少女の案内にご注意を! ⑤
一切の音がない環境で書くのが一番捗る気がします。
「!」
《喰吐》を発動して、真っ先に私はチャロを抱きかかえて路地裏を出た。人混みに紛れてもすぐに見つかるだろうけれど、いくら相手が何者か分からなくても一般市民を敵に回す馬鹿ではないだろう。
そのくらいの考えだけれど、一般市民ですら魔法を使うことは可能だ。
チャロを抱きかかえて、その場を離れるように走り出した。子供にしては軽かったけれど、これは《お隣さん》の筋肉があるからだろう。元の姿なら走り続けることは難しいはずだ。
一般市民の使う魔法で思い出すのは、城壁を越えて最初に出逢った男性二人だ。本を用いることで《詠唱魔法》を可能としていた。本を用いなくても、様々な魔法を覚えることは可能だろう。
本はあくまで暗記しなくて済むための道具だ。
「す、すいません。すいません……」
「謝らないでいいよ。あれから逃げれば私はチャロを助けたことになるのかな?」
「あ、あの……その……」
まだチャロはおどおどとしていた。かなり動揺している様子だけど、気持ちはかなり弱い方なのだろう。ボロ布のような服で生活をしていて、あんな訳分からないのを相手に逃げ続けていたのは……気が重くなる話だ。
私ならば国を出て――――チャロはまだ年端もいかない少女だ。ひとりで国を出ることはとても難しいだろう。いくら固有魔法を使えても、それが分かったら魔法学校に連れて行かれるわけだし。
うん?
「チャロ。あなたを追っているのは学校の人?」
「……いいえ。アレは《アート》の一味です」
「アート?」
どっかで聞いたような……ああ、窃盗犯で一番厄介だって言ってた組織化。あとの二つは覚えていないけど、こういう時のために本があればと思う。買っておけばよかったか?
魔法はまだ《鋭刃》しか覚えいていないので問題はないと思っていたけど。
「はい。私は、そこの一味で、ですけど私に固有魔法があるのを知ったネグロさんが――」
「ちょちょちょ。待って、え? なに? チャロは窃盗犯なの?」
「……お姉ちゃんには黙っていてごめんなさい。嫌われたくなくて……」
会ったばかりの人間に嫌われることに怯えるなんて変わっている。まあ、この世界はネットなどがないだろうから遠くの会ったことのない人間に侮辱されることが当たり前じゃないか。私は別に他人を侮辱するほど暇ではなかったし、虐げられるほど魅力的でもなかったけど。
だから憶測でしかない。
チャロのような無垢な少女が、同じ服を選んだり、そういえば洋服を買うのはパレードの時だけと言っていた。人に優しくされることのない貧しい生活を送っていた人間が、会ったばかりの人間から衣服をプレゼントされるのは、平気で信用してしまうだろう。子供だから尚更だ。
「別に私はチャロが犯罪者でも嫌わないよ。ただ、逃げるようになってどのくらいになるの?」
「ついさっき逃げ始めたので……」
「ついさっき? 私と会う前ってこと?」
「はい。私の固有魔法は近くの距離なら一瞬で移動できるので、それを利用して」
言っていることがイマイチ理解できない。
チャロの固有魔法《変態》は、何にでも変身ができる。変身した物はそのまま使用できる。そんな感じだったけれど、一人で利用するには難しい魔法だ。
少なからず仕組みの知らない私には、どうやって逃げたのか理解できない。
「大きな悲鳴があったと思うのですけど、この国に着てから聞いていませんか?」
そこでハッとする。
確かにリスカと離れてからすぐに女性の悲鳴が聞こえた。
「あれはチャロの悲鳴だったの?」
「いいえ。私が腕輪やカバンに変身していたので、突然腕から人間が出てきてビックリした女性の悲鳴です」
「うん? どうして人間に戻ったの?」
「それは、一度魔法を解除しないと他の物に変身できないからです。お姉ちゃんのウサ耳も片方がクマになりませんよね? 多分、それと同じ理由です」
「なるほどねぇ……え? 私、今ウサ耳なの?」
「え? は、はい。ウサ耳ですよ」
私はすぐに近くの家でガラスに写った自分を見る。確かに、そこにはウサ耳をつけている私がいた。
毎日更新は毎日パソコンを立ち上がるので大変ですね。