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双子童話の本棚

マッチ箱と子猫たちと図書館

作者: 空野 ゆめ

お願い、そこにいて...!


あなたなら...優しいあなたなら、きっとそこに...!




♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡◌*⃝̥◍♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡◌*⃝̥◍♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡




「今日もお前は全く売れてないのか!

もういい、家事だけでもするんだな、この役立たずが!」


「はい、お父さん...」



もう日常となってしまった、この光景。


マッチが売れない姉を...チユを怒鳴るお父さん。



わたしはいつも、どう接していいのか、わからなかった。

チユは悪くない、優しい子なのに。


マッチ箱の数が減っていることも、傘を忘れることも、部屋で食事を取ろうとすることさえも、すべてがチユの優しさなのに。


でもほんとのことを言えば...父はさらに怒るかもしれない。

そうも思っていた。



わたしが、チユの優しさに気付いたのは、数週間前のことだった。




♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡◌*⃝̥◍♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡◌*⃝̥◍♡*⃝̣◌⑅⃝◍♡




今日も寒いなぁ。

ていっても、こないだ買ったこの新しいストールのおかげで、思ったより暖かいけれど。


「あら〜、寒いのによく頑張ってるわね。

無理はしなくていいのよ、キリアちゃん。」


いつもマッチを買ってくれるおばさん。

というより、この村の人ほとんどが買ってくれているから、なんとも言えない。


「新しいストールが暖かいから、大丈夫なのよ!

相変わらずお姉さまは、ボロボロのだけれど...」


お姉さまと、口にしただけで、その言葉を聞いた周りの村人たちは、誰かを蔑むような、誰かを哀れむような目をする。

それぞれ、誰に対してかは、よくわかっている。


「あの子は声も小さくて、ボソボソと話しかけるだけで、とても気味が悪いわ。

あんな姉を持って、大変でしょうに...」


「別に、そんな...」


と言いつつ、また、やってしまった。

また、チユは悪くないって、言えなかった。

そう思いながらも苦笑いを続ける。


「もう! キリアちゃんは優しいんだから。

はい、これお金よ。1箱ちょうだい?」


わたしはすぐに、手袋をしたまま手際よくお釣りとマッチ箱を渡した。

これでもう全部売れてしまった。

まだ、そろそろお昼かなってくらいの時間なのに...


「じゃあ、またね。キリアちゃん。」


「うん、またね。おばさん!」


別れを告げて、おばさんの背中を見送った後、わたしもそろそろ帰ろうと思い、お金がたくさん入ったかごを持った。

わたしがマッチ箱を完売できているおかげで、母が死んでしまった時よりも裕福になれているのに、チユはずっとボロボロの服や質素(しっそ)な食事だけど、わたしには何も言えないし...




今日はいつもより早く終わったし、気晴らしで家に行く途中にある街で、図書館にでも行こう。




そう思ったのが、何よりのきっかけだった。



「わぁー、ひっろーい!」


小声で叫びつつ、わたしは最初に全部軽く見てみようと思った。

ファンタジーやミステリー、恋愛、ホラー...歴史や文化についての本もある。


かなり奥の方へと来た時、『動物』と書かれた本棚の角を曲がろうとした時だった。



1歩踏み出したけれど、わたしは思わず元の場所に戻った。というより、隠れた。


なんで、チユがいるんだろ...


まだ村のどこかで、マッチを売っているものだと思っていたのに...


もう1度覗いてみると、本を元の棚に戻し、わたしがいる方とは反対の方へと走っていった。



あんなに熱心に、何を見てたのだろう。

かごの中は、マッチ箱がまだひとつも減っていなかったけれど.....


確か、ここら辺の...これかな?

1冊だけ飛び出てるこの赤い本。

タイトルは...



『正しい猫の飼い方』


「...えっと....ねこ?

チユ、ねこ飼いたいのかな...?」


でも、なんでねこ?

もちろんうちにねこはいないし、ご近所さんでねこを引き取ってほしいって人もいない。


中身を見た感じは、ねこが食べてはいけないものだったり、子猫の育て方だったり、こと細かく書かれているようだった。




...よし、決めた。チユを追ってみよう。

もしマッチを売っているだけだったとしても、また明日も見てみよう!

絶対に何かある...!




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結局、街でサンドイッチを買って、すぐに追いかけていったけれど、チユは普通にマッチを売っていた。

ただ、わたしとは違って、誰も買ってくれないけれど...



夕方には家に帰って、お父さんに今日の売り上げを報告した。

その日もチユは1箱も売れず、食欲がないからと言って、食事を部屋に持っていった。

最近、一緒に食事をとることすら減ってきてしまったな...と思っていると、やっぱり寂しく感じる。



次の日は、朝からチユを尾行してみた。

村の方へと向かっていくチユだが、真ん中の通りではなく、外れの方の路地裏へと入っていく。


「....ぁ.......ぁー......にゃぁー」


こっそりと覗いてみると...すぐに謎が解けた。

子猫だ、ダンボール箱に入れられた3匹の子猫たち。

部屋で食べると言っていたパンを、小さくちぎってからあげている。


それだけじゃなかった。


今日みたいに雪が降る日は、傘を置いていっていたんだ。

だから最近、傘を忘れるようになっていたんだ。

そしてマッチ箱が減っている理由は...やっぱり。

子猫たちを暖めるためだったんだ。


その日、午前はずっと子猫たちと一緒にいて、午後からマッチを売っていた。

その様子を見てからわたしは、自分の売り場所へと向かい、マッチを完売させた。



チユは怖い子なんかじゃないし、悪い子でもない。

とても優しくて、いい子だ。




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それからわたしは、わたしにできることをしようと思った。


わたしも『正しい猫の飼い方』の本を読んで、あの子たちに与えてはいけない食べ物を覚えた。

それからは、あの子たちが食べれそうなものをお昼に買って、少し分けて置いておく。


時々、貯めたお金で傘を買って、子猫たちの元へと置いた。




そんなことをして、数週間が経ったある日...



「え、2倍?!」


家中に、わたしの叫び声が響いた。

というほど広い家でもないけれど...


「あぁ、そうだ。

最近いつも完売させているからな、キリアは。

チユも少しは見習ってほしいが...」



今までの2倍の量のマッチを売ってくれと頼まれ、その日は子猫たちのところへ行くのはやめた。


いくらわたしでも、それを完売させるのには時間がかかった。

もう家に帰るころにはすっかり暗くなっていた。



「ただいま、なんとか全部売れたよ。」


もうへとへと〜、と言いながら家の中に入り、売り上げを報告した直後、あれ?と思ったことを聞いてみた。


「チユは? いないの?」


まだチユの姿を見ていなかった。

いつもなら全く売れていなくても、というかそれがいつもなのだけれど...もうとっくに帰ってきているはず。

それに今日は、ずっと雪が降っている。


「あぁ、まだだよ。

こんな時間まで帰ってこないのは、初めてだな。

熱心に頑張ってるんじゃないのか?」




違う。何かあったんだ。

助けに行かなきゃ...!



「あ、キリア! どこへ行くんだっ!」




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村の大通りからではなく、外側から入った路地裏の真ん中にいるはず。

わたしは最後の角を曲がった。


「にゃぁ、にゃぁ.....」


ダンボール箱から出てきてしまったらしい子猫たちは、倒れている女の子の周りで必死に鳴いていた。

ボロボロのストール、手元にあるマッチ箱の入ったかご、ダンボール箱のそばにある新しい白い傘....


「チユっ! しっかりして...!」


雪まみれになったその身体はとても冷たくて、顔も真っ青だ...今朝もきちんと食事をとっていないはず。



とにかく、連れて帰らないと...!


チユの身体を持ち上げてみると、異常なほどの軽さに驚いてしまった。

よく見ると、痩せすぎてどこも骨ばっている...


ぴょん、と子猫たちが飛び乗ってきて、あなたたちも行くの? と聞いてしまった。

今夜はずっと雪が降ると聞いてたから、置いていくに置いていけず、わたしは3匹の子猫とともにチユを連れて帰るために走った。




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手が塞がっているために、大声でお父さんを呼ぶと、すぐに扉を開けてくれた。

ところが、お父さんには何も声をかけずに横をすり抜け、チユの部屋という名の物置へと向かった。


ベッドにチユを寝かせ、わたしはキッチンへと向かった。

もちろん、看病をするため。

子猫たちは周りをうろちょろとしている。


お父さんが何か言っているが、わたしの耳は認識しようとしない。

体がとにかく冷えているから、湯たんぽを3つほど用意して、布団の上に置いた。

直接だと、熱すぎるかもしれないから。


それからまたキッチンへと戻り、鍋を用意する。

お粥...にしても、何か具材を入れよう。

溶き卵と、それから.....ほうれん草とか人参とか。

とにかく早く、あったかいものを作らなきゃ.....!




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体が、だるい...でも、あったかいな....


ここ、わたしの部屋だっけ....?



「あ、チユ! 起きたの? 寒くない? 大丈夫?」


ぼんやりとした頭のまま、わたしは起き上がり、双子の妹の...キリアの方を見た。

手には、お鍋を持っている。


「あ、無理して起きなくていいよ!

後、お粥作ったんだ! お腹空いたでしょ?」


「あ、あの、キリア?

わたし、どうしてたのかしら?」


姉妹、ましてや双子なのに、小さい頃以来話さなくなっていたキリアとの、久しぶりの会話だった。


「チユってそんな口調だったっけ?

とにかく早く食べてよ、あったかいうちに。」


少し笑いながら、彼女はお鍋を置いて1度戻った。

その間に周りを見渡すと、やはりわたしの部屋だということ、そしてなぜか子猫ちゃんたちが来ているのがわかった。

なんでこんなところに...お父さんにバレたら....


「はい!にゃんちゃん、あったかいミルクだよ!

チユにはミルクココア持ってきたから!

あ、今お皿によそってあげるね!」


そういって持っていたひとつのお皿を置き、マグカップをわたしへと手渡した。

手渡されたマグカップの暖かさが、とても身体にしみる...



それから結局わたしは、キリアの看病を3日間、手厚く受けた。

わたしが動けずにいる間、キリアはわたしの話をずっとしていた。

何週間か前に、図書館で見かけたことから、わたしを追いかけたこと。子猫のことを知って、自分もご飯をあげていたこと。


そして何より、わたしと話せずにいたこと。


どう接したらいいかわからずに、家でもお父さんに何も言えなかった自分が嫌だったらしい。

だから、約束してほしいと言われた。



『これからは一緒にマッチを売ろう』




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新品のように綺麗に直されたストールを肩にかけ、いつものようにマッチ箱の入ったかごではなく、子猫たち...黒い子猫のノア、白い子猫のビアンカ、そして、黒ぶちに白いハート模様がついた子猫のカムの3匹が入ったかごを持っている。


わたしがストールを指先で何度もいじっていると、いつの間にかそばに来ていたキリアに声をかけられた。


「着慣れてないんでしょ。

お母さんにもらったからってずっと着て、かなりぼろぼろになってたし。」


そう、このストールもキリアが直してくれたのだ。

それに、今着ている服はすべてキリアのもの。

とても綺麗な身だしなみになったとは思う。


「う、うん。それより、マッチ売ろっか?」


わたしはかごを揺らさないように慎重に運び、マッチ箱を手にした。



子猫たちのおかげもあってか、さらに身だしなみも整えているからか、道いく人が驚いてこちらを振り返り、マッチを買っていった。

そのうちにわたしも、大きな声を出せるようになり、だんだんと自信がついた。


死にそうになって、辛いこともあったけど。

わたし、キリアと双子になれてよかったな...




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図書館で見た花言葉の本。


アングレカムという名前の花。


花言葉は『いつまでもあなたと一緒』。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く温かい話で、ほっこりしました。亡くなったお母さんのストールを使い続けるチユも、ストールを直してあげた妹も本当に優しいですね。 [一言] けなげで小公女を思わせるストーリー、好きです。
2018/02/08 16:10 退会済み
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