少女の案内にご注意を! ④
PVの確認できるの今朝知った
店員と私との会話を黙って聞いていたチャロだったけれど、視線を落とせば怯えた表情でただ震えていた。彼女は私に助けを請いて、今こうして洋服店まで案内をお願いしている。
その助ける内容は、まだ知らない。
「ありがとう。そろそろ私たちは行くわ」
「そうかい? まあ、旅人だし強いだろうけど気をつけろよ」
「ええ。行こうチャロ」
私は買った物を手に取り、チャロの手を引いて店を出た。こんなあからさまに動揺しているのを店員に見せるのも、私の経験上(知識上)問題になりかねない。
その先手としてお釣りを安く受け取ったわけだけど……それが吉と出るか凶と出るか。
洋服店を出て、少し歩いて人通りの少ない路地に移動した。
「洋服店まで案内してくれてありがとう」
「…………」
まだ、若干動揺しているらしく震えている。何を考えて震えているのかはわからないけれど、不安そうな顔からは人を信用する様子はうかがえない。
私も知らない土地なのでリスカすら信用してはいない。
「いい! チャロ!」
「ひぃっ!?」
チャロの手を両手で叩くようにして握る。多分、私はこれからちょっとした事件に巻き込まれることになるだろうし、それは避けようと思えば避けれる事件だ。
この一人の少女を見捨てれば良いだけの話で。
だけど、今の私にはそんな人間を捨てるような行為は難しかった。いつか馴染めばできてしまうかもしれないけれど、それは今ではない。
「私はあなたから助けて欲しいと言われた。その対価として、あなたは私の要望を聞いた。だから、心配しないで――――私はチャロを見捨てない」
「……お姉ちゃんは、さっきの話を聞いて、どう思いましたか?」
「さっきの?」
色々と聞いたのでどのことだか検討しかねる。あまり忖度のできる人間ではないのだ。
文面から心理を読み取る才能に欠けている。自分の意思すらままならなければ尚更。
「固有魔法を使える人間は強制的に魔法学校に連れて行かれる。というものです」
「そういえばそんなことも言ってね。チャロは行かないの?」
「……行きたくありません」
「それはどうして?」
「私の固有魔法は、一人で扱うには戦士としては向いていないからです」
それは私も同じだと思ったけれど、相手が必ずいる戦場では《食事》は誰でもできる。思えば固有魔法を持っている人間の血を飲めば、相手の固有魔法を使うこともできるのか?
流石にチートだと思うけれど……リスカが殺した相手の記憶を受け継いでいたように、その劣化版である私のも相当なチート機能はあるはずだ。
まだ自分で理解できていないだけで。
「戦士に向いていないのは、誰だって同じだよ。できれば誰でも戦いたくない」
「……旅をしていたら《お隣さん》と戦うこと、ありますよね?」
「ん? うん。そりゃあ。さっき草原で《お隣さん》を倒した後だからね……この帽子の血はその時に付いたもの」
「!」
「師匠に殺されるか《お隣さん》に殺されるかの二択だったからね……本当は戦いたくないさ」
「お姉ちゃんは……強いのですね……」
「そうでもないよ。私は強く見せてるだけで強いわけじゃない」
「そう、でしょうか……?」
「ええ。チャロは、どんな《固有魔法》を使うの?」
一人で扱うには戦士に向いていないというのは、ちょっと大げさな気がする。どんな魔法であっても、上手に使えば戦闘には使えそうな物だ。《詠唱魔法》と合わせれば強力な武器になる。
具体的にどんな魔法が存在しているのか知らないけれど、だとしても知っている限りの魔法では『魔法』というだけで強力な武器だ。
科学では到底太刀打ちができない存在だ。
「私は、どんな物にでも変身できる魔法《変態》です」
「どんな物にでも?」
「はい。一度触れたものは特性をすべて引き継いで変身できます。剣ならその鋭さや特性を。銃なら弾を装填すれば発射することができます」
「……戦士として活躍しそうな魔法だと、私は思うけど」
いや、どう考えても戦士というよりは戦争向けの魔法だ。
魔法に理論はないだろうから、すべての物に変身することができるということは武器が消耗品にならなくなる。一人分だけは無限というだけでも、かなり変わってくるだろう。
弾を装填する必要があるから万能というわけではなさそうだ。
チャロは暗い顔を見せて首を横に振る。
「そもそも、私は追われている身なので……」
「うん? あ、助けてって言ってたのは、そうだ。待って、まずは私はチャロに何をしてあげればいいのかな?」
「それは――」
「見ぃつけた♪」
話を遮るように空から仮面をつけた人間が振ってきた。チャロの真後ろに着地したそいつは、私よりも遙かに大きな体格をしている。男性か女性かは大きなマントで仮面から下が見えないので分からないけれど、声の雰囲気は女性だ。
一瞬でチャロの顔が青ざめる。
「に、逃がしてください! お姉ちゃん!」
「わかった」
私はポケットから瓶を取り出して、ほぼ同時に《固有魔法》を発動した。
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