とある病み人の最期の詩
元の庇護者を打ち倒した彼の者は、安息の地を求め彷徨う。
何処までも彷徨う。
南から北へ。北から東へ。東から西へ。西から南へ。
ありとあらゆる所を彷徨う。
紅に染まった手に満足しながら。
今は、ただ流離い行く。
今までの感情を上書きするかのように。
何時しか、彼の者は涙を流していた。
いつからか流す事の無かった、流していなかった涙だ。
紅に染まった手を洗い流すかのように、涙は流れる。
ただひたすらに涙は流れ続けた。
流れた紅と涙は混じり合う。
元の庇護者と彼の者の、あり得たかも知れない交わり。
彼の者が手を紅に染めなかったかも知れない未来。
それを想うがごとく。
しかし、
詩い、誓い、行動を起こしたのは彼の者。
故に、彼の者は涙を流しながらも紡ぐのだ。
復讐の後に訪れる甘美なる感情と、
その後に訪れる苦く己の心が己を断罪する痛みの詩を。
さて、“私”の紡いできた詩の終わりはすぐそこに。
黒き衣を身に纏い、罪と認識しつつも詩うは復讐。
子が親を殺す詩なり。
例え、涙により紅が洗い流されようとも、
“私”が親を殺した事には変わらぬ。
時は来たのである。
始めよう。
長きに渡り続いたこの“私”による意識を終わりにする作業を。
これが何を意味するか。
“私”は法の裁きに依る消失は良しとしない。
故に、自らこの世を立ち去るのだ。
一時は安息の地を求め彷徨った。
されど、最早“私”に安息の地は無い。
“私”は永劫、消える事の無い罪を背負い行く。
さあ、さらばだ。
詩い、誓う事により決意し行動を起こし、最期は消え行くのだ。
病み人は消え去り、後に残るは自ら世を去る罪人なり。
……最期に一つだけ残して逝こう。
それはこの詩だ。
ここまで綴った詩。
願わくば“私”のようにならぬ事を祈る。
かくて、長きに渡り続いた病み人の詩は終焉を告げる。
病み人は世を去った。
一つの詩を残して。
題は「とある希望の詩」だったという。
花は散り 実る生命や 時過ぎて 産まれ行く者 祝福されん
祝福の 鐘の音告げる 輪廻の輪 悲しき命 新たなる時
刻み行く 新たな命 願わくば 健やかに生き 芽吹けと祈る
神ならぬ 徒人の身と 思い馳せ
……忘れてはいけないよ。
これは“私”に起こり得た一つの未来だったのだから。
読んで下さってありがとうございました。




