年少の友人の死に際して
私には年少の友人がいた。
彼が私のことを友人と思っていたかどうかは分からないが、私は彼のことを友人だったと思っている。
彼とは一回り以上も年が離れていたが、私は彼を尊敬していた。
彼は私とは違い口数が少なかったが、その言葉には血が通っているように思えた。
彼は心の中で常に真剣に物事を考えていたのだ。
彼は真剣に生きていたのだ。
そんな私の友人が先日亡くなった。
事故だったという。
昼間歩道を歩いていた彼は猛スピードで走ってきた乗用車に跳ねられてしまったそうだ。
即死だったという。
最近彼とは疎遠になりなかなか会う機会がなかったので、私はその訃報に接し驚き落胆した。
もう彼と話しをすることは出来ないのだ。
もう二度と……。
私はその日の夜、家で一人酒を飲みながら彼のことを想った。
私は彼が事故で死んだという事実をどうしても受け入れられなかった。
次の日の夜も私は家で一人酒を飲みながら彼のことを想った。
私は釈然としなかった。
何が釈然としないのか?
彼は死んだのだ。
それははっきりしているではないか?
しかし私はやはり釈然としなかった。
釈然としないことに釈然としなかった私はしばらく考え込んだ。
すると何が釈然としないのかが分かった。
それは彼が死んだという「結果」ではなく、事故で死んだという「原因」だった。
彼は事故で死んだのではない。
おそらく自殺をしたのだ。
自ら命を絶ったのだ。
彼の死はそれしかあり得ない。
そう考えれば全く腑に落ちた。
彼は真剣な男だったが心の奥に闇を抱えていた男でもあった。
その心の闇が――闇の正体でもある「死への願い」があの出来事を招いたのだ。
現実的には事故死であったが、彼の精神的には自殺だったのだ。
彼は時々、自身の体験した奇妙な出来事について私に話してくれることがあった。
それはどれも、いわゆる心霊現象というべきものだった。
私は幽霊や心霊だというものをまるで信じてはいない。
しかし彼の体験には彼の心の闇が反映しているような気がした為、私はいつだって真剣に彼の話しを聞いたものだった。
もしかすると私は、きっと彼が若くして亡くなることをどこかで予想していたのかもしれない。
こうして彼についての話しを誰かにすることも考えていたのかもしれない。
彼の通夜は三日後だ。
私はそれまでに彼の話してくれた心霊現象についての話しを彼が話してくれたように話そうと思う。
なぜそうしようとしているのかは自分でもよく分からない。
でもこのまま彼の死に顔を見たくはないのだ。
きっと私は、彼の心霊体験を話しながら彼のことを考えてみたいのだと思う。
うん、そうだ。
では彼の体験した出来事を語っていこう。
この物語は基本フィクションですが、実際に体験した話しも織り交ぜています。
「私」は作者のことではありません。