第五話:青の騎士アンナ、赤の騎士ユージーン
「どうやらマジで何もわかんないらしいから、あたしがちょっとずつ説明してやるよ。あたしも、もとは北のウーバリー領から来た異邦人だからね」
とりあえず起き上がれるようになった俺は、食事を摂りながら、筋肉女――アンナから色々と説明を聞くことになった。
「まず、あたしたちのことからかな。あたしたちは、一応、流れの騎士団をやってる。護法騎士団とはソリが合わなかったんでね。昨日、あたしたちの前に来た連中を見たでしょ? あんな烏合の衆と、狩りはできないよ……ま、せっかくかち合ったから、囮に使わせてもらったけど」
「……騎士団?」
そこからか、という風に顔をしかめるアンナ。
「騎士団は、はぐれ魔術師を狩るための集まりだよ。護法騎士団ってのが最大手の組織で、各領地の至るところに分隊がいるんだ。普通は四人単位で隊を組むんだけど、うちは精鋭しかいないんで三人で十分以上にやってる。今のところ、ね」
ゲームの設定だと思えば、なんとなく理解はできるが……それでも、なかなか用語が多くてわかりにくい。基本用語はありがちでも、意味合いが世界観によって違ったりするのがめんどくさいんだよな。つまり、ここじゃ騎士団ってのがよくある鎧兜の集団ってだけじゃなく、魔術師狩りをやってるってことはわかった。
「で、魔術師ってのは……」
「それ、説明必要なの? マジか……えっと、魔術を使う奴らだよ。魔術ってのは……魔術としか言いようがないじゃん」
まあ、その通りかもしれない。
「でも、その……魔術師ってのは、大体こう……打たれ弱いし、そんなに強くなさそうだけど……」
完全にゲーム目線で語る俺に、アンナは首を横に振る。
「あんたの出身地ではどうだか知らないけど。ここでは、魔術師って言ったらまあ、化け物の類と同じだよ。というか、この世界にいる化け物ってのは、元をたどれば魔術師の作ったやつだからね……」
一瞬、遠い目をして、窓の外を見るアンナ。外には、空が見える。空は、元の世界とあまり変わらない。青くて、白い雲がかかって、木が生えている。見た目通りの中世っぽい世界なら、空気はうまそうだ。食事は正直、まずかった。パンが固すぎるし、全体的に味がない。
「……言われているところによると。この世界の始まりには、八人の魔導師がいた。魔導師ってのは、つまり魔術師の超強いやつさ。彼らがそれぞれ大地を作り、生き物を作り、今の世界ができたんだと……まあ、単なる伝説だけど。でも実際、連中の後継者が今でもこの世界を牛耳ってる」
世界の始まりからして、全てが魔術師を中心に回ってる世界なのか。
「うーん、神様、とかはいないのか……?」
「カミサマ? さあねえ、聞いたことはないね。それ、なんか強いやつなの?」
よくあるファンタジーっぽく見えて、微妙に違うところもあるようだ。俺はため息をついて、部屋を見回した。
……と、部屋の隅でぼーっと突っ立っている、一人の子供と目があった。長い、ぼさぼさの銀髪の、ぼろっちい服を着た子供……12、3だろうか。少女にも見えるし、少年にも見える。ざっくりした印象は、野生児。
「あ、ユージーン。あんたの命の恩人に挨拶しなよ」
その名前で、ようやく気付いた。この子こそ、サヴラダルナとの戦いで天井に潜んでいた「射手」なのだ。
ユージーンは、俺の方へ近づいて来たかと思うと、じっと俺の目を覗き込んだ。遠目には気づかなかったが、近くで見ると、ものすごい美形だ。人間離れしている感じさえするような……
「……汚れてる」
引き気味の俺に向かって、ユージーンはそう言い放った。どきりとした。俺の内面を言い当てられたような気がした。ここに来て、立て続けに色々あったせいで、忘れかけていたこと……自分が、人殺しだということを。
「こら、ユージーン! ……失礼な子だねえ。しつけが悪かったのかな……」
そう言いながら、アンナは俺の皿から勝手にパンを一つ取って食べた。……自分も、ずいぶんしつけがなってないようだ。