第二話 異世界人
「あ、あの…」
急に声を掛けられ我にかえる。見たこともないステータス画面は消えていて、振り返ると先ほど助けた親子が立っていた。
「危ないですよ!やめましょう!!!」
母親の方は俺を見て酷く怯えているようだった。少女を抑えて、話しかけるのを止めている。
あんな獣を倒したんだから怯えないはずがない。
娘は歳は12歳くらいだろうか。まだ幼さの残る少女であった。二人とも帽子を被っていてよく顔が見えなかったが、
(か、可愛すぎだろう…やばい)
元いた現実世界であれば、確実にアイドルとしてやっていけそうなクリッとした目と程よい高さの鼻、透き通る白い肌の金髪の女の子だった。
「大丈夫です!私達を助けてくださったのですから。怪我もしてますし。」
「いてっ!!!」
アドレナリンのせいか、右腕に大きな切り傷がある事に今気づく。こんな自分についた傷、流れる血なんて見たことが無い。
「腕を見せてください。」
「おう……リリス様!!」
少女が俺の腕に手を添えて眼を閉じる。
すると急に手が淡く輝く白い光に包まれ、右腕には優しい暖かさを感じた。
「はいっ!これでおしまいです!」
(あれっ?痛みがない?)
光が治った右腕を見ると、先程出来ていた切り傷が綺麗に無くなっていた。むしろ少し荒れた肌も綺麗になっている。右腕だけ。
「これはなんですかっ!き、傷が治ってます!」
見るからに慌てる俺を見て、少女は笑っていた。先程まで怯えていた母親も、少し表情が和らいでいる。
「今のは法術の1つで、治癒術です。知らないのですか??」
「リリス様の法術は国でもトップクラスです。なかなか直接治癒をしてもらう事はないので、本当に光栄な事ですよ。」
「それではレベルもすごく高いのですか?」
「レベル?何の事でしょうか?聞いたことがありません。」
もう言ってる意味がわからない。たぶんゲームでいう回復魔法なんだろう。ただレベルを知らないのは本当のようだ。
そして、そこで2つのことに気づく。1つは話が出来ている事。異世界で日本語が使えるのはおかしい。
先ほどのステータス画面を見たいと意識を集中すると、同じようにパラメーターが書かれたボックスが空気中に現れた。
■所持スキル:【レベリング】、【言語理解】、【異世界人】
絶対この言語理解というスキルのおかげだろう。そして、モロに異世界人と書かれている。
(やっぱそういう事ね!薄々気づいてた!)
もう元気に行こうと思う。もう1つはー
「リリス…″様″…?親子じゃないんですか?」
ついに母親から笑顔が溢れる。うん、とてもキレイだ。
「アリエッタは母ではなく、私を小さい頃からお世話してくれているお手伝いさんですよ。」
『リリス』という少女が教えてくれる。お金持ちの家の娘さんでしたか。うちの畳ハウスを見せてあげたい。
「私はアリエッタです。あなたはここでなにをしてたのですか?」
自己紹介をしていなかった事にまた慌てて俺は答えた。
「俺は葛城比呂です!どう答えていいのかわからないのですが、気付いたらそこの草原に倒れてて…
なんで居たのかもわからないんです。」
「え?どこに元々いたのでしょうか?」
「北海道です。」
二人ともまったくわからないというように、こちらを見ている。そしてその眼差しが哀れみの目に変わってきた。
「頭でも打ったのかしら。リリス様治せないですか?」
「ごめんなさい…治癒術では記憶まで戻すことはできないのです。」
記憶喪失扱いされ始めたので、登校するところから二人と出会うところまで説明をした。するとリリスは目を輝かせて話しかけてくる。
「えーっ!異世界の方なんていらっしゃるのですか。アリエッタ!私は人族を初めて見ましたが、異世界の方や悪しき気配が無い方もいるのですね!」
「リリス様!異世界なんて聞いたことないですよ。ただヒロさんが嘘を言ってるように感じませんし、悪しき気配も感じません…どういうことでしょうか。」
よくわからないが、種族で何かがあるらしい。そして俺は人間という事で人族なのだろうか?
「ヒロ様。私もっと異世界の話を伺いたいです。もし良ければ私の村まで来て頂けませんでしょうか?」
「流石にリリス様それは!」
「命の恩人です。客人として持て成しましょう。」
この少女は何者か…どこか威厳を感じる瞬間がある。目をキラキラさせた時はあどけない表情をする少女だったのに。
この世界で行くあてもなく、やる事もない俺は二人の村についていくことにした。それはそうと…
「2人はなんでこんなところを歩いていたのですか??」
リリスがビクッとなっていた。エヘッとした表情でこっちを見ている。きっと悪い事をして村の外に脱走したのだろう。3人は村に向かって歩き始めた。