付けておきながら、残酷描写タグを付けている矛盾感が半端ない。
『ノーライフ』に入会して、一週間。
俺はひたすら拠点整備に励んでいた。
個室は五部屋しかなかったため、兎にも角にも、六人目の加入者である自分の個室を作ることが優先だった。
そして、丸一日かけて個室を作り終えた後、その出来栄えを見た『ノーライフ』のメンバーたちは、俺に無茶振りをした。
「素晴らしい出来だね! この調子で拡張していきたいけど、襲撃が怖いから拠点の防御を固めるのを優先していこうか。もうホームレスはいやですw」
「⋯⋯ヨスケの個室、イチスケ様の個室より立派だワ。イチスケ様より良い個室に住むとか、恥ずかしいと思わないの? 個室を譲るべきだと思うワ」
「剣の試し斬り用の相手が欲しい。時間がある時で良いので、ゴーレムを作ってくれないだろうか?」
「ヨスケっち、ダンジョンといえば探検だぜ! 道なき未知を求めて、ダンジョンを堀り進めていこうぜ!」
「おい、ヨスケ。このサンスケ様がお前をここまで連れてきてやったんだ。感謝しろ。そして、俺様の個室を今の三倍に拡張しろ」
イチスケさん、レイコさん、デュラーさんに続き、入会後に顔を合わせたニスケさん、サンスケ、それぞれが別々の要望を出してきた。
レイコさんとデュラーさんの要求は大した問題じゃないので、了承した。
イチスケさんと個室を交換し、デュラーさんには一日一体限定だが、訓練用のゴーレムを作っている。
問題はイチスケさんの拠点要塞化案と、ニスケさんの拠点開拓案だが、流石に両方こなすのはしんどい。
多数決を取り、まずは拠点を要塞化する方向になった。
ちなみに、サンスケの要望は満場一致で否決された。
そうして、『ノーライフ』拠点要塞化計画が始動した。
イチスケさんが要塞化の構想を考え、レイコさんがそのサポートをする。
デュラーさんは拠点にやってくる魔物たちを撃退し、ニスケさんはダンジョン内を探索して拠点での生活に役立つものを拾ってくる。現在日時を示す魔道具(イチスケさんは時計と呼んでいた)もニスケさんが拾ってきたものだ。
そして俺は、毎日土魔法による要塞化工事をしている。
サンスケ? サンスケは個室で寝ていた。デュラーさんの試し斬りの相手、サンスケでいいんじゃないか?
その結果、この一週間で拠点は様変わりした。
イチスケさん曰く、劇的ビフォーアフターと呼ぶらしい。不思議なテンションで喋りだした。
「以前は外から丸見えの体育館一個程度の大部屋と、布で間仕切りされた小さな個室があるだけの、拠点とは名ばかりの広間が⋯⋯。な、なんということでしょう! 今では入り口は鳴子と扉が付けられた玄関に。玄関の先には敵の侵入を制限するつづら折りの狭い通路が設けられ、大部屋に来るまでの時間を稼ぎます。そして、天井には格子の天板を設置し、大部屋の階段から上がれるようにした二階建て構造で、侵入してきた敵を上から狙撃することが可能に! これが要塞建築の匠、ヨスケの本領だーw」
「勝手に俺の本領を決めないでください。生前も建築家ではなかったと思います⋯⋯多分」
イチスケさんは異世界から転移してきた元人間らしく、たまに異世界ネタと思われる話をする。
俺以外の皆は慣れたもので、イチスケさんの話についていくどころか、ネタに乗ることもできるらしい。
その後も、イチスケさんと雑談していた。
イチスケさんは、転移先がこのダンジョンで、チートという能力もない状態で魔物に殺された。
殺された後、気がついたら生前の記憶を持つ骨になっていたイチスケさんは、状況のわからないまま長い間ダンジョンを徘徊していて、とても寂しかったらしい。
そのため、『ノーライフ』を創立した大きな理由は、話し相手が欲しかったとのこと。
そんな話をしていると、玄関に設置した鳴子の音が聞こえてきた。
玄関は、ニスケさんが拾ってきた槍の柄を軸とした回転扉になっている。傍から見たら壁に見えるように偽装はしているが、少し押せば簡単に開く。
扉が動いた場合は、扉に取り付けた鳴子の鈴が鳴るようになっている。
鳴子は鳴り続けているため、どうやら敵が侵入してきたようだ。
他の人たちも気付き、大部屋に集まる。
「ルビーウルフが十匹入ってきたワ。サンスケ、迎撃してきなさい」
「は? なんで俺様が「働かないなら、呪い殺すワ」⋯⋯行ってきます」
階段を使わず、二階に浮上して敵を確認したレイコさんが、サンスケに迎撃を命じる。
サンスケは不機嫌そうなオーラを出すが、レイコさんの脅しに簡単に屈した。
なんというか⋯⋯、サンスケというより三下だな。
「ヨスケェ! 誰が三下だ!テメェは目上のモンに対する言葉使いが「早く行かないと、呪い殺すワ」⋯⋯あ、はい、行ってきます」
どうやら思念が漏れ聞こえていたらしい。
いや、最初はサンスケさんと呼んで敬っていたよ?
でも、サンスケのあまりのクズニートぶりに、敬語は一日で消えた。
レイコさんの命令に従い、狭い通路にてルビーウルフを迎撃するサンスケ。
「フン、分をわきまえない下等生物め。俺様の暗黒火炎魔法の贄となりたいようだな」
サンスケの右手から黒い炎が吹き出て、瞬く間に頭蓋骨程度の大きさの火の玉になる。
「闇の炎に抱かれて消えろ、ダークファイア!!」
サンスケが生み出した黒色の火の玉が、狭い通路を一列になって進むルビーウルフに向かって飛んでいく。この空間で外すことはありえない。先頭のルビーウルフに直撃する。
まともに食らったルビーウルフに闇の炎が纏まりつく。サンスケはまずは雑魚を一匹片付けたと確信した。
⋯⋯しかし、ルビーウルフが体を震わせると、たちまち闇の炎はかき消えた。
「⋯⋯は?」
呆然とするサンスケ、迫りくるルビーウルフの群れ、サンスケは死んだ。
「⋯⋯サンスケがやられたようですね」
半ば予想していたが、見事に予想どおりの状況になったため、思わず呟いた。
「だが、サンスケっちは俺たち、スケルトン四天王の中でも最弱⋯⋯」
「ルビーウルフごときにやられるとは、スケルトンの面汚しよ⋯⋯」
俺の呟きに対して、まるで用意していたかのように侮蔑の言葉を放つニスケさん、イチスケさん。
⋯⋯あの、いつスケルトン四天王なんてできたんですか? これが異世界ネタってやつですか。
そんな漫才をしている間にも、ルビーウルフの群れは進んでくる。
ちなみに、ルビーウルフの額にはルビーの魔石があり、名前の語源にもなっている。
ルビーウルフの他にも、サファイアウルフ、エメラルドウルフ、トパーズウルフなどが存在する。
ルビーは火属性を司る魔石であり、彼らの赤い体表は魔石による影響か、火属性の魔法に対して強い耐性を持つ。そんな相手に火魔法を打ち込んだサンスケの末路は、文字どおり、火を見るより明らかだ。
つまり、サンスケは馬鹿。
だが、俺たちが大部屋での戦闘準備を整えるための時間稼ぎとしては十分だ。
前衛には、剣を携えたデュラーさんと、槍を構えたニスケさん。
後衛には、弓矢を構えたイチスケさんと、ゴーレムを従える俺。
天井には、レイコさんが魔法を撃つ用意を済ませている。
そして、ルビーウルフの群れが大部屋に突入してきた。
先制攻撃はレイコさん、風の魔法、ウインドブレイドが先頭のルビーウルフを切り刻む。
先頭を走る仲間が無惨に切り刻まれたことで、彼らが怯んだタイミングで放たれた、イチスケさんの矢は見事なまでに外れた。
⋯⋯イチスケさん、あんなに多くの群れに向けて射っても外すのか。
そのすぐ後、ニスケさんが槍でルビーウルフを二匹まとめて串刺しにして殺す。
しかし、槍が抜けず、他のルビーウルフに襲われる。すぐさま槍を捨て、必死に逃げ回るニスケさん。
案外ドジなのか。
残りのルビーウルフはこちらに向かってくるが、その間にはデュラーさんが立ち塞がる。
腰に剣を携えたまま、動かないデュラーさんに対して、ルビーウルフの群れが襲いかかるーー
一閃。
目視できない速度で剣を振り切ったデュラーさんの足下には、真っ二つに両断された、三体のルビーウルフが転がっている。
ーーデュラーさん、つええ!
デュラーさんは、既に剣を元の位置に戻し、再び構えて動かない。
⋯⋯ん、動かない?
「ちょ、ちょっと、デュラーさん、ルビーウルフが二匹こっちに向かってきてるんですけど!?」
デュラーさんを無視して、俺とイチスケさんの方に突撃してくるルビーウルフ。
ちなみに、あと二匹はニスケさんを追い回している。レイコさんがニスケさんを囮に攻撃しているので、あちらはもうすぐ終わるだろう。
「ああ、デュラーは頭がないから、目が見えないんだよw だから、一定範囲外の生物を認識することは難しいんだ」
「見えてないのに三体両断したの!?」
「殺気を感じとれば、この程度は造作もない」
「自慢はいいから助けてよ!」
そもそも、アンデッドでも頭がないと目が見えないのか。人間の頃の感覚に引きずられてるのか?
余計なことを考えている間に、ルビーウルフとの距離が詰まる。
俺は生成していた三体のゴーレムを全て前に出し、ルビーウルフの一匹を止める。
残る一匹はゴーレムをすり抜けて、こちらに向かってきた。
くそぅ、ゴーレムは動きが遅いから、足止めが難しいんだよな⋯⋯。
「ヨスケ君、君なら倒せる! 頑張りたまえw」
「ちょ、イチスケさん! なんで俺の後ろに隠れてるんですか!?」
イチスケさんを無視してこちらに来てると思ったら、いつの間にか、イチスケさんは俺を盾にしていた。
文句を言おうとしたところで、ルビーウルフが俺に噛み付いてくる。咄嗟に左腕を犠牲に牙を受け止めた。
左腕をガブガブされる俺、必死に腕を振り回すが離れない。
凄い執念だが、俺の骨、そんなに美味しいのか?
スケルトンの俺には、物理攻撃に対する痛覚がほぼない。
噛まれた時には焦ったが、段々落ち着いてきた俺は右手に土魔法で生成した石を持つと、ルビーウルフに頭に打ち付けた。
キャンッ、という鳴き声とともに、俺の体からルビーウルフと、奴に咥えられた俺の左腕が離れる。
あ、また左腕がもげた。
スケルトンになって、一週間で二回目の左腕剥離。
自分の骨の脆さに若干不安になりつつも、倒れたルビーウルフに追い討ちをかける。
満身創痍でまともに動けないルビーウルフは、最後の手段にでる。
ーークーン。
床に這いつくばり、つぶらな瞳で俺を見つめるルビーウルフ。
⋯⋯だが、その口には俺の左腕が咥えられている。
「か、可愛いワ」
レイコさんの声が聞こえてきた気がしたが、俺は躊躇せず、ルビーウルフに石を打ちつけた。
打つべし、撃つべし、討つべし。
俺が殺し終わる頃、既に周囲の戦闘は終了していた。
⋯⋯ふう、今回は何とか死なずに終えることができた。
撲殺したルビーウルフの上で安堵する俺。
そんな俺に対し、レイコさんが告げる。
「あんな可愛い魔物を撲殺するなんて⋯⋯、ヨスケ、怖い子だワ」
「レイコさんには言われたくないよ!?」
最初にレイコさんが斬殺したやつが、一番無惨な状態だからね!?
読んで頂き、ありがとうございます。