1 山賊達の話
二話です。
全話は苦しい口調でしたが、今回から緩くなります。
「親方、今日は大量ですね!」
「あぁ、どいつもこいつも美味そうだ」
【ミカル山地】の中腹にある洞穴から、厳つい男の声が響いている。
この山地に巣食う山賊の本拠地内では、十人の男が、縛られている数人の幼い子ども達を見定めるような目つきで見ている。
「その汚らわしい目でわらわを見るでない!」
縛られている子供の中の内の一人はが、山賊達を恐れることなく声を荒げる。
「うるせぇ!殺されてねぇのか!?」
頭にきたのか、山賊の一人が腰から蛮刀を抜く。銀色に光るそれを、声を荒げる女の子に突き立てようとして、
「おい。ソイツは今日の中でも特に上物だ。傷つけたら、テメェの首が飛ぶぞ?」
親方と呼ばれていた男が静止した。
「だけどよ!……いや、何でもねぇ。悪い」
「カカカ、分かりゃあいいんだ」
蛮刀を静止させた男は、気味の悪い笑い声を上げた。そして、その女の子の胸ぐらを掴んだ。
「おい。これ以上声を荒げるな。殺しはしねぇが……俺らの性奴隷になり果てるかもなぁ?」
「クッ……下道共が!」
「どうとでも言え」
男が、女の子を開放する。
「しくじったの」
女の子が聞こえないように呟く。
この威勢のよい女の子、名をアリス・カナリアという。【ミカル山地】に隣接する商業都市【カナリア領】の領主の一人娘である。
「上手く空きを狙われたの。救援が来るのはかなり先じゃろうな」
アリスは考える。
カナリア領には当然騎士団というものがいることにはいる。だが、ある事情があって、カナリア領には今はいない。帰ってくる時期も不明だ。加えて、アリスの父である、ロイ・カナリアは剣を振ったことのない貴族出身なので、この状況下では役に立たない。
「せめて、誰か一人脱出できればの」
周りを見渡せば、手を紐で後ろで縛られた少年少女が何人もいる。一番下は五歳だろうが、一番上は見たところ自分よりはは超えているだろうとあたりをつけた。しかし、その紐を解いて逃げる事は無理と考えた。それは自分でも同じ。洞穴の出口付近には、今いる十人以外に、三十人ほどが見張っている。これだけいれば目立ちそうだが、全員の装備が迷彩柄なので、森の中では発見すら困難だろう。
「これが父上の言う、詰みというやつなのだろうな」
そう。まさに、アリス含む少年少女達は詰んでいる。
このまま誰も来なければ、奴隷のして売り払われるかもしれない。
もしくは、身代金のネタになるかもしれない。
もしかしたら、男の言うように、永遠にいいように使われる性奴隷になるのかもしれない。
「せめて、誰か来てくれぬものかの」
また呟くと、山賊の一人が気付いたようで、ニヤリと笑いながら言った。
「お嬢ちゃん。残念だけど、諦めるんだな」
ケラケラと笑い、その男が奥へと消えていこうとしたその時。
外で何かが壊れる音がした。
「な、なんだ!?」
洞穴の中がパニック状態に陥る。
「お、親方!親方ぁ!」
そこへ、見張り係の山賊が、慌てた様子で駆けてきた。額には汗が浮かび、所々に傷がある。
「ど、どうした!?」
ボスも驚いているようで、慌てながらも状況を聞く。
「そ、外に、めっちゃ強い三人組が!」
「何だと!?」
親方格の男は考える。
場所はわかりづらいはずだ。
面子には迷彩柄の装備を着せた。
騎士団のいない瞬間を狙った。
だというのに。
「な、なんで気づかれてるんだ!?」
思わず、声を荒げてしまった。
「完璧やね。二人とも、残したのお願いねー」
「ああ」
「オッケー」
仲間の合図で、私ともう一人が茂みから飛び出す。
目の前には、山賊が立てたと思われる物見やぐらが、ほぼ全壊して佇んでいる。
その全壊によって、見張りの山賊の半分は巻き添えに。残り半分は、私達を見つけて、襲ってきた。
「数の暴力というが……揃っても雑魚だな」
隣を走っていた仲間が、鎌を抜いて、
「羅ァッ!」
鎌を横に凪いだ。
風が起こるほどの強力で速い、絶命の一撃。三人同時キルだ。
「流石。じゃあ、私も負けられないね」
背中の翼に力を込めて、小さく飛び上がる。
「『黒羽楽団・狂詩曲』」
翼を羽ばたかせて、羽を散らせて、その羽が黒い風をまとって、山賊たちを追尾し切り裂く。
「ふぅ」
出口前は殲滅したし、取り敢えず一息つけるかな。後ろ、狙われてるけど。
「甘いんだよぉぉ!」
後ろにいた最後の山賊が、私を斬らんと剣を振り落とそうとする。
でも、その大振りの剣は届かない。
「させへんで♪」
「グハァッ……」
がら空きになった横腹に、棘付きの鉄球……星球武器が突き刺さって、山賊を塵のように吹き飛ばす。
「ナイスでーす。相変わらず痛そうな攻撃だね」
「同意。見てるこっちが痛い」
「いやーそんなに褒められても何も出んよー?」
照れた様子で出てきたもう一人と合流する。
「それにしても、生き返ってもみんな強いねー。私なんてまだ本調子じゃないよ」
「私もやなー。全然力入らへん」
「生き返れただけ感謝」
私達は五十年前に確かに死んでるはずだけど、今はとりあえず、目の前の山賊を倒してから、もう一回考えよう。
「それじゃあ行こう。カリン、パブロ」
「出発やー」
「御意」
何だか遠足気分のカリンと、相変わらずのパブロに合図しながら、洞窟へと侵入した。
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