第四話 初めて知る事実と痛み
ーーー 目を覚ますと俺は大木に縛り付けられ、周りには複数の男がいる状態だった。村…ではなさそうだ。縛っている紐は特殊な紐なのだろうか。暗い森でも月の光で輝く銀色の紐は、どんなに力を入れても切れることはなかった。目の前の男が口を開く。
「目を覚ましたようだな。リリス様には申し訳ないが、我々にはこうするしかないんだ。どうせお前も人族だ。これから仲間を連れてこの村を狙いにくるんだろ?」
棍棒のような武器を持った男が4人、俺を見る目が鋭い。こんな表情で誰かに見られた事がなく、足が盛んでいるのがわかる。
「1つ聞かせてください。人族と貴方達エルフの間には何があったんですか?」
バキィッ!!!
腹部を棍棒で殴られる。木に縛られており、力の逃げ場がない一撃は腹部に強い衝撃を与えた。熱湯のような物が胃から上がってくる。
「う、うげぇっ」
「お前ら人族が何を言ってやがる!!!人族はエルフ、獣人族を奴隷として扱い、暇をもて遊ぶように殺し…何百年も前からそうしてきたじゃないか!」
「王子…リリス様の兄も人族に殺されてるんだ!貴様ら人族が我が里を襲い」
(どういうこと事だ…それなのになんでリリスは)
ボキッ!!!
左腕が折れた…激痛が走る。
「リリス様には人族に殺された事は秘密にしているらしい。人族を恨まず、真っ直ぐに生きて欲しいという王子の最期の願いだった…それだけでなく、先代も、そして過去あった王国も人族に。」
「何も知らないフリしているが、俺らには信じることは出来ないんだ。この村を知った人族は、必ずまた仲間を連れて襲いに来る。」
「そ、そんな事する訳ないじゃないですか…そもそも何処にこれから…」
ゴツッ!!!ガツンっ!!!!!
ついに頭部を殴られた。この世界に来て力は付き、体力が強化されていたが痛覚はある。今まで感じたことのない痛みとともに…いしきが…
エルフの過去を聞きつつも、リリス、アリエッタが共に過ごした時間は1日とはいえ、争い憎しみを持つ関係になるとは思えなかった。こんな世界おかしい。
消えゆく意識の中、二種類の声が聞こえる。
「あとはどうせ獣魔に喰われるだろう。シャール様に報告を…」
『ヒロはレベルが上がりました。』
なんで殴られてレベルが上がって、エレベーターガールの声はハキハキと聞こえるんだ!と思いつつ、そこで意識が途絶えた…
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次の日朝、眩しい朝日に綺麗な黄色い髪をなびかせた少女が慌てたように走る。
「アリエッター!」
「リリス様、どうされましたか?こんな朝早くに。」
「ヒロ様が居ないのですが何か知りませんか?」
「お疲れだと思い、まだ声をお掛けしてないのですが…って!殿方の寝室に入ったのですか!!!」
リリスはビクッとするが、すぐに話し始める。
「そういう事ではなく、客間に誰も居なかったのです。」
「確かにおかしいですね?あの方なら旅立つ前に一声かけて行きそうなものですし。」
「彼なら早朝に旅立ちましたよ。」
2人がいる居間の奥からシャールがそう言いながら出てくる。寝ていないのか、イケメンの目にはクマができていた。
「シャール、何故起こしてくれなかったのですか?」
「あの方が別れを告げるのは辛いと、そっと出ていきたいと懇願したからでございます。」
昨夜、満面の笑みで踊り、話していた少女からは笑顔が消えていた。
「また、いつもの日々に戻ってしまうのですね。」
急に現れた異世界の少年。少女の中にも種族間の問題に思うところはあった。出会った少年の出現に、今抱えるエルフの問題や自分の生活が何か変わる事を無意識に期待をしていたのであった。