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星の聖杯  作者: ゆかた
第一章・始まりの章
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第一章 二話 優矢の実力

 夜月第一中学校の体育館。本来ならば生徒たちの元気のいい声が聞こえてくるのだが、現在は違う音が聞こえてくる。それは……戦いの音。


 体育館では空野優矢と火大将による戦いが繰り広げられていた。


 人質がいなくなり、お互いに気にするものがなくなったため戦いが激しさを増していく。


 そんな光景を見ていた生徒たちが徐々に冷静さを取り戻していく。ここにきてようやく状況を呑み込めたようだ。


「なんなんだよ……これ」


 最初に言葉を発したのは優矢のクラスメイトで友達の平井啓太。信じられないとでも言いたげな顔をしている。


「いったい、どうなってるの?……ねえ、結衣ちゃんどういうことなの!」


 橋本真由が唯一ことの事情を知っているであろう結衣に問いかける。問いかける口調が強めなのはさっきまで人質に取られていた親友の鮎森夢のことを想ってのことだろう。その夢は人質に取られていた恐怖と解放された安心から涙目になっている状態で真由に抱きしめられている。


(裏武術界のことは話してはいけない。けど、ここにいる皆はこの戦いに巻き込まれてしまった。ううん、私たちが巻き込んでしまった。だから、皆には知る権利がある)


 そう、ここにいる皆は知る権利があるのだ。夢に至っては殺されかけたのだから。


(それに、こんなことになってしまったから、私たちはもう……この学校には)


「ねえ、結衣ちゃん!!」


 もう一度、真由が結衣に問いかける。先ほどよりも強い口調で。


「裏武術界…」


 結衣がそっと口を開く。


「剣道や空手なんかの武術の世界には大きく分けて二つの世界が存在するの。表武術界と裏武術界。スポーツ武術って呼ばれてる一般的に知られているのが表武術界」


 結衣が説明を始めると周りにいた生徒たちはその言葉に耳を傾ける。


「その表武術界とは逆に裏武術界がある。裏武術界のことは一般的には公表されてなくて、一部の者しか知らないの」


「表武術界?裏武術界?」


 結衣の言葉に真由が困惑したように言う。


「そう。大会では危険な技を使用禁止にしてポイントで勝敗を決定するのが表武術界。裏武術界の大会では危険な技を使用可能とし、相手を戦闘不能にすることで勝敗が決まる。だから、裏武術界にいる武術家は他の武術家よりも桁違いな戦闘力を持っているの。裏武術界の大会に出場するのにも、実力が認められないと出場できない」


 結衣のその言葉に聞いていた全員が信じられないという顔をしている。


「そんなの…」


「信じられない?でも、ホントのことだよ。ほんとにそんな世界があるの。皆が知らないだけで。テレビや雑誌で流れている情報が、学校で教わることが全てじゃない」


「じゃあ、空野君も結衣ちゃんもその、裏武術界の?」


 全員が唖然としている中、言葉を発したのは夢だった。真由に抱きしめられているのには変わりないが目には涙を浮かべていないため少し落ち着いたのだろう。


「うん、私も優矢も裏武術界の大会に参加した。そして、優矢と戦っている火大将って人も」


 結衣はそう言い、戦いを繰り広げている優矢たちに目を向けた。それにつられて夢や真由、啓太たちも優矢へと目を向けた。






「おらおらおら!!」


 火大が優矢に向かって攻撃を仕掛ける。右足での蹴り。空手の回し蹴りのように横方向からの蹴りではなく、真っすぐの蹴り。日本拳法の蹴りである、胴蹴り。それを優矢は右手での横打ちで防ぐ。

 蹴りを防がれたが次は突きを火大は繰り出す。真っすぐに、相手を打つような突き。だが、その突きを優矢は横受けで防ぎ、突きを放つ。カウンターだ。しかし、火大は左足のひざで突きの軌道をそらし、躱す。


「どうした、新人王!その程度かよ!!」


 優矢と火大の戦いは、ほぼ互角だった。戦いの駆け引きや技にもほとんど差がない。だが、優矢はそんなことは気にしてなかった。優矢が気にしていることは他にあったからだ。


「なぁ、お前に聞きたいことがある」


「ああぁ、なんだよ!せっかく楽しくなってきたのによ!」


 優矢は火大と距離をとり、自分の疑問をぶつける。


「なんでこんな真似をしたんだ?」


「ああ、なんだよ」


「なんで学校に乗り込む、なんて真似をしたんだって聞いてるんだよ。こんな大胆な行動をすればどんなことになるか、分かってるんだろ」


 そう、まさにそこだった。裏武術界のことは秘匿されている。こんな行動をとれば火大将には罰が課せられる。そんなリスクを犯して勝負をしてきたのが優矢には分からなかった。


「はははあぁ!てめぇは何も知らねんだな!」


「なに?」


 火大が心底おかしいと言わんばかりに優矢に言う。


「このことで俺が罰を受けることはねえよ!むしろあいつらに感謝されるんじゃねえかなぁ!てめぇを殺せばな!!」


 そう言って火大は優矢に攻撃を仕掛ける。






(感謝される?あいつら?どういうことだ?)


 火大の言葉に疑問を抱くが、すぐにそんな場合ではないと思い直す。火大の攻撃はすでに今の優矢では対応するのがギリギリだからだ。


(くっ、そろそろ限界が来てるな。仕方がない、あれを使うか。今の鈍った身体で出来るかどうか、勝負だ!)


 優矢は火大の攻撃をギリギリで躱し、大きく距離をとる。そして、大きく息を吸い込み集中する。


 優矢の目が鋭くなる。


「くっ」


 そのプレッシャーにおもわず火大が距離をとる。


(なんだ、このプレッシャーは。さっきまでと明らかに何か違う)


 火大も裏武術界に入るほどの武術家だ。そのため優矢の変化に瞬時に気付いた。だが、それで怯む火大ではなかった。優矢に向かって攻撃を仕掛ける。


 一方優矢は、火大の攻撃に合わせてカウンターを入れようと一歩踏み込む。左足で踏み込み、突きを左手でガードし、右足での上段回し蹴り。火大から見れば左側に蹴りが飛んでくる。そのことを正確に読んだ火大は蹴りをガードしようと左手を顔の左側まで持ってくる。蹴りを防いだ後は近距離での打ち合い。そうなると火大は予想したが、そうはならなかった。


 優矢の蹴りが決まらずに優矢の突きが決まったのだ。


「!?」


 優矢の右手の中段突きが炸裂し、火大が後ろに下がる。


(なに!?どういうことだよ?なんだよ、今のは!?)


 火大が驚愕を隠せずに心の中でそうつぶやく。それもそうだろう。優矢の攻撃は確かに蹴り技だった。だが、実際に決まったのは突き技。防ぐ寸前で優矢の蹴りが消えたのだから。


 今度は優矢のほうから攻撃を仕掛ける。今度は左手による上段突き。火大は突きを受けてカウンターを仕掛けるつもりだった。だが、今度は突きが決まらずに蹴りが決まった。右足による中段回し蹴り。火大はまた後ろに下がる。


「どういうことだよ!!」


 おもわず火大が叫ぶ。


 さっきまでは互角の戦いだったが、ここから始まるのは一方的なワンサイドゲームだった…






「なに!?なんなの!?」


「なんなんだ!」


 真由と啓太が驚きの声を上げる。それもそうだろう。先ほどまでは互角の戦いを繰り広げていた優矢と火大だが、今は完全に優矢が圧倒している。素人目でも優矢が優勢だと分かるだろう。

 だが、何をどうやったかまでは分からないようだ。

 その疑問に結衣が答える。


「あれは優矢の得意技だよ」


「得意技?」


「うん。優矢は自分の重心を操作することに長けている。あれはその重心を操作するテクニックを応用した技なの。踏み込んだ時、例えば左足で踏み込むとするよね。すると、その状態で出来る技は大きく分けて二つ。突くか蹴るか。突く場合は重心を正面に、蹴る場合だと重心を左側に移動させなくちゃならない」


 結衣の説明に皆が静かに耳を傾ける。それだけ興味がある、知りたいということだ。


「優矢のこの技は、踏み込んで攻撃をする直前まではどちらか一つの技の重心のかけ方をして、技を出す寸前で重心を移動させて違う技を出す。そうすることで相手に間違った攻撃の流れを見せて防御をさせなくするの」


 結衣の説明に言葉が出なくなる。理屈は分かる。つまりは、重心の移動を利用した攻撃のフェイント。だが、この場にいる者の中で素直に納得できる者はいないだろう。


「で、でも、そんなこと出来るの?出来たとして、それで相手をあんなに圧倒することが出来るの?」


 結衣の説明に疑問をぶつけたのは夢。この場ではこう言うことが精一杯のようだ。


「うん、出来るよ。確かに普通なら無理だと思う。でも、ある一定の実力までいった武術家は相手の攻撃を予測する技術を身に着けているの。じゃないと戦いの最中に駆け引きなんて出来ない。だけど、その予測は全部を頭で考えてるわけじゃない。そのほとんどが直感。こう来るだろう、という直感で攻撃したり防御をしたりする。じゃないと、こんな高速戦闘時にとっさの攻撃や防御なんて出来ないからね」


 結衣は可愛いと思わす笑顔でそう言う。だが、結衣のこの笑顔が作り物であると感じた者は数名いたはずだ。


「優矢の技はその直感を利用する。つまり、相手にこう来るだろうと予測させる。それは、感覚で感じることで頭で考えたことじゃないの。ほぼ条件反射のレベル。だから相手は頭では分かっていても身体が勝手に動くから防げない」


 それは相手が自分で、ありもしない攻撃を予測しているということ。


「優れた武術家ほどその直感は鋭くなる。だからこそ強い相手であればあるほど間違った流れを読んでしまい攻撃を食らってしまうの」



 相手に間違った攻撃を見せる技。



 その攻撃は相手からすれば正に、変幻自在。

 故に、


 ―【変幻自在の形】






「くそが!!」


 火大が焦りの混じった声で叫ぶ。先ほどから火大は優矢に攻めら続けられている。いや、攻められるだけならまだいい。それなら攻撃の隙間から反撃すればいい。だが、こうも一方的に攻められると反撃の隙がない。それに、火大は優矢の攻撃を防げていない。優矢が変幻自在の形を使用してから全ての攻撃を火大は食らってしまっている。


 優矢が火大との距離を縮めて突き技を繰り出す。火大はその攻撃に対処しようとするが決まったのは蹴り技。


(くそ!!頭では分かってるんだよ!!だが身体が勝手に動いちまう!!)


 そう、頭では理解している。だが、それとは関係なく身体が反応する。


 優矢の変幻自在の形は相手に間違った攻撃を見せる。つまり、火大は錯覚しているということだ。しかし、優矢の攻撃は錯覚というにはあまりにも本物すぎる。火大には本当に優矢がそう攻撃するように見えているのだ。だからこそ身体が反応してしまう。反応しないと危険だ。優矢の攻撃はそう思わすほどに重心や動きがその攻撃になっている。だが、実際に決まるのは危険と判断し防御しようとした技とは別の技。


 火大には優矢の変幻自在の形を防ぐ手段はなかった。


 その事実が火大を焦らせる。


(ちくしょうが!!!!)


 焦れば焦るほど冷静さを失い、優矢の攻撃を食らってしまう。


 優矢が左足による上段回し蹴りを繰り出したかと思うと、決まったのは、右側に移動し無防備になった火大のお腹への中段突き。そこからさらに突き、かと思うと右手による裏拳。そこからさらに左手による突き、かと思うと左足による中段回し蹴り。


 そこから右手による中段突き、かと思うと右足による上段の裏回し蹴り。そこから左足による中段回し蹴り、かと思うと顔面へのうち落とし。そこから左手の突き、かと思うと右足で火大の前足を払い、体勢を崩した火大に右手による中段突き。体勢を崩したことにより中段突きをまともに食らってしまった火大は相当なダメージを受け、床に叩きつけられた。


 この攻撃は正に変幻自在の攻撃だった。


(ぐはっ!くそが!!こ、これが12歳で裏武術界の新人戦を優勝した新人王の実力か!!!)


 ――新人王。その異名に相応しい実力を魅せた優矢。だが、


(俺も、負けられない!負けてたまるか!!負けるかよ!!!)


 火大も負けられない。






 ――ほぅ、今年の新人戦のベスト4には16歳。高校一年生の武術家が入ったか


 ――あぁ、実力は申し分ない。将来が楽しみだな


 ――だがなぁ


 ――あぁ、あの王には敵わないだろう


 ――そうだろうな。才能が違いすぎる


(なんだよ。なんなんだよ!)


 ――なにせ、たった12歳で新人戦を優勝したのだからな


(どいつもこいつも!!)


 ――あの新人王には勝てないだろう


(どいつもこいつも新人王!!新人王!!そんなに新人王がすごいのかよ!!)


 ――王には敵わない


 ――勝てないだろうな


(ちくしょう!!!!……そんなに言うんだったら俺が新人王を倒してやる!!!倒して認めさせてやる!!!俺の実力を!!!)






 火大にも負けられない理由がある。優矢に勝って馬鹿にしたやつらを見返すために。

 それは男としてのプライド、武術家としての誇りがかかっている。


 だからこそ負けられない。


 倒れかけた火大だが、


(負けられないんだよ!!!!)


 それにより根性で立ち上がり、優矢に攻撃を仕掛ける。


「…ッ!!」


 倒れたはずの火大から攻撃がきたことにより驚愕する優矢。その一瞬をつき、火大が技を繰り出す。


 火大が優矢の右側に自身の右手を入れ、右ひじを顔に当てて優矢を倒そうとする。


 が、それは意識をそちらに集中させるためのフェイント。


 フェイントを入れた次の瞬間、優矢のお腹に右のひざで蹴りを食らわす。右足での胴ひざ蹴り。そして胴ひざ蹴りを食らわした直後、自身の身体を左側に傾けて優矢の左側の脇腹に蹴りを浴びせる。一瞬で二つの蹴りを食らわす。


 火大の決め技。いわゆる必殺技だ。


 だが、


「くそが―!!」


 優矢は火大の技を耐えた。変幻自在の形を繰り出したことにより集中していたため、火大の技をその驚異的な集中力で先を読み、左手で最後の蹴りを防御し、クリーンヒットを避けたのだ。


 そして、


「はああぁぁ!!」


 この戦いで初めての気合の声を出し、優矢が右手で突き技を放つ。


 ドンッ!!


 鈍い音を立てて火大のお腹に優矢の突き技が決まった。しかし、火大は耐えた。


 チャンスだ。そう火大が思い優矢の右手を掴み、関節技を決めようとするが、


「はあぁぁ!」


 さらに、優矢の突きが炸裂する。右手をグッと握り、回転を加えながら、一歩さらに重心を前に移動させ踏み込み、突く。右手でのゼロ距離からの二連撃目の突き。優矢が最も得意とする突き技。


 ―【双極の突き】


「ぐははっっ!!!」


 ゼロ距離からの全力突きのその威力に火大が吹っ飛び、体育館の入り口近くの壁に激突した。


 ズドーン!


 普通なら気絶するほどの衝撃。火大も例外なく気を失ったようだ。それによりこの戦いは空野優矢の勝利となった。






 今までの戦いの激しさから嘘のように静まり返る。その場にいた誰もが動けなかった。そんな中、結衣が優矢のもとにやってくる。


「終わったね」


「あぁ、まあな」


「これ、どうなるのかな」


 結衣が一番気にしていたことを口にする。これだけの騒ぎになってしまったのだから一体どうなってしまうのか、結衣には想像がつかなかった。

 だが、優矢から語られたことは結衣にとっては予想外だった。


「おそらく、問題にはならないと思う」


「ええぇ!!」


「あいつが、火大が言ってた。このことで俺が罰を受けることはない。むしろあいつらに感謝されるって」


「あ、あいつらって?」


「多分だけど裏武術界の誰か…じゃないか、それも武術家じゃない。責任者だと思う」


「そ、そんな…」


 結衣は驚愕の表情で呟いた。裏武術界の情報は厳重に秘匿されている。そんな裏武術界がこんなことを許すなんて信じられなかった。


「だから、このことで皆に迷惑がかかることはないと思う…だけど…」


「うん、そうだね…」


 確かにこのことで皆に、この学校に何かがあるわけではない。だが、自分たちがいたことにより皆を危険にさらしてしまった。最悪の場合、死者が出ていたかもしれない。それに、この戦いで自分たちが皆とは違うとわかったはずだ。辞めたとはいえ自分たちは裏武術界の武術家なのだ。自分たちがいればまた、皆が危険にさらされるかもしれない。


 だから、この学校を、


「それにこんなことが起きるということは、裏武術界に何か異変が起きている、ということだしな」


「うん、でも…戻らないよね…」


「あぁ、戻らない…武術の世界には」


「うん…」


 このことで裏武術界に異変が起きている。そう二人は感じたが、二人とも武術の世界には戻る気はない。


 もう、武術の世界には…あんな想いをするなら…と


 そして、優矢と結衣はこの学校ら去ろうとする、が、


「おい、どこに行くんだよ。優矢」


「…っ!」


 そんな優矢たちに声をかけたのは啓太だ。


「まだ、体育館の片付けが残ってるだろ」


「啓太…」


 声をかけたのは啓太だけではない。


「そうだよ、結衣ちゃん。どこ行くの」


「空野君も結衣ちゃんも早く片付けようよ」


 真由も夢も声をかける。それだけではない。「そうだよ」と何人もの友達が声をかけてくる。


「皆、いいの?だって……皆を、危険に……」


「良いも悪いもないよ!……だって結衣ちゃんは友達でしょ」


「…!!」


 その言葉に結衣が涙目になる。あんなに危険な目にあったのに、それでも皆は。


「そうだぜ。俺たちは友達だろ。お前らがなんだって関係ない…だろ?」


「啓太……お前」


 優矢も表情には出さないが皆の暖かさに感動しているのはその声を聴いて一目瞭然だ。

 皆の想いに感動している結衣に親友である夕崎桜からも言葉がかけられる。


「そうだよ、結衣ちゃん。どんな理由があっても……どんなことがあっても、変わらないよ」


 桜がいつもの眠たそうな声で言う。そう、いつもと同じだ。


「桜ちゃん…」


 結衣はもう限界だ。涙が溢れてくる。こんな自分たちを受け入れてくれたことが嬉しくてたまらないのだ。それは優矢も同じだろう。優矢と結衣は過去、辛い経験をした。だからこそ、皆が受け入れてくれたことが嬉しいのだ。


「ここにいていいのか?」


 優矢がそう呟く。


「当たり前だろ!」


 啓太が。


「当然!」


 真由が。


「うん」


 夢が。


「いていいよ」


 桜が。


 皆がそう言う。ここにいていいと。


「皆、ありがとう!」


 結衣が精一杯、気持ちを伝える。そして、笑顔で皆の輪の中に入る。


 優矢がふと、体育館の入り口近くを見る。火大が倒れていた場所だ。だが、そこに火大はいなかった。


 優矢は気になったが皆のもとへと向かった。


 また、これから平和な日常が始まる。





 だが、呪われた運命は刻一刻と迫っていた。


 これは、そんな呪われた運命の始まりを告げる戦いなのかもしれない。







 ―とある路地の一角にて


「ちくしょうがあああぁぁ!!!!」


 火大が悲鳴を上げて悔しがっていた。何度も、何度も壁に拳を叩きつけている。


「くそっ!!くそっ!!くそーー!!」


 自分の力を証明するために優矢に挑んだが、返り討ちにあってしまった。しかも一方的にやられてしまった。自分のほうが弱いと自分で証明してしまったのだ。


 そんな火大に近づいてくる人影があった。全身黒のローブで身を包んだ者だ。


「なんだよ!笑いに来たのかよ!」


 火大がそう言う。だが、すぐにおかしいと思う。違う。自分が知っている人物とは違うと、武術によって鍛えた感がそう告げる。


「お前…誰だ!!」


 火大が叫ぶ。だが、火大が動くより早く、黒ローブが火大に技をかける。火大の右側に手を入れ、倒そうとする。が、次の瞬間、右足での胴ひざ蹴り。そして、右足での蹴り。


「…なっ!!これは俺の」


 その技は火大の決め技だった。


「ぐはっ!!」


 それにより火大が気絶する。そして、黒ローブは気絶した火大を抱え、近くに止まっていた車に乗り込んだ。


 そしてその車の中にいた男が電話をする。


「やはり、火大将では新人王には勝てなかったようです。…はっ、世代の実力は健在だと…では、そのように」


 電話を切り、その車は走り去っていった。







 ―とある道場にて


「そうか、やっぱりあの事件には裏があったか」


 20代後半と思われる男性が電話で話をしている。


「…だとしたらこれから危険だな…あぁ、ありがとな」


 電話を終え、男性が空を見上げる。


「やはり、あいつらに…」


 そう呟く男性に一人の少女が近づいてくる。歳は16歳といったところか。


「師匠、それ、私にやらせてください」


 その少女の言葉に少し迷ったが


「わかった。任せた」


 男性はそう言った。

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