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星の聖杯  作者: ゆかた
第一章・始まりの章
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第一章 十話 過去の真実

「失礼します」という声は凄く透き通っている声で発せられた。そのためその声は道場全体に響いた。


 その声を聴き、その姿を見て結衣は目を見開いて固まった。



 ――え?



 結衣は信じられなかった。



 ――うそ?



 目の前に現れた人物に。


 それは優矢も同じなのだろう。なぜならその人物は、自分たちの前には二度と現れないと思っていたからだ。


 そんな優矢と結衣を見て、直承がその人物に声を掛ける。


「君は……真城香奈(ましろかな)ちゃん、だね」


「はい、お久しぶりです。直承さん」


 真城香奈。それが現れた少女の名前だ。綺麗な艶のある黒髪に優しい、おっとりとした雰囲気の顔をしている。正に、おしとやかな可愛い美少女だ。


「香奈ちゃん」


 結衣のその声はいつもの声とは違い、弱々しく、震えていた。結衣と香奈は親友同士だが、ある出来事がきっかけで疎遠となってしまっていたのだ。


「結衣ちゃん、その、久しぶりだね……」


「う、うん」


「その……あの時はごめんね」


「え?う、うん。香奈ちゃん、どうしたの?」


 結衣と香奈の会話は少々ぎこちないものだったが、結衣は香奈が道場を訪ねてきた理由を聞いた。


「うん……直承さん、優矢、結衣ちゃんたちに頼みがあります」


 香奈は優矢たちを見て、必死な顔で、


「力を貸してください!」


 そう言った。


「え?どういうことなの?」


「えっと、裏武術界で異変が起きていることは知っているよね」


「うん」


「それにはある人物が関わっているの」


「ある人物……」


「うん。その人の名前は須藤平介(すどうへいすけ)


 その名前が出た瞬間、直承と愛里の雰囲気が少し変わったような気がした。


「すどう、へいすけ?」


「そう、最近起きている異変はその須藤平介が関わっているの」


「真城香奈ちゃん、それは自分で調べたのかな。それとも……暁人と」


「師匠……?」


 会話に直承が入ってくる。その顔は真剣そのものだった。


「はい、師匠と。高坂暁人と一緒に調べました」


 高坂暁人(こうさかあきと)。真城香奈の師匠であり直承とも繋がりもある武術家だ。


「なら暁人は今どこにいるんだ。一か月ほど前から連絡が取れないんだが……」


「師匠は……師匠は一か月前から行方不明です……」


「行方不明?」


「はい。私と師匠は須藤平介が異変に関わっているということを突き止めました……あの新人戦の……龍のことは明らかにおかしいと師匠も言っていたので」


 ――新人戦。龍。


 その言葉が出た瞬間、優矢と結衣がビクッと震えた。


「私たちは須藤平介の居場所を見つけ、その周辺を探っていました。それで分かったんです。裏武術界の異変には須藤平介が関わっていること。そして、龍のことも須藤平介が起こしたということも……」


「ちょっとまて!?龍のこともって、どういうことだよ!?」


 龍のことも。という香奈の言葉に反応したのは優矢。あれは自分が起こしたこと。自分の所為なのだ。


「あれは、龍と優矢の対決は須藤平介が仕組んだことなの。そして、あの技のリスクを龍に教えずに技を教えたのは須藤平介なの。つまり、あの出来事には裏に須藤平介がいた……原因は、須藤平介」


 香奈は声を震わせていた。よく見ると手も震わせている。


「一か月前、私たちは須藤平介が企んでいることの一部を突き止めた。でも、気付かれて……逃げている最中に師匠とはぐれてしまって。それから連絡が取れないんです。もしかしたら、もう……」


「……っ!!」


 その言葉に直承が息をのむ。おそらく香奈の言葉の先を察したのだろう。


「須藤平介の企みは『星崩し』です」


「星崩し?」


 優矢たちは「星崩し」という言葉を聞いていないから、困惑した表情を浮かべていたが、愛里は神妙な顔をしていた。


「愛里ちゃん?」


 それに気づいた彩芽が愛里に声を掛ける。その愛里は直承の方を見る。そして、直承が頷くのを見て、口を開いた。


「星崩しっていうのは須藤平介が企画した大会だよ。裏武術界の星4、星5保持者たちで行われ、各道場でチームを組んで戦うチーム戦。昨日の五芒戦で発表された」


「その星崩しに優勝すればそのチームは『星の聖杯戦』に出場することが出来る」


「……っ!!」


 愛里の説明から続いた直承の言葉に全員が息をのむ。それだけ「星の聖杯戦」に出れるということが凄まじいことなのだ。


「その星崩しで須藤平介が何か企んでいる。ということが分かったんです。残念ながらその詳細は分かりませんが……星崩しが普通の大会ではないことは確かです」


 香奈の言葉にその場にいた全員が真剣な表情になる。


「龍のこと……そしてそのことを調べてくれてた師匠……その想いを無駄にしたくない!!須藤平介をこれ以上野放しにはしておけない!!」


 香奈の声は悲痛の叫びのように聞こえた。それだけ必死なのだ。


「お願いします!!力を。須藤平介の企みを阻止する力を貸してください!!!……もう、私一人の力じゃ……」


 香奈が頭を下げてお願いをする。勝手なことを言っているのは百も承知だ。死が伴うかもしれない戦いに参加してくれと言っているようなものなのだから。だが、香奈も限界なのだ。もう、香奈一人ではどうすることも出来ない。


「香奈ちゃん……」


 その姿に結衣は泣きそうになる。香奈は今まで必死に調べていたのだ。あの事件のことを。自分たちが逃げてしまったあの出来事を。本当なら香奈が一番辛いはずなのに。


「うん、いいよ。私でよければ力を貸すよ」


「結衣ちゃん……いいの?」


「うん。だって龍のことは私たちの所為でもあるから……ねぇ、優矢」


「香奈……その、俺で……俺たちでいいのか?」


「うん。お願い。力を貸して」


「分かった……師匠いいですよね」


 優矢が直承に呼びかける。直承の方でも、もう答えが出ている。優矢と結衣は直承にとって大切な弟子だ。そして、香奈の師匠である高坂暁人は直承の友でもある。ならば答えは一つだ。


「ああ、俺も協力するよ」


「じゃぁ、私も参加しようかな」


 そう言ったのは愛里だ。


「え?愛里ちゃんも?」


「だって優矢と結衣は私にとって大切な後輩だからね」


 そう愛里は笑顔で言った。この人はいつだってそうだ。いつも自分たちのことを第一に考えてくれている。


「ありがとう」


 結衣もその優しさに笑顔で答えた。


「じゃぁ、私も」


「え?彩芽ちゃんも」


「私も参加ね」


「わ、私も参加します。先輩の力になります」


「じゃ、俺たちもだな」


「ああ。決まりだな」


 彩芽の後に、穂未が。輝が。春弘が。秋弘が。その場にいた全員が参加を決めた。


「ちょっと待って!?皆ホントにいいの?」


「いいって何が?」


「だってこのことは皆とは関係ないだろ」


 優矢が言ったように皆には関係ない。関係あるのは優矢と結衣なのだ。それなのに。


「関係あるよ」


「だって俺たちは友達だろ。仲間だろ」


「っ!!」


「だったら関係あるよ」


 その言葉に。その想いに結衣はまた泣きそうになった。そしてそんな仲間たちに精一杯の感謝を伝えた。


「皆……ありがとう!」


「皆さん、ありがとうございます!」


 香奈も感謝の言葉を伝えた。






「さて星崩しの参加が決まったということで、いろいろ作戦を考えないとな」


「日程とか場所とか決まっているんですか?」


「いや、まだ決まっていない。昨日の今日だしな。もうしばらくすると裏武術界が正式に書類を送ってくるはずだ」


「じゃぁ、それまでにしっかり練習しておかないとね」


「うん……香奈ちゃんはどうする?」


「え?わ、私?」


「うん。もし、よかったらね。その、私たちと一緒に練習しない?」


「え?」


 やはり結衣と香奈の会話は少しぎこちない。結衣と香奈が疎遠となってしまってから一年半以上の月日が経過している。その時間が二人を離れさせてしまったのだ。しかし、結衣はまた香奈と前の関係に戻りたいと思っている。


 二度と戻れない。そう思っていたからこうして香奈と話せているのが嬉しいし、一緒に練習したいと思っているのだ。


「迷惑じゃないなら。いいかな?」


「うん。もちろんだよ」


「よし。話しも終わったことだし、練習を再開するぞ!香奈ちゃんも遠慮なく練習してくれ」


「はい!」


 直承の言葉により練習が再開される。香奈を交えての練習。異例な練習になると思いきやそうでもない。


 なぜなら香奈の武術も空手だからだ。しかし、表武術界(空手界)の試合では結衣と香奈は戦ったことはない。それは所属している流派、団体が違うからだ。



 ――空手道

 琉球王国時代の沖縄で発症した拳や足などによる打撃技を主体とする武術である。大正時代に沖縄県から日本各地に広まり、第二次世界大戦後は世界に広まった。また、日本に広く広まる過程で様々な流派に分かれていった。



 空手の団体はたくさんあるが代表的なのは次の二つ。


 一つは、伝統派空手と呼ばれる四大流派(日本空手協会〈松濤館流(しょうとうかんりゅう)〉、剛柔会〈剛柔流(ごうじゅうりゅう)〉、糸東会〈糸東流(しとうりゅう)〉、和道会〈和道流(わどうりゅう)〉〉を統括する「全日本空手道連盟」(全空連またはJKFと呼ばれる)


 そしてもう一つが、1964年に創立された極真空手(きょくしんからて)と呼ばれる「極真会館(きょくしんかいかん)」(正式名称は国際空手道連盟極真会館)である。


 この二つの団体の主な違いは試合のルールである。


 伝統派空手は「防具付き空手」と呼ばれる相手に攻撃(主に上段突き)を直接当てない寸止めルールを採用している。

 一方、極真空手は「フルコンタクト空手」(実践空手)と呼ばれる対戦相手に技をダイレクトに当て直接攻撃によるダメージで勝負を決めるルールを採用している。


 また、防具付き空手は下段(腰から下)への攻撃を禁止している(ただし「足払い」「足掛け」は禁止されていない)が、フルコンタクト空手は下段への攻撃はありで寝技、関節技、絞め技を採用しているところもある。



 このように伝統派空手と極真空手は団体や試合のルールが違うため同じ空手でも試合は別に行われている。そして結衣は伝統派空手に属し、香奈は極真空手に属している。そのため結衣と香奈は表武術界の大会では戦ったことはないのだ。


 しかし、流派や団体、試合ルールが違っても技や攻撃は同じの空手なのだ。そのため練習には何ら障害はない。むしろ普段と違う相手と戦えていい練習になっている。香奈は結衣だけではなく、彩芽や穂未、輝などの女子メンバーを中心に仲良くなり、楽しい練習となった……






 時間は午後9時ちょうど、練習が終わり帰ろうとしたとき優矢と結衣は穂未に呼び止められた。


「優矢、結衣ちゃん、ちょっといい?」


「なに?」「うん?」


「話しがあるの」


 そう言う穂未の顔は真剣そのものだった。その顔を見て優矢と結衣は穂未の後に続いた。






 穂未の後に続くとそこには愛里、彩芽、輝、春弘、秋弘がいた。


「皆、どうしたんだよ」


「聞きに来たんだよ」


「聞きに?」


「うん。優矢と結衣ちゃんが空手を辞めた理由。それを話してほしいの」


 彩芽がそう言った瞬間、優矢と結衣の身体がビクッと震えた。


「愛里ちゃんと彩芽は知ってるんじゃないのか?」


「うん、少しはね……でも、優矢たちから直接聞きたいの。辛いのは分かってるけど、でも、教えてほしい。これから一緒に戦っていく仲間として」


「……」


 その言葉を聞いて優矢と結衣は黙り込む。それだけ話したくないという気持ちと話しをしなきゃという気持ちが交差しているのだ。


「先輩、私も教えてほしいです」


「香奈ちゃんのセリフから優矢たちが参加した新人戦と関係あるんだよね。それに結衣ちゃんと香奈ちゃんとの会話とか……何があったの?」


「そうだぜ優矢。話してくれないか」


 優矢と結衣は全員を見回す。輝も穂未も春弘も秋弘も。その顔はからかっている顔でもふざけている顔でもない。真剣な顔だ。


 ここにいる皆は死の危険を犯してまで星崩しに参加してくれる。自分たちの友達だから。仲間だからという理由で。


 なら、自分たちはその想いに応えなければいけない。



 例えそれで軽蔑されたとしても。離れられたとしても。



「分かった。話すよ」


 そう言い優矢は話し出した。それは、優矢と結衣が小学六年生の頃に参加した裏武術界の新人戦のこと。最高の親友(ライバル)との出会いのこと……






 優矢が過去の出来事を話している時、香奈は直承に声を掛けていた。


「直承さん、少しいいですか?」


「うん?なんだ?」


「話しと、渡したいものがあるんです」


 そう言い香奈は直承と話しをしだした……

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