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レクイエム ~「僕」の青春は霊能力がつきまとう~  作者: 天乃川シン
小学生編 1
7/60

潰れた鉄工所 1 霊能力を持った僕

小学校三年生の頃の話しだ。

僕はその当時、学校に馴染めずにいた。

特にいじめられていたとか、無視されていたとか

そんな事は一切ない。

むしろクラスメート達は僕の事を好きでいてくれたと思う。

先生もよく僕の心配をしてくれた。

でも僕はクラスメートや先生と距離を置いていた。

小学校に入学して間もなく父が死に、

一年後には母が別の男と結婚した。

僕は納得ができなかった。

日々悶々とした気持ちを抱えていた。

僕はいつしか、人が嫌いになっていた。

家庭環境に対しての反抗の一つの現れ方だったのだろう。

だから僕はクラスメートや先生と仲良くしなかった。


ある秋の午後、冷たい風が強く吹く日だった。

僕は独り、寒さに耐えながら学校から家に向かってじっと歩いていた。

その日、僕はなるべく周囲を見ないようにする為、下を向き足元に眼を遣っていた。


何かが見えるのが分かっていたからだ。


空気が張り詰め、神経が過敏になっているような時は、

必ず「イやなもの」が見えてしまうような体質になっていた。


前方から誰かが歩いて来る。

見ようとしていないので、はっきりとした姿は分からないが、

おそらくスーツ姿の若いOLだ。

OLは急いでいるのか、革靴をコツコツとせわしなく鳴らしながら近づいて来る。

風で煽られるのか、片手は長い髪の毛を抑えているように見える。


「・・・おそらく、この人はアレに違いない」


僕は、このOLは「アレ」だと断定した。

僕はその頃になると、そう、「アレ」=「霊」が目に見えるようになっていたのだ。


でも、何かがオカシイ。

普段感じるような「あの肌触り」がしない。

いや、するのだけれどオブラートに包まれているような不思議な感覚。


僕は、自分の勘違いかもしれないと思い直した。

いつもの「肌ざわり」と違う。

いや、でも「生きている人間」では絶対にない。


そんな事を思い巡らしていると、突然誰かに肩を叩かれた。

僕は小さく悲鳴を上げながら顔を上げた。


「すいません! バス停はどこですか?」


肩を叩いたのは前方から歩いて来たOLだった。


「君、この辺にバス停はないかな?」


OLは片手で長い髪の毛を押さえ、少し慌てたような口調で僕に尋ねてきた。


霊じゃなかった…

僕は安心し、バス停の場所を説明しようとした。

しかし、あるものを見た僕は悲鳴を上げそうになった。


女性の向こう側から、髪の毛がぐしょりと濡れた白髪頭の

老婆の顔が、にゅっと現れたからだ。

老婆は僕の顔を見ながらニタニタと気味の悪い笑みを

浮かべている。


「バス停、分かる?」


OLが少しイラついた様子で僕に再度尋ねる。

僕はバス停の方角を指さした。


「あの角を曲がったところ…」


僕は、叫び出しそうになるのを必死で抑え、何とかOLに説明した。


「ありがと!」


OLは僕に背を向け走り出した。

そのOLの背中を見た僕は、思わず悲鳴を上げてしまった。

OLの背中には、あの老婆がOLの背中を抱え込むような

恰好でしがみついていたからだ。

ずるずると落ちそうになる身体を、何度も両腕で上に持っていこうともがきながら。

恐怖で目が離せなくなった僕に気付いていたのか、

老婆はくるりと振り返ると、


「恐ろしいのか!」


と濁った気味の悪い声で小馬鹿にするように、からかうように僕に言った。

そしてケタケタと大きな声で笑い始めた。

老婆は気味の悪い声で笑いながら、OLと共に角を曲がって行ってしまった。

OLが走って行った路面には、老婆のものであろう、薄汚い水のようなものが

点々と残されていた・・・。


・・・あぁ、今思えばこれは序章に過ぎなかったのだと思う。

この後、母親と喧嘩をしてしまった事も、すべてあの潰れた鉄工所に行くよう

「向こう側の住人達」に仕組まれていた事なのかもしれない。







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