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星の聖杯  作者: ゆかた
第一章・始まりの章
13/13

第一章 十二話 ライバルの存在

 それぞれの自己紹介が終わり優矢、結衣、龍、香奈は4人で話をしていた。


「え?ここみんな同じ年なの?」


「うん。今私たち小学六年生だよ」


 香奈の言葉に結衣が答える。


「へ~、偶然だな」


 全員が同じ年ということもあり初対面だが自然に口調が柔らかくなり、会話が進んでいく。


「え?空野たちも空手家なのか?」


「ああ、そうだよ」


「でも、大会だと見たことないけど……」


「流派が違うんだ。俺たちは伝統派空手だけど霧山たちは極真空手だろ」


「そうか。葵ちゃん、伝統派空手なんだ」


「うん。真城ちゃんは極真空手なんだね」


 流派は違うが同じ空手だ。お互いの形や組手の戦い方なんかの話で優矢と龍はかなり盛り上がった。


「そうなんだよな!組手ってそこが難しいんだよな」


「下手に飛び込んでいくとやられるから、どのタイミングで攻めるか。その駆け引きが重要だよな」


「ああ。でも、その駆け引きの時に起きる硬直状態の時が組手の醍醐味って感じだけどな……」


「それ凄くわかる!あの時に相手がどう動くか。自分がどう動くかを読みあい、予測する。あの感覚がいいよな」


「わかるか!そうだよな!」


 優矢と龍が意気投合している中、結衣と香奈も盛り上がっていた。


「そうなんだ!葵ちゃんたちも幼馴染なんだ~」


「うん。親同士が知り合いで……真城ちゃんたちもなの?」


「うん。私たちも小さい頃から一緒なんだ……空手を習い始めたのも一緒なんだよ」


「そうなんだ~」


 結衣と香奈はお互いの関係についての話をしていた。先ほど知り合ったばかりなのに、まるでクラスメイトみたいに仲良くなった。これが同じ年の気安さというやつなのだろう。


 そのとき、組手の話をしていたからなのか急に龍が立ち上がり、優矢にある提案をする。


「そうだ!空野!俺と勝負しないか?」


「勝負?」


「ああ。さっき試合したんだけどなんだか戦い足りなくてさ。空野と組手の話をしてたら戦いたくなったんだよ……空野も戦い足りないんだろ?」


「まあ、そうだけど……」


 実を言うと優矢も龍と同じで戦い足りないと感じていた。それにこの霧山龍は自分と同じ年で裏武術界に入った。優矢は単純に龍の実力が知りたいと思っていたのだ。ならば答えは一つ。


「よし!やろうぜ!霧山!」


「龍……俺のことはそう呼んでくれ!」


「分かった!俺のことも優矢でいいよ」


「じゃぁ、私のことも香奈って呼んで」


「私のことも結衣でいいよ」


「おっけー!よし、優矢!勝負しようぜ!」


「ああ、やろうぜ!龍!」










 会場の端の方に移動し、お互いに向きあう優矢と龍。構えは共に左構え。


「全力でいくぞ!!」


「ああ、来い!」


 その言葉と共に二人が同時に動いた。踏み込み、左手での上段突きをお互いに繰り出す。左腕が交差し、突きがお互いの顔面に迫る。それを優矢は右手で外側に、龍は右手で内側に弾き、躱す。その直後に、今度はお互いに右足での上段回し蹴り。蹴り同士がぶつかり、一瞬の硬直後、共に距離をとる。


 今度は龍が先に動いた。素早く、鋭い踏み込みから繰り出される右手での中段突き。それを優矢は左手で精確に受け流す。受け流した直後、右手での上段突き。龍はそれを右方向に移動することでギリギリ躱す。そして、その移動の反動を利用し、右足を軸に左回転。左足での後ろ回し蹴りを繰り出す。


 優矢は龍の蹴りを重心の動きと体の動き、足の動きで予測し、蹴りが繰り出される前に後ろへ回避する。その時に上半身を反りながら回避。龍の蹴りが優矢の顔面のすれすれを通り過ぎる。


 後ろに回避した優矢は蹴りにより体勢を立て直せていない龍に向かって鋭く踏み込み、左手での上段突きを繰り出す。その攻撃に今度は龍が後ろに下がる。


 それをチャンスと見て、優矢は一気に攻撃を浴びせる。上段突きの後、右手での中段突き、左手での上段突き。その後、一歩踏み込むフェイントを掛けて右側に移動し右手での中段突き。


 それを龍は焦ることなく冷静に受け流す。だが、優矢の鋭い攻撃に防御することで精一杯で攻撃を行えない。


 中段突きの直後、優矢は右足での上段回し蹴りを繰り出す。だが、優矢の蹴りは途中で防がれた。龍の蹴りによって。


 龍は優矢が右足で蹴りを繰り出すと読み、左足の裏で優矢の蹴りがスピードに乗る前に優矢のすねを蹴り、撃ち落としたのだ。


(なに!?)


 龍の防御に優矢が驚愕する。こういった戦い方は伝統派空手では見ない、極真空手の戦い方だ。


 龍により蹴りを途中で中断させられてしまった優矢は体勢を崩してしまう。その隙に龍は右手での上段突きを繰り出す。


 しかし、優矢はその突きを肩の動きで予測し、龍の二の腕を掴み、軌道をそらさせる。


(っな!!あれを躱すのか!?)


 今度は龍が驚愕する番だった。こういった技の丁寧さ、応用は伝統派空手ならではだ。


 優矢は受け流した反動を利用し、左足を軸に右回転。龍の横腹に右手での肘打ちを食らわす。


「くっ!!」


 優矢の肘打ちを食らった龍だが、それにひるむことなく右足を軸に回転し、左足での後ろ回し蹴りを繰り出す。


 流石にその攻撃は受けきれず優矢は蹴りを食らってしまう。お互いに一撃を食らったため後ろに下がり距離をとる。構え直し、対峙する優矢と龍。その二人は同時に、


((強い!!))


 と心の中で呟いた。


 お互いに小学六年生、11歳で裏武術界入りを果たしたのだ。それだけの理由がある。お互いに表空手界の世界では敵なしだった。今まで一度も負けることなく全国大会を優勝した。



 それは自分と同等の実力を持つ存在がいなかったということだ。



 だが、今、目の前で対峙している相手は自分と同等の実力を持つ者。


 自分と同等の実力を持ち同じ年で同じ空手家。


 初めて出会ったのだ。同年代で勝てるか分からない、(ライバル)に。


 その事実に優矢と龍はおもわずにやけてしまう。


 心の底から楽しいと思ってしまう。と同時にこの相手には絶対に負けたくないとも思う。


 急速に頭が冷えてきて戦いに集中していく。戦いしか考えられなくなる。


 優矢と龍は先ほど以上に全力の勝負を繰り広げていった。









 直承と暁人は優矢と龍の戦いを少し離れたところで見ていた。


「これだ……」


「直承?」


「これなんだよ。表武術界ではあいつらのライバルになりえる武術家はいなかった。だけど裏武術界なら、同等の実力を持つ武術家がいるかもしれない。だからあいつらに裏武術界を勧めたんだ」


「そうだな。俺もそう思ってた。特に香奈はちょっと前に友達だった子が引っ越しちゃって落ち込んでたからな。同年代の女の子に会えてよかったよ……それに龍も」


「ああ。同じ年のライバルっていうのは、いるのといないのとでは全然違うからな。意識しあうことで実力が伸びていく、競い合うことでお互いを高みに上らせる……俺とあいつのように……」


 直承は懐かしさと寂しさが入り混じった表情で二人の戦いを見守った。









「がんばれー!」「ファイトー!」


 結衣と香奈は二人の戦いを見ながら応援していた。


「龍がんばれ!……ああ!惜しい!」


 龍の応援をしている香奈の表情は楽しそうで、嬉しそうな表情だった。その表情を見て結衣は気付いた。


「ねぇ、香奈ちゃん」


「うん、なに?結衣ちゃん」


「香奈ちゃんってもしかして、龍くんのことが好きなの?」


「ふえぇ///」


 そんな変な声と共に香奈の顔がどんどん赤くなっていく。その顔を見て結衣の考えが確信に変わった。


「やっぱり!」


「どうして分かったの?」


「何となくだけど、分かるよ!表情とか声とかで!」


「そ、そうなんだ……」


 香奈が恥ずかしそうに下を向く。その表情は正に恋する乙女のものだった。


「ねぇ、香奈ちゃんは龍くんのどこが好きなの?」


「え?……それ、聞きたい?」


「うん!」


「えっと、凄く一途なところかな……自分の好きなことに対して凄く真っすぐなの。空手に対しても凄く一途で真剣で。その姿が凄くかっこよくて。ちょっとやんちゃなところもあるけど、凄く優しくて……負けず嫌いで。勝負で負けると次は絶対勝つって練習して、そんな姿もかっこよくて。それで……」


「香奈ちゃん、ストップ!!」


「え?」


 暴走しかけた香奈を結衣が止めた。


「もう大丈夫。香奈ちゃんが龍のくんことが好きなことは伝わったよ」


「そ、そう///」


「うん!本当に龍くんのことが大好きなんだね!」


「うん……好きだよ」


 香奈が顔を赤くしながら龍を見て、そう呟く。


「頑張ってね!応援してるから!!」


「うん!ありがとう!……結衣ちゃんはどうなの?」


「え?」


「優矢のこと……好きなの?私も応援するよ!」


「えっと……優矢とはそんなんじゃないよ……」


 結衣が一瞬、寂しげで悲しげな表情を浮かべた。香奈はそれを不思議に思ったが、


「それよりも、二人の応援をしようよ!」


「う、うん。そうだね!」


 それにより結衣と香奈の話は終了し、二人の戦いの応援へと戻った。









 優矢と龍は激しい攻防戦を繰り広げているがお互いに決定打を与えられない。だが、そんな戦いに、


(こんなに苦戦する戦いは初めてだ……すごく楽しい!)


 優矢が、


(やばい、楽しい!)


 龍が楽しいと感じていた。だからこそ優矢はもっと本気の力を出す。


 優矢の右手での上段突きが龍に迫る。龍はそれを冷静に見極め、受け流そうとしたが、その突きが途中で消えた。


「なっ!?」


 龍が驚愕の表情を浮かべる。と同時に優矢の右足での中段回し蹴りが炸裂し、龍が後ろに後退する。その後、優矢は左手での上段突きを繰り出す。しかし、決まったのは右手での中段突き。


 自身の重心を操作することにより間違った攻撃を魅せる技。


 ――【変幻自在の形】


「くっ!」


 龍がさらに後ろに下がる。


(なんなんだ今の攻撃は!?)


 さすがの龍も優矢の変幻自在の形には動揺を隠せないが、それでも体勢を立て直し冷静に分析する。


(おそらく優矢の攻撃は重心の移動によって攻撃を錯覚させるもの。だからその攻撃に惑わされなければいい……けど……)


 そう優矢の変幻自在の形は重心の操作により攻撃を錯覚させる。だが、その攻撃は相手が条件反射で動いてしまうほどのもの。相手の実力が高ければ高いほど、この錯覚の攻撃に反応してしまう。


 龍も優矢と同等の実力を持つ武術家だ。よって技の仕組みは分かっても身体が勝手に反応してしまう。そのため龍は優矢の攻撃を防げずに食らってしまう。


 だが、龍もやられてばかりではない。優矢の攻撃範囲から逃れるために後ろに下がる。が、すぐに攻撃に転じ、優矢に向かって鋭く踏み込んで突きを繰り出す。


(っ!?)


 龍が下がったにも関わらず、直ぐに攻撃に転じたことにより優矢が一瞬怯み、反応が遅れてしまう。それにより龍の攻撃を食らってしまう。


 龍の攻撃は見ていて綺麗な攻撃だった。基本に沿っている、からではない。もっと根本的なところだ。おそらく龍は突きや蹴りなどを何千、何万という回数練習し、自分が最も攻撃しやすい自分だけの突きや蹴りにしたのだ。



 だからこそ動きに一切の無駄がなく、綺麗で美しい攻撃に仕上がっているのだ。



「くっ!!」


 優矢が龍の攻撃を食らい後ろに下がる。一歩、二歩と後退するのを見て龍はさらに攻撃を浴びせる。


 極真空手独特の突きである下突き、からの上段突き、そして右足での中段回し蹴り。


 だが、優矢もさすがの反応で最後の蹴りをガードし、変幻自在の形で反撃に転じる。その刹那……龍が消えた。


「……っ!!」


 その光景に優矢が驚愕する。


 消えたのではない。龍が後ろに倒れたため、消えたように見えたのだ。そして、倒れている瞬間に左足での蹴りを食らわす。


 蹴りを食らってしまい、優矢は変幻自在の形での攻撃を出来ずに後退する。その時には龍は立ち上がり、さらに優矢に攻撃を仕掛ける。


 龍の右手での上段突き。それを優矢は左手で受け流す。だがその直後、クルっと左回りに回転し、左手での肘打ちを食らわす。


「なっ!?」


 それを優矢はギリギリで右手で受ける。その後、左足での中段蹴りを優矢は繰り出す。


 龍はその蹴りを右側にジャンプしながら右手で受け流す。そして、左足での中段蹴りを繰り出す。が、その蹴りは途中で停止した。


 その直後、左後ろ側にジャンプし、右足での上段回し蹴りを繰り出す。それを優矢はホントにギリギリのところで読み、左手で受ける。


 龍は蹴りを受けられた直後、直ぐに攻撃をする。右手での上段突き。優矢はそれに合わせ右手で上段突きのカウンターを入れる。


 お互いの攻撃がヒットする。そう思ったが、そうならなかった。またしても龍が途中で停止した。優矢の突きが顔に当たるほんの一ミリ手前で。その後左右に身体を振った後、右手での中段突き。優矢はそれを受ける。


 が、次の瞬間、龍が肘を曲げ、優矢の顔面に向かって真上に肘打ちを繰り出した。


「っ!!」


 優矢がギリギリのタイミングで後ろに下がる。それにより優矢の顔の少し前を龍の肘が通り過ぎる。その直後、上に打ち上げた反動を利用し、拳を頭に向かって振り下ろす拳槌打ち(けんついうち)を繰り出す。


 それを優矢はまたギリギリで右手で受ける。そしてこれ以上の追撃をさせないために後ろに下がる。


(これは……)


 しかし、龍がそれを許さない。さらに優矢に攻撃を仕掛ける。左手での上段突き。優矢は左手での横打ちで龍の突きを弾く。だが龍は弾いた反動を利用し、回転。左手での裏拳を繰り出す。優矢はそれに反応し、右手で防ぐ。だが……


「ぐっ!!」


 龍の右手での肘打ちが炸裂した。龍は裏拳を繰り出すために一回転したため優矢に背を向けている状態。そして優矢の意識は裏拳が飛んできた左側に集中していたのだ。そのため右側は意識していなかった。


 その後すぐに龍が優矢の方に振り向き、左足での上段回し蹴り。だが、優矢は左手で受け、後ろに下がり距離をとる。


(今の、龍の攻撃は……基礎に全く当てはまらない、自由な動き。あれは……)


 基本的な動きに囚われない自由な動き。考えて行動するのではなく直前で二、三手先のことを考え、相手が予想もしないような攻撃、防御を行う技術。基礎を度外視した奇想天外な技。


「【変則的な動き(トリックプレー)】!」




変則的な動き(トリックプレー)


 奇想天外な動き。自由自在な動き。騙し技。とも表さられる、相手にとって予測もできない変則的な攻撃、防御を行う技。


 武術には戦いの基礎となる基本の型が存在する。基礎というのはその武術が何十年、何百年という年月を掛けて完成させたその武術に最も合った動きのことだ。


 戦いでは武術家はその基本の動作で戦う。だが、この変則的な動きはその基本、型を度外視して戦うのだ。


 考えて攻撃をするのではなく、相手の動きに合わせて直前で二手、三手先のことまで考えて攻撃、防御を行う。そしてその攻撃、防御は相手が予想もしない不確定なものでなければならない。ただ、がむしゃらに動くのではなく、直前で先のことまで考えて行動するため、途轍もない集中力が必要となる。



 しかし、変則的な動きを行える武術家はほぼ、いない。



 なぜならば、武術家はまず初めに基本を叩き込まれるからだ。だからこそ基本を無視した戦い方は出来ない。変則的な動きをしようと基本を無視すると、どうしても動きに無駄が出てしまい、結果として出来ない。変則的な動きよりも普通に基本の型で戦った方がいいということになってしまうのだ。




 だが龍はその変則的な動きを完全に自分の物にしている。



「え?うそ!?あれって、トリックプレー!?」


 その事実に戦いを見ていた結衣が驚きをあらわにした。


(なんで?……だって、龍くんの動きはトリックプレーとは違って綺麗で洗練されていて、基礎に沿ってい……て……違う!そうじゃない!!)


 そのことに結衣が途中で気が付いた。確かに龍の動きは綺麗で美しい動きだ。だがそれは基礎に沿っているからではない。龍は突きや蹴りなどの技、動きを何千、何万回という回数練習し、それを自分がやりやすい自分独自のものにしている。


 だからこそ、変則的な動きをするのに適している。基礎の型で戦うのではない、自分の動きで戦うからこそ龍はこの動きが出来るのだ。


「そう。龍はトリックプレーを最も得意としているの。一生懸命に練習して極真空手の動きを自分のものにしてきたからこそ。……でも、トリックプレーは途轍もない集中力を使うからそんなに長くは使えない。だけど、トリックプレー中の攻撃は誰にも防ぐことは出来ない……」


 変則的な動きを繰り出せば、その間だけは相手は攻撃を防ぐことは出来ない。その攻撃は正に防御不可能な攻撃。



 故に、



防御不可(アンストッパブル)空手家(プレイヤー)



 これが龍に与えられた異名。



 結衣が息をのむ。だが、優矢が負けるはずがない。その確かな確信をもって、


「優矢!がんばれー!」


 そう声を上げた。









 優矢と龍の一進一退の攻防。



 伝統派空手VS極真空手



【変幻自在の形】VS【変則的な動き】



 その戦いはもう組手などと呼ばれる次元ではなくなった。裏武術界新人戦の決勝戦。そう言われても納得してしまうような戦いだった。


 だが、遂にその戦いに決着が着いた。



 ――パーーンッ



 という高い音と共に優矢の上段突きと龍の上段突きが同時にヒットした。


「くっ!!」「うっ!!」


 二人同時にその場に倒れる。そして、


「そこまで!!」


「この勝負引き分け!」


 少し離れた場所で見ていた二人の師匠。直承が試合終了の合図を出し、暁人が試合の結果を宣言した。


 師匠の言葉に優矢も龍も異論はない。自分たちがもう限界だということが分かっているからだ。


「はぁ、はぁ、くそ~、引き分けか~。やっぱり強いな優矢は!」


「いや、龍こそ。めちゃくちゃ強かったよ!」


 お互いを称えあい、そして試合が終わったあとの空手家の挨拶である握手を交わす。


「なぁ、優矢!この戦いの決着は新人戦の決勝戦で着けようぜ!!」


「新人戦で?」


「ああ。お互いに勝ち上がっていって決勝戦で会う!そして決着を着ける!だからそれまで負けるなよ!!」


「ああ。龍こそ!俺と戦うまで負けるなよな!!」


 そう言って拳と拳をぶつけ合う優矢と龍。先ほどの戦いを通してお互いを認め合った証だ。


 だが、そんな二人に乱入してきた者が二人いた。


「ちょっと聞き捨てならないな~。それって私たちも倒すってことだよね~、龍」


「香奈!?」


「そうそう。私たちもいることを忘れないようにね?」


「結衣」


 香奈と結衣もその会話に加わった。香奈たちの言葉に龍が


「当たり前だぜ。誰だろうと全力で戦って倒す!例え香奈や結衣が相手でもな!」


 優矢が


「ああ。全力で勝負するからな」


 手加減なし!と宣言した。そのことに嬉しくなる結衣と香奈。


「もちろん!私も手加減しないよ!」


「約束だからね!」


 そこにいたのはついさっき知り合ったとは思えない仲のいい親友の姿だった。









 その後、その日の新人戦の全試合が終了し、各自解散となった。次に行われるのは約一か月後……



 帰り道に直承は優矢と結衣に今日の感想を聞いた。


「優矢、結衣。どうだった?初めての裏武術界の試合は」


「最高でした!」


「すごく楽しかったです。」


「そうか」


「はい。まさか俺と同じ年であんなに強い空手家がいたなんて」


「ね!びっくりだよね!まさか龍くんがトリックプレーを使うなんて」


「ああ。まったく攻撃が読めなかったからな……」


「はははぁ……」


 直承としては今日の試合のことを聞いたつもりだったが二人の念頭にあるのは試合の後の戦いのようだ。


(やっぱり、ライバルの存在は大切だな。二人を裏武術界に連れてきて正解だった)


 直承がそう思ったのは正しかった。なぜならば結衣の頭の中は香奈のことでいっぱいだったからだ。


(龍くんがあんなに強いとなると、香奈ちゃんも龍くんと同じくらいの実力……私も負けてられない。もっと強く……)


 結衣は優矢に向かって直承に聞こえないくらいの声でそっと呟いた。


「ねぇ、優矢。今度ちょっと付き合ってくれないかな?」


「いいよ。ただし、俺にも付き合ってくれよ」


 どうやら考えていることは一緒らしい。そのことにおもわず笑ってしまう優矢と結衣。


 その光景を直承は不思議に思っていた……










 だが、それはすぐに解消されることになる。驚愕という形で……










 それは新人戦が終わった一週間後の練習でのことだった。


「師匠ー、ちょっといいですか?」


「うん。なんだ?」


 直承は突然、優矢に呼ばれた。


「そこでミットを持ってもらってもいいですか?」


「うん?別に構わんが……」


 訳も分からずミットを持ち、構える直承。ミットというのは長方形の形で柔らかい素材で出来ているもので空手の練習では突きや蹴りの打ち込みの際に使用される。


 練習ではよく使われるものなので別に気にすることもなく構えたが、その直後……優矢の目が変わった。



 その変化で直承も力を入れる。



 そして、優矢が鋭く踏み込んだ。右手での中段突き。


 ――パーーンッ


 という音と共に途轍もない威力が直承に襲い掛かる。しかし、ミットがその威力を吸収してくれているので後退する程ではない。


 が、次の瞬間――


「なっ!?」


 優矢の二発目の突きが炸裂する。その威力に直承が後ろに下がる。


(こ、こいつ……なんつー突きを……)


 直承が顔をしかめる。ミットを持っていたため本来なら威力が吸収され、直承に衝撃が来ることはない。のだが、ミットを持っていてなお優矢の突きの威力が伝わった。つまり、それだけ優矢の突きの威力が凄まじいということだ。


「やったね!優矢!成功だよ!」


「ああ。サンキューな結衣!」


「はは、なるほどな。二人でこの突きを編み出したってわけだな?」


「はい。龍と戦って思ったんです……龍のトリックプレーは防ぐのがかなり難しいから一撃で倒せる決定力のある攻撃技が欲しいって」


「それで、さっきの突き技になったんだな」


「はい!最初の突きのときに手を猫の手のようにして第二関節で突く。その後すぐに空手独特の手の回転を加えグッと握り、さらに重心を前にし、腰を入れてもう一度踏み込むことにより、ゼロ距離から二発目の突きを放つ……そうすることで回避不能のとんでもない威力を持った突きを食らわすことが出来るんです」


「ただし、ゼロ距離からの全力突きだからその反動が使用者に返ってくる、というところが欠点なんですけどね。だから優矢は突き終わった後に足を後ろに引き、一歩後ろに下がっているんです」


「なるほど……後ろに下がることで返ってくる突きの反動を殺しているわけか」


「はい……二つの突きで一つの技。それはとんでもない威力を持った突き。名付けて【双極の突き】……どうですか師匠?」


(こいつらは……まだあれから一週間だぞ。たったそれだけで自分に足りないものを見つけ、これだけの技を作ってものにするとはな……しかも優矢だけじゃなく、おそらく結衣も何か新しい技を身に着けているな……)


 驚愕はした。だが、同時に嬉しくなる。やはりこの二人は霧山龍と真城香奈に影響されている。


 ライバルの存在がより二人を高みに上らせている。才能が実力がとんでもない勢いで伸びている。


 ――裏武術界に連れてきて、本当に正解だった。これなら……


「なぁ、優矢、結衣。俺から新しい技を教えてやる」


「え?新しい技ですか?」


「どんな技ですか?」


「これから教えるのは武術の三大奥義と呼ばれている技だ……その技名は【龍彗湖底】」

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