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白い空間と一つの声

あらすじのような話

 目が覚めると、そこは白い部屋だった。


 白く。それ以外には何も存在しない、上も下も右も左も純白な空間。

 何が起きたのだろう。

 意識がなくなる前のことを、少しずつ順当に思い出す。


 まず、センター試験の会場に到着して……そこで生徒を皆殺しにした少女……名前は《暴食のリスカ》だったかな?

 一度しか聞いていないので確かな物か曖昧だ。

 名前は《リスカ》だったのは覚えている。それは確実だ。


 私が町田仄歌と名乗って『マホ』と略されたのも覚えている。


 そして、キスをしたのだったか?


 いや、その前にリスカの何らかの魔法で私は足を失って、それから同じ背丈になってからキスをされたのだ。足。両足はどうなった?


(……よかった。ちゃんとある。)


 失った両足は元に戻っていた。状況を何も疑問に思わず飲み込めば、私は魔女によって他の世界に移動させられているはずだ。ここが、その異世界かは別として《マホログ》と呼ばれる場所に向かっていることは確かだろう。

 思い出してきた。あれだけ刺激的なことをされたのは初めてだった……初めてのキスでもあった。


 思い出すと赤面してしまうが、相手は少女だ。ノーカウントだろう。


「やあ。マホちゃん気がついたね。いやーよかったよかった」


「?」


 自分が立っている以外に、ここの場所には誰もいない。誰も見ていないけれど……?

 一体どこから声がするのか。声のする方向も分からない。


「おっと、そうか。魔力がないから見えていないんだね?」


 声のする方向は分からなくとも、声色は分かる。

 男性のような、女性のような、どちらかと言えば子供の声に感じる。だけど、人間らしくない。どちらかと言えば、声優さんがアニメキャラを演じるために作っているような、そんな何とも形容しがたい声色だ。

 合成音声とは違う。


「まあ。ひとまず、魔力を与える前にリスカの要望で与える《固有魔法》は決まっているけど――」


「ちょ、ちょっと待って」


「なにかな?」


「あ、の、あなた? は、なに?」


「それは最後に教えるよ。今はまず、これからの世界について知ってもらわないと」


 それも、そうだとは思うけど。固有魔法とか、魔法とか。魔法とか何?


 なんだその素敵な響き。私は魔法使いにでもなれるって言うのだろうか?


 それなら教室で殺された人とは違って、良い人生になりそうだ。明るく前向きに捉えよう。暗く後ろ向きな人生は、この時に備えた準備期間だったと言うことにして。


「……とりあえず、わかったわ。今はあなたの言葉を聞いて、私はこれからのことを考える」


「ありがとう。それじゃあ、そうだね……。固有魔法についても、これから行くマホログについても説明しておこうかな」


「……そうしてもらえると嬉しいわ」


 幸いなことに声は返答してくれた。

 コミュニケーションがとれるのは嬉しいことだ。


 どういう世界観で、どういうことが待ち受けているのか事前に知れるのは有り難いことだ。魔法が存在することは分かっているけれど、具体的な何かを見せられたわけではない。

 痛みを感じず両足を消す程度のことは、魔法でなくても科学で代用することは可能だ。手術以外では、そんなこと誰もしようとは思わないだろうけれど。


 魔法と科学は紙一重と聞いたことがある。

 発達しすぎた科学は魔法と区別がつかない、という言葉も聞いたことがある。


「まずは、マホログについて簡単に説明すると。マホちゃんが住んでいた地球のような場所だに」


「惑星ってこと?」


「そう。宇宙空間も存在するけど、今は関係ないね。まあ、人間が生活する上で支障のない地上だと思ってくれたら構わないよ」


 そう言われると、宇宙空間で地球と繋がっている可能性がある、ということになりそうだけれど……。それは流石にないだろう。ないことを祈る。

 別に祈るほどの思い入れはないけれど。


 親とかどうなったのか……そういうことを考えると病むな。元の生活に戻らないことだけは祈ろう。どんな顔であっても、私の道具を整理した家に戻ることはできない。


「なんとなく理解したわ」


「マホログが地球と違うのは、魔力の宿った世界だということ。それと、異世界と繋がる空間が度々発生するということ」


「!?」


「ただ、勘違いしないで欲しいのは、マホログで発生する。その異世界と繋がる空間からは必ずと言って良いほど魔獣が出てくる。それを《お隣さん》と呼んでいる」


 お隣さん……リスカが最初に言っていた気がする。

 私は《お隣さん》ではないと。


「それで、その、お隣さんはどういう存在なの?」


「マホログに被害をもたらす《獣災》だね。危険な魔獣が出てきて、マホログの住民を襲う存在だ」


「何のために?」


「それは知らない。知らないけど、危険な存在であることは確かだ」


 ふうん。

 危険な存在ということは、それを討伐する組織や団体がありそうだ。RPGのやり過ぎかもしれないけれど、ギルドやパーティーなんかがあったら異世界感が出ていて盛り上がる。

 テンションが上がる。


「マホログには《お隣さん》と呼ばれる《獣災》があるってことね」


「短く言えばそういうこと。他にもあるけど、詳しくはマホログで生活しながら知る方がわかりやすいからね。それに《お隣さん》についても、直接接点を持たないと想像できないと思うし」


 確かにその通りだと思う。

 私の知っている範囲の獣は、想像できる獣は限られてくる。ドラゴンなんかが出てきたら驚きより感動が優先されそうだけれど……身の危険がある以上はテンションを上げてるだけでは死ぬだけだ。


 死ぬ。


 そういえばマホログでは死ぬのだろうか?


「あの。ちょっと質問なんだけど、いいかな?」


「どうぞ」


「私はマホログで死んだらどうなるの?」


「それは、わかりませんよ。死なないと分からないですが、死んだら復活する。ということは決してありえません。様々な固有魔法は存在しますが、死んだら終わりだと考えた方が賢明かと」


「まあ、そりゃあそうだよね」


 変な期待をするだけ無駄だった。死んだら終わりは当たり前か。

 あくまで魔法があるというだけで、何でもありということではない。


「ありがとう。それじゃあ、続きの説明をお願いできるかしら」


「先ほどから言葉に出ている固有魔法について説明しましょう」


 私はリスカの提案で既にもらえる魔法は決まっていると言っていたけれど、固有魔法。固有というだけあって、これはかなり期待している。

 魔法が使えるというだけでもテンションは高くなっている。

 まだ使えると言われたわけではないけれど……。


「固有魔法は、各々だけが使える魔法のことです。魔力を使えばある程度の魔法は詠唱によって発動することは可能ですが、固有魔法は詠唱魔法では使えない魔法と考えてもらって構いません」


「……要するに自分だけが使える魔法ってことね?」


「はい。ですが、様々な固有魔法があるように。その固有魔法にも上位互換などは存在します」


 それは、そうだろう。

 火を使える固有魔法があっても、詠唱魔法?

(詠唱魔法は、呪文を唱えたら発動する魔法のことでいいんだよね?)

 この詠唱魔法で『火を生み出す魔法』があれば、固有魔法の存在理由はとても弱い。

 逆に炎を使える固有魔法があれば、火よりも上位互換だと考えていいだろう。


「上位互換は、火よりも炎を扱う固有魔法の方が強いとか?」


「まさにその通りです。先に伝えておきますが、マホちゃんの固有魔法はリスカの固有魔法の下位互換です」


「……まあ、リスカの固有魔法を私は知らないけど……あなたから見たら、その固有魔法は強い?」


「ええ。まあ。はい」


 その態度でなんとなく理解することはできた。けど、詠唱魔法が使えれば何でも構わないような気がしてきた。様々な魔法を覚えれば良いだけの話である。

 そんな単純なものだったら良いのだけれど……。


「マホちゃんが上手に使えれば、この魔法は戦争にも使えるはずですから」


「戦争?」


「そのことは、これから知っていってください。」


「わかったわ。それじゃあ、そろそろ。私をここから出してもらえる? これもきっと魔法の何かなんでしょう?」


「……察しがいいですが、少し違います。ここは魔力のない人間に魔力を与えるだけの空間。言ってしまえば、ここはまだマホログに向かっている道中です」


「リスカがいないのはどうして?」


「マホちゃんに魔力がないからです。マホちゃんがリスカと出逢った教室は、リスカの魔力で埋め尽くされていたから視認することが出来ただけです。視認できるだけでも、魔力を持つ適正があったわけですが」


 ああ、だからリスカは私に適性があると判断したのか。

 私がリスカを視認することが出来たから。……人によって、その魔力を感じる力のような物は千差万別なのだろう。


「それと、リスカは既にマホログでマホちゃんを待っています。マホちゃんに魔力が宿れば、すぐにマホログに移動されますから」


「……そっか。それじゃあ、私に固有魔法を与えてちょうだい」


「マホちゃん」


「うん?」


「右手を前に出して同じことを大きな声で唱えてね」


「待って。その前に、あなたが何者なのか聞いていなかったわ」


 最初からずっと気になっていたことだ。固有魔法の次には重要なことのように思える。

 私の長年培ってきたサブカルチャーの経験が言っている。


「名前は《喰吐》」


「クーパ?」


「マホちゃんが使う固有魔法の名前だよ。すべての固有魔法には意思があるの。ある一定の次元に到達すれば、固有魔法を表に出すことができるけど……表に出るまでは意思疎通ができないからね」


「精霊とは、また違うのかな?」


「どうだろう。精霊もいないわけじゃないけれど、精霊の力を借りて魔法を強くするものだから。けど、固有魔法を表に出すのは少し違う。本来の力を発揮する、と言えばいいのかな?」


「……あまり想像できないから、私がクーパを表に出せるように頑張ることを、最初の目標にするわ」


 魔法が意思を持っている、というのは違和感を覚えるけれど……魔法があるだけ何でもありかもしれない。何でもありじゃなかったり、何でもありだったり適当だ。


「それで、どうやったら表に出せるの?」


「固有魔法によって条件は違うからね。それはわからないんだ」


「そっか。まあ、とりあえず頑張ってみる」


「ありがとう。じゃあ、右手を出して大きな声で《喰吐》と叫んで」


 それが、固有魔法を引き継ぐ方法ということか。

 とても単純だけど、クーパが最後に自分自身の名前を伝えたのはコミュニケーションがとりたかったのかもしれない。いろいろなことを知っていたのも、何か裏がありそうだ。


 思うことは沢山あるけれど、まずは力をつけないといけない。


 子供のような声をしている私の固有魔法が、どんな姿なのかは表に出てからの楽しみにとっておこう。きっとビジュアルは可愛いはずだ。そこは期待してもいいだろう。


「それじゃあ、これからよろしくねクーパ」


「大きな声で言わないと発動しないよ」


「今のはあなたに言ったの」


「……ありがとう」


 どういたしてまして。

 心の中でそう言ってから、私は大きな声で固有魔法を叫んだ。


ブックオフでワンピ読んでたら更新遅くなりました。

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