3 戦いの終わり
あけましておめでとうございます。
今回も楽しんで頂ければ幸いです。
「ほな、行くで?」
カリンは笑顔を絶やさず、しかし目には闘志を滾らせてユーザを見据える。
「フン、威勢はいいが、テメェに俺が倒せるのか?」
「そりゃ、勝ち目もない相手に戦いは挑まんよー?勝ち目があるから、今こうやって挑んどるんよー」
「ハッ!笑わせてくれるなぁ!」
再び蛮刀を向けて突撃を仕掛けるユーザに、カリンは一切動かずに、その場に立っている。
「オラオラぁ!このままだと頭がかち割れるぜぇ!」
距離を詰められたカリンの頭上に、蛮刀が振り落とされんとして。
「ほい」
カリンがそれを、ナイフで……いや、髪の毛をナイフ状に変形させたもので弾いた。
糸状生命体。
ユーザの液体生命体の糸版とよく言われるけど、明らかに違う点がいくつかある。
その一つが、カリンのメインアームにして、糸状生命体最強のスキルである《糸体再構成》だ。
体を構成した糸を、別のものに変形させて『変形させたものの性質をコピーする』スキル。糸で作った剣で斬ることができるのは、この性質のコピーによるおかげだ。
もちろん弱点はある。
自分を構成する糸にも限度があって、それを超過するダメージを喰らえば当然死ぬし、変形させすぎると、もとの姿が思い出せなくなるらしい。
ちなみに、糸だから炎に弱いってよく思われがちなんだけど、カリン曰く、
「あまりに熱いのは流石に身に答えるわー。5000度位なら耐えられるで?」とのこと。最早生物じゃないね。
しかも、ただでさえ強い《糸体再構成》の真髄は別にある。
それは、体のどの部分でも変形させられるということ。
かつて、体に無数の銃身を生やしたように、腕を星球武器に変えたように、そして、今のように髪の毛を束ねていくつものナイフに変えたように、体全体を武具に変える、攻防一体の生物兵器。
それが、『死線』の、カリン・フランクリン。私達のパーティの中では唯一、一発の攻撃力が高いパワー型だ。
「斬ッ!」
カリンが頭ごとナイフを動かして、ユーザの右手首を斬り落とす。
「まだまだ行くでー!」
それでは止まらず、水が流れるように斬り上げられたナイフが、左足、左手首を吹き飛ばす。
「さて、私達もやることやろうか」
「承知」
私達もただ傍観してるわけには行かない。
ユーザに気づかれないように、そして、カリンに巻き込まれないように子供達のところまで回り込む。
「待たせちゃってごめんね。今、助けてあげるからね」
私達の顔を見て安堵したのか、あるいは怯えたのか、今にも泣き出しそうな子供達を宥める。
それにしても、山賊達も悪い趣味してる。子供をさらって身代金とか。
「パブロ、そっちはお願いしていい?」
「勿論だ。これを使え」
パブロに渡された短剣で、子どもたちを縛っていた紐やら鎖やらを切ってやる。
横目で見ると、カリンは髪の毛をもとに戻して、代わりと言わんばかりの変形でユーザを斬っていた。多分、斬って斬って斬りまくって、《再生器官》が機能しなくなるまで斬るつもりかな。流石に指先を剣にするのは気味悪いけどね。
「さ、私達は脱出しようか」
全員の束縛を解除して、皆を、おぶって、肩に乗せて、担いで逃走を開始する。
バレないように、バレないように……。
「クソッ!てめぇら!」
あ、バレた。
「そいつらは俺の商売道具だ!勝手に取ってくんじゃねぇ!」
ユーザは、狙いをカリンから私達に変えて、こちらに突撃を始めた。
「そーゆー訳にもいかんよ?」
それを見たカリンが、咄嗟に腕を鞭に変えて、ユーザの足元をすくう。
「チッ……テメェら良くもやってくれたなぁ!」
「さっきから威勢はええなぁ」
立ち上がろうとするユーザの頭を、カリンが踏みつける。
みんな気づかないだろうけど、ユーザを踏みつけてる足に、足の一部を変形させた重りがついてて、今すっごい圧力になってる。
「子供達を商品だの言うとる奴に、慈悲も何もあるわけ無いやろ?」
カリンがグリグリと足を動かす。物理は効きづらいから痛みは少ないだろうけど、傍から見れば、どっちが悪い奴かわからなくなってくる。
「パブやんとマリやんは『アレ』やるから子どもたち連れてはよ逃げといてくれへん?」
「わかった。巻き込まれなようにね?」
「わかっとるよ♪」
カリンの企みに苦笑いを浮かべながら、その場を去る。
私達が殲滅したおかげか、帰りはスライムが出てこないので転ばないように注意するだけ。
大丈夫かなと、子供達を見ると、あまりのスピードに恐怖通り越して楽しんでいる。まぁ、常人の二倍近いスピードだしね。
洞穴の入口を颯爽と抜け、『アレ』に巻き込まれない程度まで【ミカル山地】を降りる。
「ふぅ……ここまで逃げれば大丈夫かな」
「『アレ』の威力は馬鹿にできないからな」
洞穴を見上げながら呟くと、パブロに背負われていた男の子が、恐る恐る尋ねた。
「あ、あのお姉ちゃんは?山賊さん強いから、負けちゃったら……」
「大丈夫だ。カリンはあんなやつに負けるやつではない。それに、そろそろ決着が着く頃だ」
その言葉で、全員の視線が洞穴に向く。
特に変化はなさそうだが、よく見ると、岩肌が赤く変色している。
「皆!耳塞いで!」
そう叫ぶと、子供達が悲鳴を上げて耳を塞ぐ。口調、強すぎたかな?
そう思った直後、洞穴の岩を溶かすほどの爆炎が、洞穴から飛び出した。
マリー「今回も解説コーナーやるよー」
マリー「今回は私達の二つ名についてお話」
カリン「しようと思ったんやけど、話題変えるでー」
マリー「ファッ!?」
パブロ「今回はスキルの概念についてだな」
カリン「スキルってのは、うちの『糸体再構成』みたいに、その人や武器が持つ特別な力のことやー。マリやんの『黒羽楽団・狂詩曲』もそれやね」
パブロ「俺達の現役時代……五十年前まではほぼ全員が何かしらのスキルを持っていたんだが……こっちではどうだろうな」
カリン「そーゆー訳で、次回も楽しみにしときー」
マリー「……何回絞めればいいのかな(殺意)?」