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星の聖杯  作者: ゆかた
第一章・始まりの章
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プロローグ

 2014年12月14日、寒さが増し外に出る者が少ない時間帯の夜、とある建物にて武術の試合が行われていた。その試合は裏武術界の試合。


 現代のスポーツとしての武術界を一部では「表武術界」と呼んでいる。その表武術界とは対照的にスポーツとしてではなく戦闘としての武術に趣をおいている組織、団体のことを「裏武術界」という。


 これはそんな裏武術界の試合で、その年に裏武術界に入ってきた者のみで戦う「新人戦」、その決勝戦が行われていた。その場の雰囲気は重々しく裏武術界の関係者、選手が試合が始まるのを待っていた。


 決勝戦の舞台に立っているのは身長145㎝前後の12歳の少年。この場の雰囲気に似合わない、かわいらしい顔立ちの少年が着ているのは道着。その道着は少し硬めの素材で出来ているため空手家だろうと思われる。


 その少年の対戦相手は見た目は30代後半、身長175㎝前後の男性。その男性が着ている道着は少年が着ている物よりも柔らかい素材でできていた。そのため柔道家だと伺える。この二人が新人戦、決勝戦に残った武術家だ。


 裏武術界では年齢や武術の種類、流派などには関係なく試合が行われる。だからこそ裏武術界は聖地とされているのだ。武術の世界の真の一番を決める大会。武術家だからこそ、強さに魅せられた者だからこそ、この裏武術界に憧れを抱いているのだ。


 そんな裏武術界の新人戦決勝戦、12歳の少年と30代の男性との戦い。身長差は20㎝はある。この二人を見て普通は少年が負けると考えるだろう。しかし、その場にいる者の中にそう考えるものは少なかった。


 そして、その試合の審判が前へ出てくる。


「それではこれより新人戦、決勝戦を開始する」


 その言葉により決勝戦を戦う両者が動いた。裏武術界の試合に始めの合図はない。試合の開始が認めらた瞬間に戦いが始まるのだ。


 柔道家の男性が少年へと迫ろうとする。少年と組合い、身長と体重の差を利用し投げ技を決めるつもりだ。しかし、技を繰り出したのは少年のほうが早かった。

 試合開始の寸前に自身の体重の全てを右足へと移動させ左足を少し浮かせる。さらに、体を右方向に1㎝傾けて右手を少しだけ後ろに引く。そうすることにより踏み込む速度を速める重心移動のテクニック。それにより柔道家の男性の懐に瞬時に入ったのだ。そして、ドスッという鈍い音と共に少年の右手の突き技が炸裂する。


 しかし男性は倒れない。体格の差がありすぎるのだ。そして今度は男性が技をかけようと少年に手を伸ばそうとする。


 だが、男性が少年を技にかけるより早く少年のゼロ距離からの二発目の右手の突きが炸裂する。一発目の突き技の手を猫の手のようにし、手の第二関節で突く。その後、ゼロ距離から今度は手をグーにしてもう一度突く。突くときに手を左方向に回転させ、さらに重心を前に移動させてもう一度踏み込むことによりさらに威力をブーストさせる右手の二連続突き。少年が最も得意としている突き技だ。


 ゼロ距離からの全力の突きに柔道家の男性が吹っ飛ぶ。ドンッという床に叩きつけられる音と共に男性が床を転がり気を失う。

 少年はというとゼロ距離からの突きの衝撃を抑えるために突いた直後、前足を一歩後ろに引いたため右手を突いたまま、右足が前に、だが、重心は後ろに引いた左足にかかっているという特殊な体勢になっていた。そうしないとこの強力な突きの衝撃を吸収できないからだ。


 会場が静まり返る。この場にいたほとんどの者が予想していたとはいえ少年の圧倒的な力に何も言えなくなっていた。



 試合時間、僅か5秒。



 たった5秒で試合を決め、武術家が憧れた裏武術界の新人戦の頂点にこの少年、空野優矢(そらのゆうや)は立ったのだ。


 圧倒的。その言葉しか出てこなかった。過去、12歳で新人戦を優勝した武術家はいない。最年少での優勝だ。そして、決勝戦で魅せた実力。その実力は正に新人戦の王者に相応しいものだった。故に、


「新人王……」


 誰かがそう口にした。この試合以降この少年、空野優矢は裏武術界で「新人王」という異名で呼ばれることになる。


 試合が終わったというのに審判を含めて多数の者が動けなくなっていた。しかし、試合を観客席で見ていた金髪のロングヘアの女性や何名かの者は少年を興味深く見ていた。



 そこでようやく審判が口を開く。


「そこまで。新人戦優勝は空野優矢とする。そして裏武術界星5の称号を獲得」


 これまで固まっていた者が次々に少年へと拍手を送る。優勝と星5の称号の獲得を祝して。


「あの少年も、この〈呪われし称号〉の5を手にしたか……」


 と、誰かが小声で口にした。


 武術の世界には「星の称号」といわれる武術家の強さを示す称号が存在する。星0から星6まで存在し、星0から星3までが表武術界の称号、星4から星6までが裏武術界の称号。そして、星4以上は一部では「呪われし称号」と言われている。


 この少年、空野優矢はこの新人戦で裏武術界の星5の称号を獲得。つまり、たった12歳で裏武術界の最高星の一つ手前の称号を獲得したのだ。


 だが、少年は新人戦を優勝し、星5の称号を手に入れたというのに喜んでいる様子はない。その顔は悲しみの顔をしていた。




 2014年に行われた裏武術界新人戦は空野優矢の優勝で幕を閉じた。




 しかし、空野優矢は裏武術界新人戦を優勝した後、武術の世界から姿を消してしまった。






 それから一年と半年後……


 2016年6月、中学二年生となった空野優矢は中学校に行くための道を歩いていた。この世界に希望はない、というような目をして……

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