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12話


 寝室に戻ったハルトは、静かに眠るエレナの額にそっと口付けを落とした。そして、エレナの白銀の髪を一房手に取り、口元に近付けると、ほんのりと甘い香りが鼻をくすぶる。


「すまないエレナ。もう少し君に辛い思いをさせてしまう。だが……どんなに辛くても俺がお前を支えてやる。だから、他の奴に頼るなよ……」


 エレナに初めて会ったとき、ハルトの白黒だった世界が色鮮やかな世界へと変化した。

 一千年という途方もない歳月を一人で過ごしてきたハルトがずっと待ちわびていた存在、それがエレナだ。

 竜とその竜の番は魂により深く結び付いており、一目見た瞬間で自分の番かどうかが分かるという。まさにその通りだとハルトは思った。

 もしエレナがこの世から消えてしまっていたらと思うと、体の震えが止まらない。今でもふと目を離した瞬間、消えてしまいそうなぐらいエレナは儚い。

 六歳の頃は可愛いという言葉が似合っていたのに、十年という時間の流れでエレナは美しく、魅力的な女性へと変化していた。だからこそ、ハルトは納得できないでいた。エレナを手放し、他の女に目移りしたというシュルツ王子のことが。


「まあ、おかげで俺はエレナを手に入れることができた……しかし、俺のものを傷つけたことは後悔させてやる」


 それから一ヶ月、シュルバート王国が竜国に進軍を始めたという報告が入った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ハルトの遥か前方には、シュルバート王国の大軍がズラリと並んでいた。

 竜族の長である竜王自らが軍を率いることなど異例中の異例で、竜王がいるというだけで竜国の兵士達の士気が上昇する。

 人族であるシュルバート王国がが竜族である竜国に宣戦布告したという噂は、大陸全土に広がり、多くの国がこれほど馬鹿げた戦争などない、と口を揃えて言った。

 取り敢えず、ハルトは人化を解き、竜の姿に変化する。

 竜族で漆黒の竜の姿を取るのはハルトしかいない。竜族の軍に漆黒の竜が現れ、シュルバート王国の兵士たちにどよめきが起こった。竜王が出陣するという噂は聞いていたが、本当に出陣しているとは信じていなかったのだ。

 ある者は立てなくなるほど足が震え、ある者は戦場から逃げ出そうとした。


「やはり、竜王様がいるといないとでは竜騎士達の引き締まりが違いますなあ。敵の怯えようも情けないぐらいですのう」


 ハルトの側近であるホロンがそう呟く。ホロンは単身でシュルバート王国に乗り込もうとするハルトを引き止めた一番の功労者である。ハルトの狂気に当てられただけで失神する竜族もいるのに、このホロンはハルトを叱りつけ黙らせてしまった。


「ああ、やっとこの日が来た。取り敢えず、やり過ぎないようにしないとな。なんせ、俺の敵はシュルバート王国ではない。シュルバート王国を牛耳る奴らだ……」


 エレナは危ないので、この戦場には連れて来なかった。しかし、ハルトの近くには蒼き狼に変化したヴァンが控えている。


「ヴァン、我を忘れるなよ。お前の本当の敵はシュルバート王国の王城でビクビクと震えている奴らだ」


「分かって、います」


「……そうか。ヴァン、俺から離れるなよ。お前が傷ついたらエレナが泣く。俺以外のことでエレナが泣くなど……許すものか」


 ハルトはそう言い、空に向けて咆哮を放つと、空気がビリビリと振動する。

 両陣営で戦争開始の声が響き、竜族の戦士達が我先にと敵陣に向かって突進していく。一方のシュルバート王国の兵士達は、ハルトの放った咆哮に腰が抜け、使い物にならなくなっていた。

 それから竜族により一方的な蹂躙が始まった。

 シュルバート王国の兵士たちは、圧倒的な戦力の差に戦う気力さえもなくしているようだ。


「大人しく投降すれば、命だけは保証してやる」


 ハルトがそう告げると、シュルバート王国の兵士達はどんどんと武器を捨て始めた。

 勝敗は呆気なく決した。


「後は……ゴミ屑共の処理だけだな。腕が鳴る。ヴァン、行くぞ!」


「はい!」


 ヴァンやまだ動ける竜騎士達を引き連れ、ハルトはシュルバート王国の王城に向かった。



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