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草原の穴 ②

毎日更新4話目

《穴》の高さは3階建ての校舎ほどしかなかったけれど、それでも人間なら、動物であっても落ちれば死ぬ。《お隣さん》との距離は数十メートルほどあったけれど、死んでいる様子は伺えない。

 こちらを見て可愛らしい小さな口をもごもごとしているだけだ。

 攻撃する素振りは見せていないし、向こうも動く意思がなさそうだ。


 なんて、のんきなことを考えている場合ではない。


「リスカ! あれが《お隣さん》でいいの?」


 状況を確認するために、リスカに訊ねる。


「どう見てもお隣さんじゃろう……さて、マホに一つだけ簡単な《詠唱魔法》を教えよう」


「このタイミングで?」


「死体に教えても虚しいだけじゃ。最も《屍肉宴会》でも使えれば別かな?」


 知らない単語は魔法の名前だろう。

 名前から察するに、ろくでもない魔法なのは想像がつくけれど……。

 さらっと殺されるのを前提にされても困る。魔法が使えなければ死んで当然の世界だろうけど。


「リスカが倒す――殺すんじゃダメなの?」


 私がこの世界に来たのは仕方がなかったとは言え、無力の状態では何もすることができない。戦わないで生き抜くことが出来れば上場だ。

 だが、リスカがそれを許してくれるとも思えない。


 本人はシニカルな笑顔を私に見せるだけだ。


「マチダ・ホノカよ。お前さんは、あたしの従僕じゃ。この意味が分からんわけではないだろう?」


「だけど、私はまだ何の力も持っていな――」


「あたしは殺した相手の記憶も大体は得られる。お前さんら魔力のない人間は『知恵』がある。この世界にいる者達は、ちと考えることが苦手でな」


「……でも」


「なあに。これまでの愚行には目をつぶるつもりじゃが。逃げることは許さん。あたしの駒として働け」


 ……その言い方は最低だ。

 だけど、今の私にはどうすることもできない。従うことすらままならない。


「わかった。わかったけど《お隣さん》を倒した後に一つだけお願いがあるの」


「なんじゃ?」


「この服装を変えさせて」


「えー」


 えー、じゃない。どうして突然見た目通りのリアクションを取る。

 ダサい上に下着もなしに外を歩くのは最悪のモチベーションになる。あまり動きたいとも思わない。人によるだろうけど、私は本当に嫌なのだ。

 おしゃれでなくとも普段の生活に近い格好になりたい。


 リスカは渋々だが頷いてくれた。


「あたしが教える《詠唱》は『鋭刃』の魔法じゃ」


 アーチェ?

 え、名前からだと何も推測できないんだけど……マホログならではの言葉だろうか?

 こうして日本語でのコミュニケーションが出来ているのは、少し納得が言っていないけれど……。


「《詠唱魔法》は魔法の意味と詠唱が出来れば魔力を失う代わりに魔法が発動するのは知っておるか?」


 なるほど。

 要は勉強すればするだけ《詠唱魔法》を扱うことができるわけか。魔力がどれだけあるのかわからないけれど。


「その前に、そのアーチェはどういう魔法なの?」


「触れた物の先端を鋭い刃物に変える魔法じゃ」


「ええと。つまり――」


「後は実践あるのみだろうね。おーい《お隣さん》よ!」


 話を強制的に終わらせてリスカはウサギに向かって手を振った。

 小さな少女がウサギに手を振る、という描写にすれば可愛らしいけれど……ウサギは顔だけで、身体は毛皮で覆われているけれどムキムキだ。


《お隣さん》は自分が《お隣さん》だと認識しているのかは定かではないけれど、ウサ耳をピコピコと可愛らしく動かした後に歩き出した。

 四足歩行ではなく、二足歩行でドシドシ音を立てながらだ。


「さっ! こっからはマホに任せる!」


「えっ!?」


「高見の見物じゃよ! きゃはは!」


 変な笑い方をしてリスカは上空へとジャンプした。あれも魔法による何かだろう。

 空に上がったリスカはホウキのようなものを生み出して降りてくることはなかった。ホウキで空を飛べるという、夢にまで見た光景を自分が再現できるかもとテンションが上がったけれど……


 妄想は現実の問題を対処してからだ。


 さて、どうしたものか。と視線を《お隣さん》に移すと、目の前に可愛い顔が――え?


「!?」


 刹那。

 私は腹部に重い痛みを感じて、物理法則を無視するように遙か後方へと吹き飛ばされた。


魔法バトルのはじまりはじまり~

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