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草原の穴 ⑤

草原の穴がここで終わります。

《お隣さん》の血液は無味無臭ではなく、人間の血よりも少し生臭い感じだった。昔鼻血が逆流してむせた時を思い出す。

 そのくらいしか血が口に入ることなど滅多にない。


 懐かしい思い出に浸りながら、私は自分の身体がしっかりと魔法を発動したのを体感していた。


 一番最初に気がついたのは、右足の感覚があることだった。


「これで《お隣さん》と対等の力を手に入れたことになったのかぴょん?」


 ぴょん?


 なんで語尾に「ぴょん」なんてついたんだ?


「魔法に副作用があるとは思えないぴょん」


 まただ。いや、今はそんなことは良いだろう。

 とにかく、私は《喰吐》を発動することに成功がした。解除の仕方は分からないけれど、全身に力が漲っても受けたダメージがなくなるわけではない。


 捕まれている状況でも身動きが出来ないわけではなかった。

 私は異様に鋭い歯を使って《お隣さん》の手を食い千切った。切断することはなかったけれど、噛みついた部分をそっくりそのまま千切ることは出来た。


 これが《喰吐》の力なのかは分からない。


 身体能力が信じられないほど向上したのは分かったけれど……。


 ウサギは悲鳴のような声を上げて私を解放した。ウサギの身体能力を手に入れた私が着地を失敗することもなく、むしろ負荷なく着地することに成功した。

 脚力と顎の力が上昇したのだろう。他にもあるだろうけれど、今はそれだけわかれば十分だ。


 十分逃げることはできる。


 着地して、すぐに私は木々のある方へと走った。


「うっは! 早い早い! これなら戦えるぴょん!」


 もう語尾を気にする暇はない。

 一歩一歩の移動距離が人間では比べものにならない。数十メートルをひとっ飛びできる脚力を私は手に入れた。

 後ろを振り向くと《お隣さん》も同じくらいの速度で走ってきていた。向こうの方が少し早いのはオリジナルだからだろう。


 だけど、私の方が一足先に木へ到着したので…もう勝ち確だ。


 確かにリスカが最初に言ったように、魔法が使えればボコボコだ。これだけの身体能力を手に入れてボコボコに出来ない人間は、相手を傷つける精神力がないだけだ。

 私は違う。

 これまで傷つけてきた人間のおかげで、私は平気で誰でも傷つけることができる。


「けど。殺すのはやっぱり可愛そうだぴょん……」


《お隣さん》は可愛いウサギの顔をしている。それは今だって変らない、少し怒っているけれどそれも愛嬌の一つに受け入れられそうだ。

 身体がボディビルダーのようにムキムキだったけれど、それでもあまり痛みがないのは魔法と物理は相性が悪いのだろう。断定することはできないが。


 私はジャンプして木の枝にぶら下がり、体重をかけてへし折った。

 自分と同じ背丈くらいの長さをした、丈夫そうな枝だ。


「殺すならできるだけ一撃で……《鋭刃》」


 枝の先端ではなく、手に持っている部分以外を鋭利な刃物に変えた。認識の仕方で魔法も好きなように使えることが分かった。

 この枝は、刀と同じ役割になっている。


 刀を使ったことはないけれど、このくらいの枝を武器として戦うことは誰もが通った道だろう。木の枝を剣に見立てることは、女の子でもする。


 向かってくる《お隣さん》目がけて、私は全速力で走り、そのまま飛び跳ねた。走り幅跳びの感覚で、ウサギの目の前に移動する。

 文字通り『目』の前だ。


「さよならだぴょん!」


《お隣さん》は反射的に殴りかかってきたが、それよりも先に私は《お隣さん》の首を切断することができた。だが勢いあるパンチは私に届いて、おかげで数十メートル近くまた吹き飛ばされたけれど――


 痛みも最初ほどはなかった。

 自分のパンチを自分で受けたようなものだ。すぐに立ち上がり頭を失った《お隣さん》の様子を見る。どれだけ化け物であっても、頭がなければ死ぬ。心臓を一突きしようか考えたけれど、初めて見る生き物の心臓を一撃で仕留めるには首をはねるのが一番だ。

 一番わかりやすい。


 ウサギの生首は空を少し舞ってから、無様に地面へ落下した。そのすぐ後に、胴体はゆっくりと草原に倒れた。


 戦いは私の勝利で決着することができた。


「お疲れ様じゃな」


 シニカルな笑顔を浮かべてリスカは空から降ってきた。ホウキに股がっての降下なので、魔女らしさがにじみ出ている。


「お疲れぴょん。けど、これはいつ治るぴょん?」


 この語尾を早くどうにかしたい。いや、どうしてこうなったのかを先に知る方がいいのか?


 それに――――


「あと、この足は戻るぴょん?」


 私は右足の感覚を取り戻してすぐに、その存在に気づいていたけれど、ウサギの足になっていた。戦いにおいては別に何一つ支障はなかったけれど、これからの日常生活を考えるとウサギの足は目立ちそうだ。

 リスカは笑いながら、じっと足を見つめていた。


「魔法を解除してみ」


「いや、そのやり方が分からないから困っているぴょん」


「うん? 解除したい物に触れて《呪解》と言えば解ける」


 また新しい単語を……けど、それは固有魔法も詠唱魔法も共通しているのだろう。


「自分にかかっている魔法は自分を触れば良いの?」


「そうじゃ。胸に手を当てて唱えると効果的じゃぞ」


 効果的ではなくて確実性が欲しいのだけど……言われたとおりにする。


《呪解》


 お、おお……。

 今度は全身から力が抜けていくのを感じる。右足はウサギから人間の。私の足へと戻っていた。


「失った身体も魔力が多ければ自然に元通りになる。マホが固有魔法で一時的に大きな魔力を得たから、呪解した時に元通りになったんじゃな」


 なるほど。そういう原理なのか……かといって、足を失った時の痛みはかなりのものだった。それでも失神しなかったのは、肉体と同時に精神もかなり強くなっていたからだろう。

 どうして精神が以前よりも強くなっているのかは知らないけれど。


 まあ、いい。今はいい。


「それじゃあ。《穴》から出てきた《お隣さん》も倒せたし、これからどうするの?」


 気づけば語尾も元通りになっている。あの「ぴょん」は固有魔法の代償なのだろうか?

 それか副作用か。後で聞けばいいことだろう。リスカの魔法の下位互換ということは、副作用も似たような物になると言うことだ。多分だけど。


「そうじゃな……約束じゃった服装を見繕ってやろう」


「ああ。そういえばそんなことをお願いしてたっけ」


「別にあたしは今の服装でも構わんぞ?」


「そんな笑顔で言われても嫌ですよ。また魔法でちゃちゃっと変えてくれるの?」


「それでも構わないが、似た感じに――」


「お断りします」


 リスカはほおを膨らませて露骨に怒った態度を見せる。

 そういうリアクションは見た目相応で居心地が悪い。


「まあよい。それじゃあ、今から行くところは城下町じゃ」


「城下町? 城でもあるの?」


「いや? 城はないが学校がある」


 学校が……?

 城がないのに城下町で、学校がある?


「驚くことはない。お前さんが生きていた世界にあった学校とは違う」


「そりゃあ、魔法がないから違うのは当然だろうけど」


「そうじゃない。マホログの学校は、魔法学校じゃが同時に国をまとめる機関でもある」


「学校が?」


「ああ。行けば分かるが、目的は洋服だけじゃからな」


「……まあ、私にはあまり関係のある世界じゃないしね」


「今だけじゃがな。さて、ホウキに乗れ」


「え?」


 リスカはホウキのかなり前側に移動して、私が乗れるスピースを作ってくれた。それだとまるでホウキに乗って空を飛んで移動するみたいだ。


「あの。あのウサギはどうするの?」


「あれは学校の奴らが勝手に処理するから放っておけ。ここに《穴》が発生したのは向こうも知っている」


 ふうん。まあ、よく分からないけど。なんとなく頷いておく。


「今はあの馬鹿に見つかりたくないからのう。さっさと乗れ」


 随分と威圧的だけど、私はホウキにまたがる。

 ホウキにまたがってテンションが上がるのなんて、随分と久しぶりだった。


「それじゃあ行くぞ! 戦争の国『リトルハッグ』へ!」

明日は三人称視点で書いてみようかな?

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