8話
お風呂から上がったエレナは、脱衣所を一糸纏わぬ姿でウロウロしていた。
決して変な性癖があるわけではない。ただ単に着る服がなかったのだ。
せっかく綺麗になったというのに、血が付着したボロボロな麻服を着たくはない。これを着るぐらいならタオルを身体中に巻きつけておく方がマシである。
こう見えても綺麗好きなのだ。だから、奴隷生活はかなり精神的にきた。トイレは付いていたのだが、臭いがかなりきつかった。
迷った挙句、エレナは白狼に変化することに決める。白狼の姿なら毛皮があるので衣服を気にせずに済む。
『血の契約において、我に力をかしたまえ』
(……記憶を取り戻す前はよかったけど、かなり厨二病くさい台詞よね……)
恥ずかしく思いながらもそう呟くと、眩い光がエレナの身体を包み込み、髪色と同じ銀色の毛を持った狼の姿へと変化した。
「ふふ、やっぱりモフモフって最高だわ~♪」
エレナは久しぶりのモフモフを堪能する。エレナが白狼に変身できることは、エレナの両親とリリーしか知らない。初めて白狼になったときは、三人とも顎が外れそうなぐらい口をだらしなく開けていた。
ちなみにハルトから貰ったネックレスは、チェーンが魔力で造られており、大きさによって伸び縮みするので、狼に変身しても首が閉まる危険性はない。
今はモフモフの毛にすっぽりと埋もれている。
狼に変身したエレナは、家の中を探検し始めた。人さまの家だと分かっているけれど、かなり楽しい。
探検していると、重々しいオーラを放つ扉の前に行き着いた。
「……き、気になる……」
いかにも怪しい魔法陣が刻まれた扉のドアノブに手をかける。
(罠とかないよね……)
ガチャリ。
鍵がかかっていると思ったが、いとも簡単に開いた。
恐る恐る部屋の中に足を踏み入れてみると、そこは黒で統一されており、部屋の中央には大きなベットが置かれていた。
どうやら、ここは寝室のようだ。
エレナはソロリソロリとベットに近寄り、ベットの柔らかさを確かめた。
「~~ッ!?」
エレナ好みの柔らかさが手の感触を通して伝わってくる。堪らなくなったエレナはそのままベットにダイブした。
「久しぶりのベットだ~」
ずっと硬い床の上で寝ていたエレナは、ベット特有のの感触に思わず感動を覚える。
自分をフワリと受け止めてくれた布団の中にすっぽりとおさまり、そっと目を閉じた。布団からはどこか懐かしい匂いがする。
(スンスン……ふふ、ハルトの匂いに似ている。まるでハルトに抱きしめられているみたい……)
「……少しぐらい眠ってしまってもいいわよね……」
そのままエレナは深い眠りへと堕ちっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋の扉を誰かがガチャリと開ける。
「……」
入ってきた人物は、自分のベットでスヤスヤと寝る狼を無言で見つめた。
足音を立てないようベットに近付き、狼の毛をそっと撫でた。サラリと毛が揺れる。
「クゥ……」
撫でられた狼が寝言を零す。が、起きる気配はない。どうやら相当眠りが深いようだ。
「フッ……」
狼の様子を眺めていた人物の口元に笑みが溢れる。
「……昔と変わらず、気持ちよさそうに寝る……」
もう一度狼に触れ、その鼻先にそっと口付けを落とした。
「……迎えに行けなくてすまない、エレナ……今度こそ、エレナ俺のものにする……」
その声が、部屋中に響き渡る。
「……それにしても…エレナを見てたらなんか眠くなってきたな……少しぐらいならいいよな……」
翌朝、エレナは視界一杯に映る美少年の顔に、目が点になったのは言うまでもない。