4 帰還して
今回もお読みいただきありがとうございます。
今回も楽しんでいただければ幸いです。
「うわー……」
洞穴から飛び出した炎を見ながら、思わず言葉が漏れる。
「派手にやったな。余熱がこっちまで来ている」
山火事確定の火力の余熱が肌を撫でている。
「いやー久々にデッカイの使ったわー」
来ている服の所々が焦げているカリンが、やっちゃったみたいな顔して帰ってきた。
「おかえりー。この山火事どうする?」
「そのうち消えるで?そういう『術式』やし」
カリンが、腕を変形させた杖をぐるぐる振りながら答える。
『術式』。
別の言い方で魔法なんて呼ばれる事のある、比較的扱いやすい技の総称。モノを燃やしたり、逆に火を消したり、洗濯物乾かしたり、落とし穴を量産したりと、その人の技量の程度で威力や新しい術式が生まれたりする不思議な力で、カリンはこの中でも、『罠系統術式』と『炎系統術式』を得意としている。特に炎系統術式の熟練度は凄まじくて、昔にはたった一体の魔物に対して撃った初級術式で、森林が一瞬で焼け野原になったこともある。
「疲れたわー。パブやん、ちょっとおぶってくれへん?」
「拒否」
「ええやんかー。うち、もうヘトヘトなんよー?」
「知らん。子供も見てるぞ」
そんな二人のやり取りを見ながら、子供の数を数える。
うん。全員いるね。
「よーし、じゃあ皆で帰るとしますか!」
「お?マリやんやけに上機嫌?」
「披露が溜まっているんだろ」
「私にだけ当たり強くない!?」
パブロの放った火が消えていく中、子供たちの手を引いて、【ミカル山地】を下っていった。
「ふひー……」
ミカル山地に隣接するカナリア領に入って、事前に知らされていた家に子供達を送り、依頼主の元へ向かう途中で、カリンが変な声を出した。
「お疲れ様。結構疲れてるように見えるよ」
「そりゃそうやー。子供の相手は楽しいで?でも、大人の対応はうちの分野やないもん」
「ブフォッ」
思わず吹き出しながら、先程までのカリンを思い出す。
子供達の相手をしているときは笑顔の耐えないカリンだったが、大人に誤り倒されている時の顔は、絵に描いて取っておきたいくらい面白い顔だった。
「マリー、汚いぞ」
パブロに咎められる。が、私は知っている。パブロが必死に笑いをこらえていることに。その証拠に、肩がプルプル震えている。よーし。
「ねぇねぇパブロ」
「なんだ?」
「え、ちょっ、あの、えっと!」
先程のカリンと同じ顔で、同じ行動で、同じ声色で、パブロに向けて同じことをする。
「ブフォッ」
遂に、パブロも笑いをこらえられなくなって、吹き出した。やったぜ。
「パブロ、汚いよ?」
「マリー、それは、反則……ブフォッ」
あ、パブロがツボった。
「さてと、案外早くついたね」
後ろで、顔を赤くしながら両手をナイフにしてこちらに向けているカリンと、ツボにはまって抜け出せなくなったパブロに視線を向ける。
「気を引き締めていこう。一応、領主さんだし」
「すまん、ちょっと、待っ、ブフォッ」
「パーブーやーんー?後で締めるから覚悟しい?」
パブロの笑いが収まるまで、三十分、周りの人の視線を浴びながら待った。
「以上が、今回の事件の全貌です。無事に、子供達の救出は完了しました」
「うむ、ご苦労であった」
領主館の応接間で、目の前の男性に頭を下げる。
すると、目の前にいる男性は、朗らかな笑みを浮かべてそう答えた。
「それにしても、魔人の仕業だったとはな。魔人は基本的に、大人しく友好的だと聞いたのだが……」
腕を組み、目を瞑って考え事をするこの男性は、カナリア領の領主さんの、ロイ・カナリアさん。きらびやかな服を着ているが、その腕や体つきを見れば、鍛え抜かれた実態がわかる。これで、昔からずっと貴族だと聞いた時は驚いた。
「魔人が友好的ゆーのは、あながち間違ってはないで?ただ、たまーにああ言う、ちょっと頭のネジが外れた輩がいるだけや。用心するに越したことはないで。……しっかしこのお茶、ほんまに美味いなぁ」
別種とはいえ、魔人の一人であるカリンが、お茶を楽しむ傍らで答える。
「わかった。あなた達の協力がなければ、子供達の命はなかっただろう。領を代表して礼を言う」
「遠慮無用。俺たちも好きで動いただけだ。……すいません、お茶もう一杯いただけますか」
頭を下げるロイさんに、パブロが空になったカップを片手にそう答える。……二人とも、お茶飲み過ぎじゃない?
「ところで、あなた達は何者なのですか。恥ずかしながら、我が領の軍でも、魔人討伐は容易なことではないのですが」
「別に容易では無いんですけどね……」
ユーザとの戦いを思い出すが、苦戦は……あ、これと言ってしてないかと。ユーザさん、ごめんなさい。今思えばあなた、楽勝でした。
まぁ、そんなことはさておき、本当のことを話そうかな。信じてくれるかわかんないけど。
「ロイさんがご存知かはわかりませんが……五十年前の異大陸戦艦討伐線のことはご存知ですか?」
「ええ。あの戦いがなければ、我々生命体は今ここにいませんからね。私もよく、母にその話をしてくれと、よくせがみました。三英雄の話は有名ですから」
「その三英雄が私達です」
「……今、なんと?」
ロイさんが飲みこないようだ。予想通りの反応ではあるけど。
「私が、殺戮姫のマリー・ノワールです」
「うちは、死線のパブロ・フランクリンやー。有名やろ?」
「舞踏侍、パブロ・クロスだ」
ロイさんは、信じられないような顔をして、固まってしまった。
カリン「いつものやるでー」
マリー「知ってた」
パブロ「今日は何について話すんだ?どうせ前回の予告通りではないんだろ?」
マリー「そもそも前回、予告したっけ?まぁいいや。今回は術式について解説します。術式には系統っていうものがあって、作中の『炎』、『罠』以外にも、『雷』や『誘惑』なんかがあります。術式一つ一つには名前があって、発見した人が名をつけることができるという暗黙の謎のルールがあります(かなりの早口)」
カリン「めっちゃ早口やん!あ、ちなみに作中の術式はうちのオリジナルやで?名前は『サンセットフロー』って言うんや。カッコええやろ?」
マリー「はい!今日はおしまい!」
パブロ「今日はやけに早いな。何かあったのか?」
マリー「特にないよ?」
パブロ&マリー「ふざけるな(ー)!」
マリー「えっ、私怒られるの?」