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星の聖杯  作者: ゆかた
第一章・始まりの章
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第一章 十一話 運命の出会い

 ――あの時、俺たちは出会ったんだ……







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 2014年、1月。


 年が明けて数日立った日の夜。吉川直承が師範を務める道場で二人の男女が練習していた。男の子の方は、一瞬女の子と見間違うほど可愛らしい顔をしていて、名前は空野優矢。優矢の隣で練習している女の子の方は肩ぐらいまでかかる髪に、前髪の左側を可愛らしいピンクのヘアピンで止めているのが特徴で、名前は葵結衣。


 空野優矢と葵結衣は小学3年生の頃にこの道場に入った。入ってからすぐに二人は才能が開花し、一気に実力を伸ばし、その圧倒的な実力と才能で小学4年生、5年生の時の全日本少年少女空手道選手権大会を優勝した。


 そして今年も、もちろん全国大会優勝を狙っている。空手の少年少女大会は基本的に小学3、4年の部、小学5、6年の部という風に2学年ごとに分かれている。そして優矢と結衣は5年生の時にも全国大会で優勝している。つまり、

 一学年上の6年生にも勝ったということだ。


 そして、優矢と結衣は今年で6年生になる。今の優矢と結衣に敵う小学生はいないので今年も優勝確実だと思われるが、それでもしっかり練習する。



 それは、強くなりたいから……



 二人はいつも通りに練習していたが、途中で直承に声を掛けられた。


「優矢、結衣。ちょっといいか?」


「何ですか、師匠?」


「これを見てくれ」


 そう言って直承は優矢と結衣にあるものを渡す。


「これは?」


 直承から渡されたのは真っ白な封筒。手紙だということは分かるが表には何も書いていない。裏を見てみると封をしているところに『裏』という文字がある。


「開けてみろ」


 そう直承に促されて、優矢と結衣は渡された封筒を開ける。そしてその中に入っている手紙を見る。


「裏武術界?……」


 手紙を読み、優矢がそう呟く。手紙にはこう書かれていた。





『空野優矢様




 昨年度の全国大会優勝、誠におめでとうございます。空野優矢様のこの度のご活躍は我々も拝見しています。



 さて、空野優矢様は全国大会を優勝し日本一になりましたが、さらなる高みを目指しませんか?



 それを御望みならば我々は空野優矢様に星の称号「星4」と裏武術界出場資格を与えます。



 ぜひ一度考え、お返事ください。


                                          裏武術界』




「師匠、これは?」


 優矢と結衣は手紙を読み終えたが内容を理解しきれていないようだ。


「裏武術界からの招待状だ」


「あの、裏武術界って?」


「ああ、お前たちが優勝した全国大会や今まで戦ってきた大会は『表武術界』または、空手の世界だから『表空手界』と呼ばれているんだ。そして、それらとは違い『裏武術界』と呼ばれる世界がある」


「表武術界。裏武術界……」


「そうだ。表武術界の大会では危険な技を使用禁止にし、ポイントにより勝敗を決定するのに対し、裏武術界の大会は相手を戦闘不能にすることにより勝敗が決定する。危険な大会だが武術の種類や流派、年齢などは関係なく試合が行われるため、武術界の真の一番を決める大会とも言われている。どうだ?参加する気はあるか?」


「……武術界の真の一番を決める大会」


 直承からの説明、その中の「真の一番を決める」という言葉に反応する優矢と結衣。なぜならば優矢と結衣は武術の世界に強さを求めてやってきたからだ。


「師匠、俺は参加します」


「私も参加します」


 優矢と結衣は少し考えてから裏武術界に参加することを決意した。


「そうか。きっとお前たちにはいい経験になる」


 そう直承は言い、二人のもとを離れていく。練習を再開した優矢と結衣の目には期待とやる気が浮かんでいた……










 道場での練習が終了した後、直承は優矢と結衣の裏武術界参加のための書類を書いていた。


「よし!書けたな」


 優矢と結衣のプロフィールを書いた用紙を見直していると直承の表情が少し暗くなる。


「まぁ、優矢と結衣の実力なら大丈夫だとは思うがなぁ……」


 優矢と結衣に裏武術界から招待状が来た時、直承は二人に裏武術界入りを進めるかどうかを迷った。


 優矢と結衣の実力、才能はもはや表武術界の域ではない。今の表空手界で優矢と結衣に敵う空手家はいないだろう。確かに裏武術界は危険だがこのまま表武術界においていても二人のためにならない。それに裏武術界では表では手に入らないものが手に入る。自分のように。


 そう考え、直承は優矢と結衣に裏武術界を進めた。


「あの二人なら大丈夫だろう……」


 書類を見直した直承は道場を後にした。


 だが、これから約一年後。直承はこの時の選択を後悔することになる……










 2014年、4月5日、土曜日。



 優矢と結衣、そして直承は裏武術界の大会が行われる会場に来ていた。会場の中は薄暗く、重々しい雰囲気を醸し出している。


 会場となっている建物は円状の造りになっていて二階には客席があり、試合を観戦できるようになっている。入り口から見て正面には大きなスクリーンがある。


「本当に武術の種類に関係なく試合が行われるんですね」


 結衣が会場にいる武術家を見て呟く。周りを見るだけでも柔道、剣道、拳法、合気道など様々な武術家がいる。


「ああ。だが、ここにいる全員お前たちと同じように今年から裏武術界に参加する武術家だ。裏武術界に入れば誰でもまず、この『新人戦』に出場することになるからな」


 今日行われるのは、今年裏武術界に入ってきた武術家だけで行う「新人戦」だ。会場にある試合コートは全部で4つで、入り口から左側のコートが「Aコート」「Bコート」右側が「Cコート」「Dコート」となっている。正面にあるスクリーンにそれぞれの選手の対戦相手と試合をするコートが表示される。試合開始の直前に発表されるため対策をあらかじめ練ることが出来ず、直前での対応力が重要となる。


 優矢と結衣はとりあえず荷物を置くために二階の観客席に移動する。荷物を置いた時、丁度アナウンスが流れた。


『参加選手の皆さん。開会式を開始しますので集合をお願いします』


 そのアナウンスを聞き、選手たちが集合する。優矢と結衣もそれにならう。ここに集まった武術家は少なく見積もっても200人以上はいる。しかもその全員が表武術界では敵なしの実力者ばかりだ。そんな人たちと戦うのかと思うと、ワクワクした気持ちを優矢も結衣も抑えきれなくなっていた。


 試合のルール説明やら裏武術界の説明やら長い開会式を終えた後、さっそく試合が開始された。しばらくするとスクリーンに優矢の名前が表示された。



 第一回戦 第六試合 空野優矢VS井上昭 Cコート



「優矢、頑張ってね」


「おう」


 結衣の声援を受けて、優矢はコートへと向かっていく。









 コートに移動して対戦相手と対峙する優矢。相手は優矢と同じような道着を着ていて、見た目の年齢的には二十代中頃といった男性だ。優矢は一瞬自分と同じ空手家かなと思ったが、試合が開始され、構えを見た時に違うと分かった。


 相手は左手を前に出し、腰の位置まで下げ、右手は胸の位置に。左足を前に出し、つま先を少し立てる構えをとっている。


 空手の構えとは少し違う構え。この構えは……


(少林寺拳法……本当に違う武術家同士で試合するんだな)


 表武術界の大会ではありえない組み合わせだ。今まで戦ってきた相手とは違う攻撃、未知の技、技術。そんなことを考えると自然とにやけてしまう。優矢も武術家ということだろう。


 だからこそ優矢は遠慮なく、全力で相手に挑んだ。



 まず最初に動いたのは優矢だ。鋭い踏み込みで相手との距離を詰める。その踏み込みを見て相手はおもわず一歩後ろに下がる。おそらくこれ程の動きをするとは思っていなかったのだろう。年齢は一回りも違うのだから当然と言えば当然だが、この動きを見て相手は考え直した。全力を出すべき敵だと。


 優矢が右手での中段突きを繰り出す。相手はそれを左手で受け流し、掴む。掴んだ直後、相手は自分の後方に手をもっていき、優矢を引っ張る。引っ張られたことにより体勢を崩した優矢に右手での突きを食らわす。


 しかし、優矢は驚異的な反射神経で左手で受け流す。その後、左足の中段回し蹴り。相手はそれを防げずに食らってしまう。


 蹴りによりダメージを食らい、よろける。その瞬間を見逃さず優矢が追撃を仕掛ける。左手での上段突き、右手での中段突き、右足での後ろ回し蹴り。


 相手は蹴りを食らい後ろに下がるが、それを利用し優矢との距離をとり体勢を立て直す。だが、優矢はその距離を一瞬で詰める。


「くっ!!」


 相手は優矢の動きに合わせて突きを繰り出す。右手での顔面への攻撃。だが、優矢はその攻撃を相手の攻撃が届かないギリギリのところで止まり、少し左に動くことで躱した。相手の攻撃を重心や肩の動きで予測したのだ。


「なに!?」


 相手から驚愕の声が漏れる。その相手の無防備になったお腹へ優矢は全力の右手での突きを食らわす。


 ――ドーーン!!


 鈍い音と共に優矢の突きが炸裂し、相手が倒れる。


「そこまで。勝者、空野優矢」


「よし!」


 審判が宣言し、この戦いの勝者は優矢となった。









「師匠、優矢が勝ちましたよ!」


「あ、ああ。まぁ、分かってはいたけど、これは……」


 この二人の実力は異常なほどに飛び抜けているということは分かってはいた。だが、もう少し苦戦すると思っていたのだ。相手も表武術界では敵なしの武術家で優矢よりも一回りも年齢が違う。その分、武術家としての経験や知識も相手が上なのだ。にも関わらず苦なく優矢は勝利した。そのことにさすがの直承も驚きを隠せない。


 事実、優矢の試合が会わると同時にあちらこちらでざわめきが起きている。観客席で試合を見ていた者たちが驚愕しているのだ。なんせ小学6年生の子供が裏武術界の試合で相手を圧倒したのだから。



 その時、別の場所でもざわめきが起きていた。直承がそちらに目を向けると優矢と同じくらいの少年の試合が行われていた。


「あれは……」


「師匠?どうしたんですか?」


「ああ、いや、Bコートの試合が気になってな」


「Bコート?」


 結衣が優矢が試合をしていた場所より対角線のコートを見る。するとその試合の決着が着いた。少年が三十代と思われる男性を倒したのだ。しかもあっさりと、苦も無く。


「すごい……」


 その光景に結衣も驚きを現す。その少年の攻撃は見ていて綺麗で美しい攻撃だったからだ。実力もおそらく自分たちと同等くらいだろう。


 見事勝利を収めた少年は試合を終え、自分の師匠のもとへ戻る。そして、そこに居た人物を見て直承がニヤリと笑い結衣に声を掛ける。


「結衣、いくぞ」


「え?師匠?」


 結衣は訳が分からず直承について行った……









 途中で優矢と合流し、直承は先ほど見事な試合を繰り広げていた少年のもとへ向かう。


 そこに居たのは優矢と結衣と同じ年くらいの少年と少女、そしてその二人の師匠と思われる男性の三人だ。


「よう!暁人!久しぶりだな!」


「……直承!久しぶり!」


 そう言って二人は握手を交わす。直承が握手を交わした男性は少し長めの前髪が特徴的で年齢は直承と同じくらい。その隣にいるのはやんちゃな少年と思わせる顔をしている茶髪の少年とおしとやかで綺麗な黒髪の少女だ。


「師匠、知り合いなんですか?」


「ああ、俺が裏武術界に参加していたころに知り合ったんだ」


「その二人は直承の弟子か?」


「ああ、そうだ」


「そうか。初めまして。俺の名前は高坂暁人だ。よろしく」


「空野優矢です」


「葵結衣です。よろしくお願いします」


 暁人の言葉をきっかけにそれぞれ自己紹介が始まる。


「この二人は俺の弟子の……」


霧山龍(きりやまりゅう)だ。よろしくな」


「真城香奈です。よろしく」


 これが、霧山龍と真城香奈との出会いだった……

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