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魔術狂世界  作者: あば あばば
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第五十五話:第二夜/時間が問題

「……なるほど」

 俺が長々と事情を説明し終えると、ヴィバリーは一言ぽつりとそう答えた。

 まず伝えたことは、時間が夜明け前でループしていること。そして、前の夜に起きたこと――砂塵騎士団に出会い、森をさまよって、カナリヤと戦ったこと。……ヴィバリーが死にかけたことはオブラートに包んで、負傷したことだけを話した。

「時間系の魔術師ねぇ……さっきからあんたがぐにゃぐにゃしてる理由がわかったよ、ユージーン」

 アンナは聞き覚えのあるセリフを言って、ぐったりしたユージーンの頭をなでる。

「ああ。だから俺たちは、その魔術師……コララディって子供を見つける必要があるんだ。この森の中にいるはずだから……見つければ、きっと魔術を解かせられる。たぶん……」

 我ながら、なんてぼんやりした話だと思う。フィクションの「時間ループ」は他人事だから客観的に見られたけど、自分で体感してみると思った以上に脳の混乱が大きい。

 前の時間軸は(おそらく)完全に消えたわけだから、今となっては鮮明な夢みたいなものでしかない……夢の記憶なんて、そう長く覚えておけるものじゃないんだ。話しているうちにどんどん確信が持てなくなって、言葉も自信なさげになっていく。

 だが幸い、ヴィバリーは疑わずに俺の話を信じてくれたようだった。

「わかったわ。森の中でかくれんぼというわけね……どうして種明かしをしたか知らないけど、いったんその子供の言う通りにしてみましょう。魔術師という連中はたいてい、自分が仕掛けたゲームのルールは守るから」

 そう言って、鋭い目で森をにらみつけるヴィバリー。取り乱し気味だった前の晩と違って、彼女が冷静に事態を把握している姿を見て、俺は少し安心する。

 だが俺のゆるんだ顔を見返して、ヴィバリーはふと眉をひそめた。

「……トーゴ。あなた、自分が何を背負わされたかわかっている?」

「え?」

 きょとんとする俺。ヴィバリーは少し目をそらして、火打ち石を打って松明に火をつけるアンナたちの姿を見た。火花でかすかに照らされるヴィバリーの顔は、苦々しかった。

「私たちは時間の『巻き戻し』を認識さえできていない。記憶を保てるのはおそらく、あなた一人だけ。この広い森の中、一晩で魔術師が見つかるとは思えないわ。何度も同じ夜を繰り返すことになるかもしれない。あるいはもしあなたが全てを忘れたら、私たちも砂塵騎士団と同じように……」

「永遠に森に閉じ込められるんだろ。わかってるよ……なんとか、忘れないようにする」

 実際のところ、砂塵騎士団の連中ものほほんとしていたのであまり俺に危機感はないのだが。ヴィバリーたちにしてみれば、100年後の世界に放り出されるのはかなり嫌だろう。……なんかそんな話を前のループでした気がするな。

「……とりあえず、地図を描いておいて。わかる範囲でいいから、前の夜にどこを歩いて、何を見つけたか」

 そう言うとヴィバリーは紙と羽ペンとインクを俺にごちゃっと押し付けて、アンナたちのところに歩み寄った。

「アンナ、あなたはユージーンといっしょにどこかの木に登って」

「えっ……登るの? あたしが? ユージーン抱えて?」

「ええ。地形を把握しておきたいの。ユージーンなら夜目がきくわ。何か問題ある?」

「……ない。くそっ、まぁ折れなきゃ大丈夫か……」

 不安げに唸りつつ周りの木々を眺めるアンナ。そういえば前の晩はヴィバリーが木に登っていたっけか。アンナが前に何を言っていたかぼんやり思い出して、くすっと笑う俺。

「ニヤニヤしていないで、早く仕事にかかって。時間がないのよ」

 いつのまにかそばに立っていたヴィバリーが厳しく言う。俺はため息をついて、慣れない羽ペンにインクをつけ、紙を広げた。

「あれ……それじゃ、お前は何するんだ?」

 ふと気づいて尋ねる俺に、ヴィバリーは涼しい顔で答える。

「私はできるかぎり周囲を探ってみるわ。大したものはないでしょうけど……それでも次の夜の私の仕事を減らせる」

「……一人で行って、迷わないのか?」

「心配ないわ。エルフほどではないけど、夜には慣れている」

 そう言うと、すっと身を屈めてヴィバリーは暗闇に歩み入った。そしてほんの数秒のうちに、彼女の姿はどこにも見えなくなっていた。

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