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レクイエム ~「僕」の青春は霊能力がつきまとう~  作者: 天乃川シン
中学生編 2
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コックリさん 15 本物の女子高生の霊 彼女をあざむく僕

僕はユリカ様を追いかける為にファストフード店を飛び出した。……しかし、ファストフード店の駐車場や眼の前の幹線道路にはユリカ様の姿はおろか、ナカムーや忍者の姿も見当たらなかった。ユリカ様は中学校の部室に向かって走って行ってしまったのだろう。ナカムーと忍者の二人はそんなユリカ様を追いかけて行ってしまったのだ。


「……くっそ、全くもう」


僕は吐き捨てるように呟くと、僕も彼らと同じように、そこから歩いて20分程度の場所にある中学校に向けて走り始めた。


僕は陽が落ちていつの間にか暗くなった道を走りながら、ユリカ様に対して取った僕の態度や僕の発した言葉について考えた。確かにユリカ様のコックリさんについての計画は、何だかよく分からない代物で、ただただ徒に危険を招くものでしかなかった。しかし、そんなユリカ様の気持ちを僕は慮ってあげるべきだった。ユリカ様は焦っているのだ。ユリカ様は女子高生の霊を呼び出し、自分のお兄さんの精神を錯乱させていると思われる霊についての情報を得たいと思っているのだ。いや、女子高生の霊をそんな簡単に扱う事なんてできない。相手は霊なのだ。実体があるようで実体のない超自然的な存在なのだ。でも、そんな事はユリカ様も分かっているのだ、要するにユリカ様はそれくらいお兄さんの事を救いたいと思っているのだ。僕はそんな事にすら想像が及ばず、ただただユリカ様を否定しただけだった。ある意味、ユリカ様の気持ちを一番理解できるのは僕じゃないか。幼い頃からずっと霊に襲われてきた僕こそ、霊に絡んだ問題で苦しんでいるユリカ様の気持ちを分かってあげられる筈だったのだ。


僕は道を曲がると川沿いの遊歩道を走り始めた。この遊歩道を真っすぐ走り続けると中学校に辿り着くからだ。しかし、しばらく遊歩道を走った僕は、「なんだかおかしいな」と疑問を感じ始めた。以前、僕は陸上部に所属し長距離走を専門にしていた。そんな僕がなぜユリカ様やナカムー、忍者に追いつけないのだろうか? 彼らは別のルートで中学校に向かっているのだろうか? 確かにその可能性もある。この遊歩道は中学校までの最短ルートになるのだが、こんな暗い遊歩道を通らなくても中学校に辿り着けるルートは他にも存在している。……僕は何やらイヤな予感がしてきた。もしかしたら僕は、この暗い遊歩道にやって来るよう、何者かに仕向けられていたのではないだろうかと考え始めた。


そんな事を考え始めると、突然周囲の空気が変わったのを感じた。僕はびくりとして足を止めた。……張り詰めた緊張感、それは霊が現れる時に感じる空気だった。「やられた!」と僕は思った。僕はこの遊歩道にやって来るよう何者かに仕向けられていて、それにまんまと引っ掛かったに違いないのだ。僕の額にじわりと汗がにじむのを感じた。……周囲に誰か居る。人間ではない、これは霊だ。すると10メートル程先に誰かが立っている姿が眼に入った。暗くてよく見えないが、その人間とは違う禍々しい雰囲気を感知した僕は思った。――僕の前に、「アイツ」が現れたのだと。


わたりさん、こんばんは」


何者かが僕の名前を呼んだ。その声は若い女の人の声だった。僕の名前を知っている若い女の霊。……それはあの女子高生の霊以外には考えられなかった。


すると女子高生の霊らしき姿が消えた。――と、思ったら、すぐ眼の前にその何者かが瞬間移動した。


「あなたと二人で話したかったの」


僕は思わず叫び声を上げて飛び退いた。僕の眼の前に立つその人……それはユリカ様が見せてくれた写メと同じ、長い黒髪に切れ長の眼、紺色のブレザーに白いYシャツ――間違いなかった、僕の眼の前に現れたのはユリカ様にしつこく付きまとっていたという、あの女子高生の霊だったのだ。


「初めまして、そう言って良いわね」


女子高生の霊は、切れ長の眼で僕の顔を見つめニヤリと笑った。……確かに初めましてと言ってもおかしくはなかった。この女子高生の霊が僕と忍者を襲った際は、ナカムーに取り憑いていたので直接姿は見ていなかったからだ。


「そんなに構えなくてもいいわ、私はあなたと友達になりたいだけ」


女子高生の霊は口元に手をあて「ふふふ」と笑った。


「……友達?」


僕は女子高生の霊に聞き返した。


「どうして、どうして僕があなたと友達になる必要があるんですか?」


僕は女子高生の霊を睨みつけた。すると女子高生の霊は噴き出すようにして笑った。


「それを今からご説明するんじゃない。そんなに私の事を邪険にしないで」


「ユリカ様を殺すというんですか?」


僕は女子高生の霊を睨みつけたまま尋ねた。


「あなたはずっとユリカ様に付きまとっている、一体どうして?」


「ちょっと、そんなに熱くならないでわたりさん、あなた何か勘違いしていません?」


「……勘違い?」


「そう、勘違い」


女子高生の霊は僕の眼をじっと見つめた。僕は訝しく思った。女子高生の霊はずっとユリカ様に付きまとっていた。なぜだかわからないが、人間に触れる事のできない女子高生の霊は、ユリカ様の前に何度も姿を現す事で恐怖を与え、精神を破壊して自殺に追い込もうとでもしていたに違いないのだ。しかしユリカ様はあの性格だ、女子高生の霊の作戦は上手くいかなかったのだろう。ナカムーに取り憑いて、僕や忍者と協力して物理的にユリカ様を殺そうとした事からも、この女子高生の霊は絶対にユリカ様の命を狙っている、ユリカ様の事を殺そうとしている。僕が「勘違い」などしているワケがないのだ。


わたりさん、あなたは私がユリカ様を殺そうとしていると思っているんでしょ?」


女子高生の霊は薄笑いを浮かべた。


「思うも何も、あなたの行動がそれを物語っています」


「違うわ、私は彼女を救いたいの」


「一体、どういう事ですか?」


「彼女は死ぬ事で、もっと素晴らしい存在になれるのよ」


女子高生の霊はそう言うと両手を広げて天を仰いだ。


「あの聡明でお美しい『あのお方』のもとに逝く事ができるのだから! まぁ、なんて素晴らしい事なんでしょう。ユリカ様は私と一緒、『あのお方』に選ばれたのですから!」


女子高生の霊は何やら感動したようにそう叫ぶと、両手でひっしと自分の身体を抱きしめた。


僕は怖気を震った。この女子高生の霊の様子は狂っている。何やら新興宗教の狂信的な信者が、盲目的にイカレタ教祖に帰依しているようにしか見えなかったからだ。しかし、この女子高生の霊がなぜユリカ様を殺そうとしているのかという理由の一端が見えたような気がした。女子高生の霊はおそらく、「あのお方」という者の命令でユリカ様を殺そうとしているのだと。


「さぁ、あなたもユリカ様の為を思うなら、私に協力してユリカ様の命を奪うのよ!」


女子高生の霊は歓喜に打ち震えるようにしながら、僕の顔なんて見ずに何処か遠いところを見ながら叫んだ。その姿は完全に常軌を逸していた。僕はそういう意味でも女子高生の霊に対して恐怖を感じざるを得なかった。


「あなたの言う『あのお方』の元に行けば、ユリカ様は幸せになれるんですか?」


僕は、再び天を仰ぐ女子高生の横顔に向かって尋ねた。


「え?」


女子高生の霊は驚いたようにして僕の顔を見た。


「ユリカ様は死ぬことで幸せになれるんですか?」


僕はじっと女子高生の霊を見つめた。


「……あなた、私の言っている事を理解してくれるの?」


女子高生の霊は呆けたような表情を僕に向けた。


「僕だって霊感を持った人間です」


僕はじっと女子高生の霊を見つめて答えた。


「僕だって、半分はあなた達と同じ世界に住んでいると言っても良い。だから、僕はあなたの考えている事が分からなくないような気がするんだ」


「本当にそう思って、おっしゃっているの?」


女子高生の霊はわなわなと震えるようにして僕の顔を覗き込んだ。


「『あのお方』はあちらの世界でも名の知れたお方。あなたにもその偉大さが分かるとおっしゃるの?」


「うん、あなたのような賢そうな女性がそこまで言うんだ、きっと素晴らしい方に違いない」


そう言うと僕は、女子高生の霊にニコリと笑顔を向けた。


「――まぁ、なんて素晴らしいのかしら!」


女子高生の霊はキリスト教の信者がお祈りをする時のように両手を組んで跪くと、眼を閉じてブツブツと何やら喋り始めた。その顔には喜びが溢れているようだった。


僕はその時決めたのだ。女子高生の霊に協力して、ユリカ様を殺すんだ――というフリをしてチャンスを狙うのだと。女子高生の霊は完全に狂っている。そして彼女の言う「あのお方」というのも何者なのかは分からないが、そいつもおそらく狂っている。そんなヤツらにユリカ様は付きまとわれているんだ。これはただ事ではない。だから僕はこの女子高生の霊に協力するフリをしてチャンスを狙い、隙あらばやってやろうと思っていたのだ。徹底的にやってやろうと思っていたのだ。


この女子高生の霊を、徹底的に叩き潰してやろうと……。















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