出かける
・・・・・・鳥のさえずりと共に朝日がカーテン越しに窓に映りこむ。
部屋の中は薬草や書物、調合器具がざっくばらんと散らかっており、部屋主の性格を現している。
ソファーに横になっていびきをかきながら、シーツを放り投げ、爆睡している。よれよれのシャツに短パン。動きやすさだけを求めた格好だ。
・・・・・・もうちょっと、しっかりした服装でいて欲しい。凹凸は少ないとはいえ、女性なのだからと同居人が苦言を漏らしていたが聞く耳持たず。
そんな中、扉にノックが数回響く、時間を置いても反応はなくノックの主はため息をつきながらドアノブに手をかける。
鍵がかかっていないために扉はなんの抵抗もなくすんなり開く。短く揃えられた髪に十台半ばの顔立ちの少年だ。
名前はティル。魔女が拾ってきた赤子が成長した姿だ。
ティルは散らかってる部屋を見て、また、ため息が漏れる。手じかに落ちているものを拾いながら部屋主を探す。
ソファーに横になり気持ちよさそうにいびきをかきながら、寝ている姿を見て部屋主を呆れながら部屋の掃除を始める。
なれしんだもので物でテキパキと片づけが済んでいく。三十分もたたずに片づけが終わる。
結構な音がしたはずなのに部屋主は気づかずに爆睡したまま寝続けている。暢気な顔に苛立ちを感じた。
・・・・・・しかたない。ソファーに近づき肩を揺さぶる。
「・・・起きてください。朝ですよ。」
揺さぶっても起きる気配はなく。返答はいびきだけ。ちょっとやそっとの事では起きそうにない。・・・しばし考える。アレしかないか。
部屋からでて台所に向かう。釜に火をつけフライパンに熱を通す。手際よくぱぱっと調理を終えて皿に移した料理を持って部屋に戻る。
時間を置いてもいびきをかいていた。
できたてで湯気がたっている皿を顔の近くまで持っていき、手団扇で香りをアホ面に送る。
焼きたてカリカリベーコンと卵を二個使ってベーコンの油を使った目玉焼き。腹ペコの胃にはくるものがある。
最初はいびきをかいたままだが、徐々にいびきがなくなり鼻がスンスンと香りを嗅いでいる。顔もよだれをたらし香りの元へと動き出す。
食い意地張ってるんだよな。この人。口元が歪む、笑いそうになるのを押さえるのがつらい。
扇ぐのをやめると香りが遠ざかったのが分かったのかパッと目が開いて飛び起きる。ガバっと上半身を上げて香りの元を探す。
すぐに皿を見つけて皿に乗っているベーコンを摘まんで噛り付く。表面はカリカリ、中は肉汁溢れてくる。
熱さも極まって美味い!肉汁の熱が口の中を暴れて火傷しそうになるが、かまわない。ベーコンに薄く塗られたマスタードが・・・・・・?!?
「辛い!?」
マスタードの辛さで口元を右手で押さえて悶える。・・・・・・この人辛いのダメなんだよな。
辛さで噛んでいたベーコンを落としたが皿でキャッチする。
「水が欲しかったら台所に来てください。そこにありますから。」
声をかけて部屋を出る。水!水!と訴えている部屋主・・・・・・魔女は恨めしそうに辛さに悶えながら少年の後を追いかける。
リビングにて二人は食事を取る。
必要最低限のものしかなく、ほとんど、木製の品が大半である。金属製の品もあるにはあるが片手で数えるほどだ。
長年使い続けられた家具に食器。目を凝らせば小さな傷や汚れが目立つ。所々補修下部分もあった。
魔女曰く。必要になったらそのときに作ればいい。
小難しい文字が書かれた書物を読み、イスの背に体を預けて、新しいのにしないの?と少年の疑問に答える。
・・・・・・数秒後。体を預けていたイスの足。後ろ2脚がバキン。と根元から折れて倒れる。
体重をイスに預けていた魔女は、ほへ?と何の音って表情をしながら床に激突する。鈍い音を立てながら後頭部に来る痛みと訳のわからさに呆然とする。
・・・・・・一日かけてすべての機材のメンテナンスしてその日は終わった。
閑話休題。話を戻す。テーブルの上には先ほどの皿に畑で栽培した野菜のサラダにパンが二つ、口直し用に紅茶。どれも数分前に作られた料理である。
パンの表面を焼き、皮がパリパリ、中はふんわりしておりヤギの乳で出来たバターを一口大にちぎったパンにたっぷりつけて口に運ぶ。
バターの風味が口内を漂い幸せな気持ちになる。
口直しに紅茶を飲む。長年かけて配合を繰り返し納得できる味を入れることに成功した。・・・・・・今度はアレの量を多めでやってみるか。
自分で作った料理を自己採点し今後の課題にする。
「うまい、うまい。ティル。これ美味いね」
ガツガツと料理を平らげる魔女。に料理の感想を先ほどまでマスタードの辛さにヒーヒー騒いでいたのに紅茶をがぶ飲みして、口の中をすっきりさせた。
魔女はパンにベーコンにサラダを食べる。・・・・・・その量はティルの量をはるかに超え、大皿にベーコンの山、卵10個の目玉焼きに山盛りサラダ。
体のどこにそれだけの量が入るのかと子供心に疑問に思ったが今だ謎である。
「魔女さん、今日薬を下ろす日ですけど出来ましたか?」
食事を終えて、食器洗いを済ませ、エプロンで残った水分を拭きながら確認する。
前にあった事だが、前日の夜に規定量を作るのを忘れていて、大急ぎで調合し一睡できないまま、麓の村までの道のりはまさに地獄だった。
見せの店主に大丈夫かと心配されたのはいい思い出だ。
家に戻った際にリビングで大の字でいびきをかいている姿を見たときは、夕飯は魔女さんが苦手な料理だけにしよう。と心に決めた。
魔女の苦手料理ばかり出して文句だらけだったが、今日の事を淡々と告げるちおとなしくなり一口一口苦虫を噛み締めるような顔で食事を終える。
・・・・・・量だけはいつもと変わらずなのは一種の尊敬を覚えた。
「んあ?それなら終わってるよ。調合台の横の箱の中にいれといた。」
食後の紅茶をグビッと一気に飲み干す。砂糖とミルクを大量に紅茶の中に入れてかき混ぜる。
長年の成果をぐちゃぐちゃに壊されて内心来るものがある。言っても聞いたためしがないため諦めた。
・・・・・・いつか必ずストレートでも美味いといわせるのが個人的な目標である。
「あの箱ですね。分かりました。洗濯物を干したら出かけますから、昼はサンドウィッチを作ってあります。それを食べてください」
洗濯籠を取りに行き用事を済ませにいく。
「がんばってね~。」片手でひらひらと返事をする。開いた手で作り置きしている薬草茶のポットを掴みカップに注ぐ。
やるべきことを済ませ、薬の箱を確認する。納品分のチェックし終えのちにバッグに入れ背負う。外出等の装備を整え。
「行ってきます。」と言って玄関から出る。