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草原の空

活動報告とは違うサブタイトルになっちゃいました。

 リトルハッグまでの道中に、私はこの世界マホログについての情報や『魔法』についてリスカから教わった。そして、リスカがどういう立ち位置でマホログに君臨しているのかも知る。

 驚きの連発だったけれど、リスカの実力を地位と一緒に聞けば……私を異世界に連れてくるだけの魔法が使えたのも納得した。

 私を連れてきた理由は、相変わらずはぐらかされているようだったけれど――――従僕だ。


「マホは戦争を体験したことがないじゃろう?」


「できれば生きている間に経験したくないです」


「敬語じゃなくて構わんよ。お前さんは他の人間とは違って、あたしの劣化版。言わば身内みたいなものじゃ」


 身内と従僕はまったく違うけれど、リスカがそう言うのならば従うしかない。地位が高くても威張らない人間なのかもしれない。

 そう思えば寛大な魔女だ。


 寛大じゃない魔女の例がいないので推測しかできないけれど。


「わかった。リスカさんは――」


「リスカで良い。かしこまる必要もない」


「……リスカはリトルハッグに住んでいるの?」


「異な事を言うではない。あたしが集団行動を好むと思うか?」


 まだ出逢って数時間の間柄なのでまったくそうは思わない。リトルハッグがどれだけの国か知らないけれど、さっきまでいた『草原』がどこかの国の所有物という可能性もゼロではない。その国がリトルハッグである可能性だってある。

 そもそも戦争の国と呼ばれる所以は『英雄』がいたからだとか。

 案外うさんくさい歴史の延長線上で、そう呼ばれているらしい。はじめに戦争の国とか言われたときは心臓に悪かった。


「さぁ? それじゃあ、私たちはリトルハッグの後に別の国に移動するってこと?」


「戯け。いや、お前さんのいた国では惑星そのものを国が所有していたっけのぅ」


 そういえばリスカは受験生数百人を殺した時に、同時に数百人の人間がこれまでどのような経験をしてきたのかを受け継いでいるらしい。すべてではなくとも、勉強に没頭した人間の記憶を数百人単位で引き継いでいる。

 今のリスカは私よりも遙かに人間らしい考え方を持てるはずだ。


 それでも経験として、どう自分の人生に生かせるかしか考えていないらしい。それがリスカの《暴食》たる所以なのかもしれない。


「マホログでは未開拓の土地が腐るほどある。いちいち開拓していては来たる日に何も出来なくなる」


 ふうん。

 来たる日……それが何なのかはまだ知る必要がないと思う。

 ただ、未開拓の土地が野放しにされているのは、ダンジョンなんかがあるかもと思うと少し興奮する。そういう組織もあるのだろうか?


「まあ、小遣い稼ぎの集団が冒険なんかをしているが……ああいうのがいるから経済が回るわけじゃ」


「小遣い稼ぎの集団?」


「ギルドやパーティーなんかじゃよ。マホもそういう知識はなんとなく分かるじゃろ?」


 分かると言うよりも大好物である。

 そうか、異世界と言ったらやっぱり冒険だよね!

 私はまだまだ初心者だけど、少しずつ上達して物凄い冒険なんかもできるかな?


「とにかく。所詮は敗残兵の集まりに過ぎないが、腕試しで足を運ぶやつもいるし何とも言えん」


 敗残兵とは酷い言い方だ。

 そもそも敗残兵が再び冒険をしようというのは、並みの精神力ではない。立派なことだと思う。


 少なくとも自分の才能を活かせるなら、ギルドやパーティーで活躍するのは良いことだ。お金が手に入るなら尚更。


「話を戻すが、リトルハッグにはマホの服装を買いに行くだけじゃ。他の用事はまた別の時じゃないと仕方がないからのぅ」


「他の用事?」


「ちょっとな。今は仕事で遠くの国に出ているやつじゃ。気にするな」


 まあ、知らない人のことを気にかけても仕方がないか。リトルハッグのことも、何よりマホログについても私はまだ深く知らない方がいいだろう。

 力がない状態で多くを知るのは危ない。


 リスカが用事というのは、少し気にならないわけでもないけど。


「あ! そうだ!」


「うん?」


「お金! この世界のお金を私は持っていないわ!」


「ああ。そのことなら気にせんで良い」


 リスカは手から黒い霧を生み出して、そこから小袋を取り出した。チャラチャラと金属の擦れる音が聞こえる。

 その小袋を流れるように私に手渡してきた。


「これって金貨じゃ?」


「そ。金貨1枚銀貨100枚分の価値じゃ。銀貨1枚は銅貨100枚分じゃ」


「洋服の買い物は銀貨が何枚あれば足りる?」


「10枚でもあれば足りるはずじゃ」


「……なら、金貨は2枚だけ借りておくね」


「うん? あたしは貸し借りの関係は嫌じゃ。2枚程度もらっておけ」


 寛大だ。

 私は小袋から金貨を2枚取り出して、1枚をポケットに。もう1枚を三角帽子の裏側に入れた。ちょっとしたスペースがあったので、良いへそくりだ。

 金貨1枚があるだけで十分な生活ができるのは知ってて得だ。


 だけど、このお金は後で必ず返そう。


「もう少しでリトルハッグじゃが……決して驚くなよ?」


 驚く?

 多少の期待はしているけれど……。


「あたしは、言ったように大罪人じゃ」


「……まあ。うん。そうだろうけど」


「じゃから。向こうではリスカという名前は禁止じゃ」


 ああ。そういうのもダメなのか。


「というわけで、師匠とでも呼ぶように」


 なるほど。

 生まれて初めて他人をそうやって呼ぶけれど……咄嗟にリスカと呼ぶ可能性はある。もし、そう呼んだら……どうにかごまかそう。


「わかった師匠」


「それからもうひとつ」


 うん?


 リスカは全身が黒い霧で包まれて、何というか、知らない人に姿を変えた。


「うむ。これなら不服者が敗残兵に見えるじゃろ」


「敗残兵と言うよりも、大人って言った方が良いんじゃないかな――師匠」


 黒い長髪は変わらず、しかし見た目は大人そのものに変っていた。大学生になる機会が失われたけれど、こんな風貌の大学生はいそうだ。

 真っ黒いワンピースの似合う女性などそうそういるものではないだろうけど。


「異な事を。敗残兵とは大人のことじゃ」


 この世界では子供が戦争をして、負けた人間は固有魔法を失う。リスカはそう言っていた。

 敗残兵とは、大人のことか――――この世界では、いったいどれだけの大人が残っているのだろう。

明日はリトルハッグを書く予定です♪

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