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少女の案内にご注意を! ③

ウィピールという服がとても好きです。

 中に入ってみると、私たち以外にお客さんはいなかった。ずらりと並んでいる洋服は、意外にも日本でなじみ深い浴衣もある。世界観が壊れている。

 それでも、私の知らない服装はたくさんあった。


 チャロは目を輝かせていた。


「もしかして、こういうところは初めて?」


「あ、いえ。いえいえ! パレードの時には物が安いので来たことはあります!」


 パレード?


 そのままの意味合いだろうけど、何かお祭りごとはマホログにもあるということだろう。その程度の認識でよさそうだ。

 チャロは首を横に振っているけれど。


「今の服はその時に買ったの?」


「あ、これは盗んだものです」


「…………」


 言葉もない。チャロの見た目だと何歳くらいなんだろう。それでも私の妹よりかは歳が低いように思える。

 こんな場所で盗みをすることは、ないだろう。


「ここでは――」


「大丈夫です。お姉ちゃんに買ってもらえるなら何もしません!」


「なら、うん。だけど、これからもそういうことはしちゃダメだよ」


「……はい」


 唇を尖らせて露骨にふてくされた。あまり良い気分ではないけれど、人を怒るのに慣れていない。どう伝えたらいいのか、子供相手にどう接したら良いのかもわからない。

 そう考えるとリスカには子供というよりも、友人――知り合いのように接している気がする。無意識とはいえ、彼女も見た目は少女でしかない。

 リスカは今頃どこにいるのだろう。


「それにしても、色んな服があるのね……」


 今は《魔女》と勘違いされる服装を変えることが優先だ。

 適当に服を1枚手に取る。生地はとても柔らかく着心地もよさそうだ。《お隣さん》がウサギのような姿だったけれど、マホログにいる動物は知っている家畜がいてもおかしくないだろう。

 この洋服も毛皮で作られていることだって重々ありえる。


「お姉ちゃんは、こういう服が似合うと思います!」


 そう言いながらチャロはレジ付近にある服を指さした。私は持っていた服を戻してからそちらに行く。

 今更だけど、店員は感じの良さそうな男性だ。作業服のような格好だけど、ああいうのもありっちゃありだ。

 見た目よりも動きやすさの方が重要になってくる。また《お隣さん》が出てきたら戦わされることだってありえるだろう。

 乗り気ではないけれど、「やれ」と言われたら「殺る」しかない。


 チャロの指さした服を手に取る。

 白い服で、昔ショッピングモールで立ち寄ったアジア系の洋服店にありそうな模様が胸元に施されている。それ以外は肌触りのいい服だ。

 割と地味な感じも私に似合いそうだった。


「確かに、これは良いね。うん。これにしよう」


「ほ、本当ですかっ!?」


「チャロはセンスがいいね。師匠とは大違いだ」


「師匠……?」


「うん。この服も師匠の趣味だから着てただけなの。服を買ったら着替えるわ」


「そうなんですか……けど、魔女とは何かえんがあるのですか?」


「んー。あまりそういうことは聞かない方がいいかな。私がもし魔女だったらどうするの?」


 チャロは黙ってから「いえ何も。私は服を見てますね」と言って視界から消えた。

 私はさっさとこの服を買って着てしまおう。ズボンは、まあ別にこれでも良いだろう。こうなってくると三角帽子に違和感があるけれど、これが既に《魔女》らしさなのでは?


 服をレジ(レジで見かける機械などはない、ただのカウンターだ)の上に服を乗せる。


「いらっしゃい。姉妹にしては似てないね」


「まあ。私は余所の国から着たものですから」


「へえ! そいつは珍しい。どこの国だい? こっからだとシラフが一番近いけど、旅の者だったりするのかな?」


「いえ。まあ。旅といえば旅ですね」


 愛想笑いでごまかす。

 リスカのところで生活することになるのだろうけど、だとしても住所のようなものは必要なのが分かった。《余所の国》が《未知の国》ではボロが出る。


 男性は興味深そうに言うけれど、この国は大きいのだから旅人が珍しいとは思えないけれど……。

 何にしても私は知識がなさすぎる。


「そっかそっか。まあいいや。服は着て変えるんだろ?」


「え。ああ、聞いてたのですね」


「ボロい店で客もいないからな。まあ、そんな服だと悪目立ちするだろうし、賢明な判断だ」


「悪目立ち……魔女に見えますか?」


「いいや。貴族かと思ったよ俺は」


「貴族?」


「そうだ。赤い服なんて着るのは貴族か変わり者だけさ。三角帽子は魔女を連想させるアイテムだけど、ところどころ赤いのはどうしてだい?」


「ああ。これは怪我をした時に付いた血です」


 大嘘だ。《お隣さん》の耳を切断した時についたものなので私の血ではない。怪我をした時の血、は正しいと言えば正しいか。

 時間の経過と道中ずっと風に当たっていたので、すっかり乾いている。


 男性は笑っている。


「なるほどね。お姉さんは旅人ってことだ。少し前に遠くの草原で《穴》が発生したそうだ。居合わせていなくてよかったな」


「あははは」


 これは笑ってごまかすのが一番だろう。


「えーと、銀貨1枚。銅貨10枚だな」


 そういえば金貨1枚しか持っていなかった。両替してくれるだろうけど……なんかマズい気がする。マズいというよりも、嫌な予感がする。

 けれど払わないと始まらないだろう。


「あのー、金貨しかないんですけど」


「!」


 そう言ってポケットから金貨を1枚取り出す。


「あっはははは。これは参ったな。お姉さんは本当は貴族なんじゃないのか?」


「いやいや。旅人ですよ。師匠と旅をしているので」


「その師匠が貴族なわけか」


 そんなに金貨が珍しいのだろうか?

 記憶があいまいだけど、銀貨100枚の価値だっけ?


「まあいいや。お釣りを用意するから待っててくれ」


「あ! いや、お釣りそれだと多いですよね?」


「当たり前だ。何なら袋も買ってくかい? そうしてくれると助かるんだが」


 ああ、確かに財布は持っていて損はないだろう。今後の為にもあったらあるだけ助かる品だ。


「そうですね。それじゃあ、お釣りを入れる袋を一つ。それから一緒にいた女の子も服が欲しいので、その代金も引いててもらえますか」


「了解。いやー、縁起がいいな。こんな大金久しぶりだ」


「では、ちょっと袋を取ってきますね」


 そう言い残して私は店内を歩いて、良い感じの袋を二つ手に取る。チャロが服を持っていたので一緒にレジへ向かって会計した。

 チャロの持っていた服は、私の買った服にとても似ていた。


 これじゃあ、本当に姉妹だけど良い思い出として残ればいっか。


「全部で銀貨3枚に銅貨30枚だけど、他には何か必要かい?」


「いえ。あ、お釣りは銀貨30枚だけでいいです」


「ちょ、ちょっとあんた何を言ってるのか分かってるのか!?」


「ええ。それだけで十分です。その代わり、またここに来た時はごひいきに」


 一瞬きょとんとされてから(チャロも驚いていた)大きな声で男性は笑った。


「わかった。お姉さん名前は?」


「私はホノカ。この子はチャロ」


「覚えておこう。それじゃあ、二人ともそのままじっとしてて」


「?」


 私は言われたまま動かないでいた。

 すると男性が杖を取り出して呪文を唱えた。なんて言ったかは分からなかったけれど、煙が出てすぐに服を着替えていた。私もチャロも同じ服だった。


 さっきまで着ていた服は畳まれてレジに置かれていた。


「うん。ウィピールがよく似合うねお二人さん」


「ウィピール?」


「その服の名前さ」


 ふうん。そういう名前なのか。

 一応覚えておこう。今後何かで役に立つかも知れないし。


「それじゃあ。本当にいいのかい? 銀貨30枚で」


「いいですよ。まだ金貨はありますし」


「ま、まだあるのか……あんた、ホノカさん。こんなことを言うのもあれだが、この最下層で金貨を使うのは危険だから辞めた方がいい」


「どうしてですか?」


 理由なんて明白だ。それでも聞くのは、窃盗犯の名前などを聞けるからだ。


「そりゃあ、あんた。旅人だから知らないのは当然だけど、ここら辺は旅人を襲う窃盗集団がいるからさ」


「入ってすぐに声かけられましたけど、結構いるのですか?」


「言葉も出すのも危険だけど、あんたには金の恩があるから教えるよ」


「そうしてくれると嬉しいわ」


 男性は険しい顔になる。

 名前を出すだけでも誰かに聞かれるだけでも問題なのは異常だ。まるで支配されているようだけれど、現実的ではある。


「窃盗集団は三つあるけど《パレット》と《ユヲン》の二つは大した勢力ではない。ただのチンピラの集まりだけど《アート》という窃盗集団だけはヤバい」


「ヤバい?」


「そこは《固有魔法》を使える人間が支配しているからだ」


 固有魔法。

 それはつまり、子供が窃盗集団をしていると、そう認識してもいいかもしれない。


「えっと。それじゃあ、他二つの、ええと」


「《パレット》と《ユヲン》」


「そうそこには《固有魔法》を使える人はいないの?」


「当たり前だ。あれを使える人間は強制的に魔法学校で戦士として育成されるからな」


 私は隣にいる少女に視線を落とす。

 そう言えばチャロは《固有魔法》を使えると言っていなかったか?

久しぶりに1時間近く原稿に向き合ってみましたけど、3600文字は多いですね(..;)

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