おしょうがつ○
くれぐれも真剣に読まないようにシリーズ番外編(?)
年末年始。
まったりとしたお笑いをひとつ。
ヽ( ´ー‘)ノ⌒○
ゴーーーーーン。
何度目かの鐘が鳴る。
ゴーーーーーン。
鐘の響きは時の往き過ごしを煩悩の数まで鳴り響くのだ。
ゴーーーーーン。
除夜の鐘。
参拝客は皆一様にして並び、まだかまだかと自分の番を待つ。
どうやら、決められた者だけが鐘を撞くという厳格な規則があるわけではないようだった。
しかし、其の者は決して他の追従を許さない。
まだ、元旦の日出も迎えていないというのに、神々しく光輝く坊主頭。
昨今、寺の和尚はかならず剃髪しなければならないなどという掟などはない。
其の者は、いや、其の者達はまるで互いの寺を誇示するが如く。
除夜の鐘を鳴らし続けては競いあっていたのであった。
「ぬうぅ………。きゃつめ。ま~たタイミングをずらしよってからに……ッ!!」
寺の住職は忌々しげに、向かいあうようにして聳え立つ山の中腹辺りを睨み付ける。
馬路曼寺。
堂々たる寺の門構えには仰々しい名が看板に掲げられていた。
代々かれこれ九九九年と受け継がれてきた由々しき寺であり、参拝客も其の霊験あらたかな鐘の音に耳を澄ませてしみじみと思いに浸る。
しかし、鐘を撞く和尚はそれどころではなかった。
煮える地獄の釜の如く沸々と迸る怒りを双眸に宿し、もう我慢の限界を迎えたのか。
突如、待ち構えていた参拝客に順番を譲り、鐘撞き台をあとにして駆け出す和尚。
「あら、どうなさいましたので?」
荒々しげに本殿を走り抜け、途中で投げ掛けられた妻の疑問になど目もくれず。
辿り着くは黒光りする懐かしくも現役バリバリの電話へと。
その受話器を外し、順序よく羅列されたナンバーを馴染んだ手付きで廻し始める和尚。
がちゃ。
受信音を待つこともなく、忽ち怒声は互いに放つ。
「「 合わせろや!! 」」
通話先の相手との見事なまでの同調っぷりが冴え渡り、境内全域に響き渡る。
何事かと振り返る妻や参拝客を余所に、相手先との通話により、壮絶なる戦いの火蓋が切って落とされる。
ゴーーーーーン。
「おいっ!! 伊望寺の!! 貴様合わせる気があるのか!?」
馬路曼寺の和尚のターン。
相手に二の句を告げさせずに、すかさず畳み掛けるようにして手札から強化系のカードを開示。
そこには、『双子』と記されており、その効果は『弟に道を譲るのか当然だ』とあった。
ゴーーーーーン。
対する伊井望寺の和尚は、山札から1枚カードを引き、ニヤリとほくそ笑み言い放つ。
「ばっかもーーーん!! ぬしがワシに合わせるのが筋であろうが!! 控えおろ~う!!」
提示されたカードは横向きに開示される。
そこには、『汝、隣人を愛せよ』とあり、その効果は『ワシの方が産まれた方が先なのじゃから敬え!』とあった。
そう。
互いの寺で、一年を締め括る除夜の鐘の音で競いあうふたりの和尚は、双子であったのだ。
─── 和尚がTWO ───
「ワシに合わせろ!」
「いーや! ワシじゃ!」
両者は互いに引くことを知らず。
電話越しにして、殴りあう。
ふたりの和尚の成り行きを見守る妻達は「やれやれ、またですか」と溜め息を漏らしているようだった。
「「 埒があかんわ!!」」
突如同調する怒声。
ふたりは殴り付けるようにして電話を切り、再び鐘撞き台へと駆け出す。
「どけえいっ!!」
鐘を突こうと順番待ちしていた参拝客を千切っては投げ、千切っては投げ。
ペッ! と掌に唾を吐き馴染ませる。
「色即是空! 色即是空!! 喝っ!!」
ゴーーーーーン。
ゴーーーーーン。
「…………にゃろう。またもや、ずらしおって!!」
和尚達は歯ぎしりをしながら、互いの寺を睨み付ける。
すかさず、負けてたまるかと鐘を突く。
ゴーーーーーン。
ゴーーーーーン。
「あ、しもた。今のはワシが遅かったわい」
自分の非を認めるあたり、意外にも冷静なようだった。
大粒の汗を額から流し、鐘を撞くこと十数合。
遂に、その時がやって来る。
ゴーーーーーーーーーーン
鐘の音は見事に重なり、辺り一面に厳かに鳴り響く。
それは ───
───ちょうど、108回目。
互いの煩悩が終わりを告げた時だった。
「……はぁ、はぁ……。やりゃあ出来るじゃねぇか」
向かい合う山寺に思いを馳せ、余韻に浸る和尚達。
ややもして、ことを成し遂げたかのように振り返ると、先程まで順番待ちをしていた参拝客に取り囲まれる。
皆は声を合わせて、指を指す。
「「「「「 住職! 失格!!」」」」」」
がーーーーーん。
元旦早々。
ふたりの和尚は引退を決意したのであった。
作者の暴走ですので。
どうか、ご容赦くださいませ……。
(´゜з゜)~♪