第三話 格式の高い女の子
「リリス様、本当に人族を村に連れてってよろしいのでしょうか。村の近くに人族が出たというだけで、問題とする者も出てくるでしょう。」
「命の恩人ですし、悪しき気配はしない方です。何より、あの方からは不思議な力を感じます。もう少しお話をしてみたいのです。」
神妙な話をしている二人をよそに、俺は見たこともない空を見上げていた。村に近くになるにつれて日が落ちて来ていて、そこで気がついたのだが月が3つもある。
(月が3つもあると威圧感があるんだな)
しばらく歩くと村が見えてきた。道中日本の学校やアニメ、ゲーム、景色の話をしてあげた。またも目を輝かせ、キャッキャと俺の話を聞いてくれる。
…悪い気は全くしない。
「リリス様!どこに行っておられたのですか!!!」
武装した男性が数名、血相を変えた表情でこちらに走ってきた。鎧を着ているからあまりわからないが、全員が相当鍛えているのであろう…そして全員がムカつくくらいイケメン。
「シャール様、ご心配をおかけしました。少しトラブルにまきこまれてまして。」
「おぉ、アリエッタ。いつも本当にすまんな。とにかく、2人とも無事で良かった…」
リリスが下を向き申し訳なさそうにしている。このイケメン騎士には弱いらしい。身長は高く、青く綺麗な瞳をした淡麗な顔立ちをしたイケメンだ。少し遺伝子を分けてくれ。
「それはそうと、こちらの少年は?」
「こちらはヒロさんです。獣魔に襲われているところを助けてくれて、村まで送ってくれました。悪しき気配をしないのですが人族のようでして…」
「…人族だと?それに何故こんなところに獣魔が」
一同が騒ついた後に、異様な空気に変わったのがすぐにわかった。所々で話が聞こえたが、人族は相当忌み嫌われているらしい。そこでリリスがー
「今日だけ…シャール…今日だけでいいから、私達の命の恩人を迎えてもらえないでしょうか。この方はきっと大丈夫です。それに、お話していてこんなに楽しいのは…とても久しぶりでした。」
リリスの言葉に、少女の願いにそこにいた男達の空気が変わった。そして…
「護衛をつけることと、明朝には旅立ってもらうことを条件とさせてください。ヒロ殿、2人を助けてくれた事誠に感謝します。」
何も悪い事はしてないが、人族がここまで嫌われているのは悲しい気持ちになった。きっとこの世界では俺が知らない、種族間の大きな隔たりが今も根深く刻まれているのだろう。その話をさらに聞くことがまだ俺にはできなかった。
〜〜〜〜〜〜
館に付き俺はあることに気づいた。
「みんな耳とがってません!?」
帽子か兜を取った村の人々は全員耳が尖っていた。本屋小説での話が目の前にあるなんて思わず、ある言葉が口から漏れていた。
「…エルフ?」
全員がこちらを不思議そうに見ている。何を言ってるんだ、この田舎者はと言わんばかりの顔だ。村人め、こっちは町に住んでたんだぞ。
「ヒロさんはエルフを見るのは初めてですか?」
「はい、本当に存在するんだと驚いています!耳、本当にとがってるんですね!!!」
はしゃいでいる俺を見て、シャール達も悪しき気配がない謎な人族に困惑していた。リリスはもちろん笑っている。その笑顔を見たシャール達はさらに困惑をしているのであった。
その晩、宴を開いてくれた。神秘的なイメージがあるエルフだったが、実はおもてなしが好きらしく、宴もお祭りのようで楽しかった。その時アリエッタが俺の隣に座る。2人の目には村人や騎士達と踊るリリスの姿が写っていた。
「リリス様があんなにはしゃぐって珍しいことなんですよ。」
「えっ?」
「幼い頃にお兄様を亡くしてからは、お屋敷に大人と常に共に過ごしていました。お友達もリリス様には気を使い、心から楽しめるお相手は居なかったのだと思います。」
ただのお金持ちの娘さんでは無かったようだ。本当に格式の高い娘なのだろう。
「リリスさんはどういった位の子なのですか?」
「…事情があって今はこの村にいますが、エルフ国の王女様なのです。」
「えーーーっ!!!!」
馴れ馴れしくしすぎていて、後悔しかなかった。アリエッタはクスッと笑った後に
「エルフの国にも事情があって、ヒロさんとは明日にはお別れしないといけません。ですが、またどこかでお会いできた時は、またリリス様とお話してくださいね。」
あんな小さな子が国を動かすとは思いもしなかった。俺はそのあと少しだけリリスと話をして寝ることにした。
…どれくらい眠っただろうか。何故か寒い。
目を覚ますと俺は縛り上げられ、数人の男に囲まれていた。